第1話 この限られた時間の中で
「あーあ、どぉすっかなぁ〜」
某都内M市、丘陵地帯に広がる住宅地。まだ美しい多くの緑が残る、自然に恵まれた土地。そんな住宅地の外れの一軒家、オレンジ色の屋根、その2階。この部屋の主、(おお) 新人(にいと)は、イスに持たれかかりながら唸り、困り果てていた。
学校で発表するレポ−トの内容―もといテーマがサッパリ決らない、というか思いつかないのだ。
このレポート、基本的にテーマは自由であるが、「合格点に達しないと卒業できない」という過酷な〜が出ている。この〜が悩みの種。まあ、大学でいう、いわゆる卒業論文=卒論のようなものだ。
「よしっ。」
反動をつけ上半身を起こし、卓上のPCを起動させる。
『カタカタカタカタ』
とりあえず、思いつくままに単語、テーマを「word」に打ち出してみる。
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「・・・ろくなもんがねぇ」
目前に表示されている己が内なるカオスに打ちひしがれ、頭を抱える。
しかし、それでもその中から必死に使えそうな単語(やつ)を探す。もう提出まであまり時間がないのだ。
「・・・ッダメだぁ〜」
そう力なく叫んで、そのまま後ろにあるベッドに大の字に倒れ込む。
眠ってしまいそうになるのを必死に堪え、思案を巡らし、考える・・・考える・・・。

そして気がついたのは夕方。夕日が差し込み、その光が部屋の中をオレンジに染め上げる。
夕焼けの向こうから聞こえるひぐらしの声と、豆腐屋さんのラッパの音。
「・・・結局寝ちまったわけか。」
ベッドの上で上半身だけを起こし、しばらくボォ〜っとする。自信の意志の弱さにほとほとあきれつつ、まだ寝ぼけている脳をなんとか回転させ、状況を把握するために体に指令を送る。
まず時計に目を向ける。針は長針短針共に「4」の文字盤を指し示していた。
次にカレンダー。レポートの提出〆切りは1週間後の月曜日、6時限目終了まで。
「ふむ、把握した。」
ベッドわきにある小さな引出しからアメを取り出し、口の中に放り込む。
彼、王 新人が本気で頭を使うときには、いつでもそこには糖分の存在がある。
“本格的に頭を使うときには糖分摂取(エネルギー)が欠かせない”というのは本人の談。
今回の件も、やっと本気になったということだろう。
糖分(エネルギー)供給を受け、新人(ブレイン)がその回転率を急速に上げていく。

ここは脳内の会議室。4人の人格(かげ)が楕円形の円卓を囲み、熱い議論を交わしている。
「我々は与えられた使命を果たすまで、退くことは許されんのだ!」
角刈りで軍服、いかにも軍人な男が一人、大演説会を開催している。すごい迫力だ。
「いや、今は一時撤退すべきだ。」
その演説に冷静に応答するスーツを着たビジネスマン風の男。メガネの位置を中指でクイと直す。
「ねぇもうあきらめましょうよ」
完全にあきらめムード漂う赤いチャイナドレスの女性。泣きボクロが印象的だ。
「はあ〜ダリーなぁ〜」
やる気のない若者代表、ロッカーの格好をした軽いノリのにーちゃん。無論モヒカン。
「なにを言う!ここで退けば、再び悪循環のループの中に飛び込むことになるのだぞ!?」
円卓に拳を叩きつけ、ツバを撒き散らしながら怒鳴る中年軍人。
「だが今は体力の回復が最優先事項だ。貴様も見ただろう、あの爆睡ぶりを。」
顔についたツバをチェック柄のハンカチで拭いながら返すメガネの男。ツバ攻撃には慣れているのか、顔色一つ変わらない。
「あっ、もしもし?カツ丼4つお願いします。っえ?住所?」
その激戦の横で、勝手に出前を注文するドレスの女性。
「おい、一つは天丼にしろよな。」
ちゃっかりと自分の注文を挟むロッカー兄貴。
「じゃあなにか!?貴様はレポートが提出できなくて卒業不可になってもよいというのか!!」
「だからといって、ここままの状態ではとても合格に値するものが出来上がるとは思えんがね。」
「30分後ですか?はい、わかりました。」
「じゃあそいつが来るまで俺は寝るぜ」

それから脳内時間で40分後、ようやく議会は決定を下し解散した。

「やっぱりこれ(・・)しかないか・・・」
そういって充電器にさしておいた携帯電話を手に取り、履歴画面を呼び出す。
その表情にはハッキリといた不安と後悔が見てとれる。
『ピッ』
会話ボタンを押し、受話部を耳に近づける。
「もしもし龍也?ああ、俺だけど・・・うん。実は、頼みがあってさ」
この龍也という男、新人の親友であり悪友なのだが、学校では風紀委員に常にマークされ、この町の商店街のブラックリストにも載っているという要注意人物だ。
日々、各地でゲリラ戦を展開している歴戦の猛者ではあるが、基本的に頼みごとは快く受けてくれる。しかし、それに見合う(・・・)莫大な報酬を要求してくるのだ。前例を挙げるなら、小学4年の夏休みの宿題。自由工作の手伝いをしてもらったら、その先2年分のお年玉が全額貯金から引かれていた。後にこの事実を知った新人は激しい後悔と共に誓ったのだ。
「金輪際龍也(ヤツ)には何も頼まん」と・・・。



あとがき

『おまけ』が随分と幅を効かせてしまってすいません。
これじゃ折角のボリュ〜ムも詐欺ですね。

えー、バトル物にしない流れをつくるのはムズカシイです。まあ、特に最初ですしね。
でもなんだか新鮮ですね、こういうの。
だから書いてるのは楽しいんです。
ハハハッ、どおだ!これならどう頑張ろうとバトルは起こせんだろう?
まあ、私の腐れブレインではこんなんが限界です。精進精進。

「クオリティあげていこう」という目標なのに逆にさげてしまいましたね。特に後半。
反省と後悔の渦です。次回に必ずいかします。



「納得」と「〆切り」が両立できることを祈って・・・。
ぷれぜんてぃどぅ by まりも神紙(ガミ)