AS高校課題研究制作作品
「てか寒っ!!」っあぁ〜、さすがにこの時期にカーテンは辛いわ。ちくしょー竹センのやつ、起こしてくれたっていいじゃない、っとに…。まぁ竹センの所為にしてもしょうがない。俺が全面的に悪いんだから。
その自業自得は放課後から始まる。そもそもあのコンディションで挑んだのがいけなかった…。
◇
「あ、こんなところにいた」
今週までに提出期限が迫った課題、なんとかぎりぎり片付けようとやっきになっているところへそいつは声を掛けてきた。
「んだよ、よっしーか」
なんちゃら良枝。何が面白いんだかいつもどこからか現れて構ってくる。ストーカーかっつの。苗字は前に言ってたが…忘れた。なんにしても“よっしー”で十分だ。静かな場所を求めて辿り着いた屋上端だったが、こいつのセンサーには引っかかってしまったらしい。
「竹センの課題だよ」
「竹中先生ね、あの恐ろしく長いやつかぁ」
もちろん既に提出が済んでるから言えるセリフだが、こいつがいうと厭味に聞こえないから不思議だ。
「どこまでいったの?」
そう言って、どこからか椅子を引っ張ってきて机の向こう側へと腰を下ろす。屋上だっつに、マジシャンかこいつ。携帯してんのか?ちなみに俺はちゃんと自分の教室から運んできたぞ。
「ん?あぁ、あと半分くらいか」
プリントをパラパラとチェックする。なってこった、まだ半分もありやがる。
「そ、それはかなりガンバらないとだねぇ」
俺の徹夜の成果を聞いて苦笑するよっしー。ぐっ、悪かったな。俺にはこれが限界だぃ。
「でもまぁ、誰にでも弱点ってあるよ」
俺が英語だけ極端に出来ないことを知っているよっしーがフォローを入れる。となるとお前の弱点はその光るメガネか?完璧人間。以前面白半分で奪ったらわたわたとして目の前の机に躓いて泣いてた記憶がある。スポーツ万能頭脳明晰の超人を倒す秘訣はメガネにあると知れだ。
「そういえば知ってる?昨日の騒ぎ」
ふと思い出したようによっしーが聞いてくる。さすが情報も豊富だ。
「昨日?いや、なにかあったのか?」
プリントから顔を上げずに答える。実際は欠伸をかみ殺すのに必死だったりするが。
「うん、それがね―」
要するに昨夜、校舎内に何者かが侵入し警報装が作動。警備員が出動する騒ぎになったのだという。犯人は捕まってないそうな。ふ〜ん、物騒やな。まぁここらへんの治安から考えるとそんなに驚くことじゃない。それとも俺が麻痺してるのか?
「へぇ」
俺にゃ関係ないねと聞き流す。
「最近物騒だよねぇ、入学時以来だよ〜」
そう、俺ら三学年が入学した当時は変質者等に注意するようにといった放送が毎日鳴り響いてたもんだ。そう考えるといまはまだ静かなもんだな。
「まぁ時期的なものなんじゃない?すぐ治まるさ」
3年に一回……オリンピックか?
「うん、そうだね」
一瞬オリンピック説に同意したのかと思いドキッとしたが、大丈夫、さすがのこいつも心の中は読めない…はず。
「おや、こんなところにいましたか」
とそこへ上から声が降ってくる。突然の第三者の出現に再びビクつく俺。声の主は俺のすぐ真横に立っていた。け、気配すらなかった…扉の音もせんかったし。こやつ、忍者か。
「あら先生、こんにちは」
一方よっしーはというと、まるで平然と挨拶までしている。超人に忍法は通じないらしい。さすが追う側の人間は違う。
「げ、竹セン…」
ここにきてようやく声をあげる。我らが英語教師、竹中教諭のご登場だ。ちなみに担任であったりもするから厄介だ。
「はい、こんにちは」
しっかりと挨拶を返す。このように律儀なやつだ。
「ところで涼さん、課題ははかどってますか?」
黒ぶちメガネに夕日を反射させ聞いてくる。その様は不気味を通り越して滑稽だ。しかしこいつもメガネ。…メガネになにかあるのか?
「あと少しです」
大嘘。何を隠そう、あれからまったく進んでません。
「そうですか。それはよかった。それじゃぁ、がんばってくださいね」
俺の嘘をあっさり見透かすよう、にっこり笑ってこの場からドロンパする竹セン。煙を立てて消えるのかと思い身構えるが、フツーに扉を開けて校舎へと入っていった。むぅ、やるな。
それからしばらくは静かな時間流れる。
よっしーは鞄から文庫本を取り出して読み出し、俺は課題―もとい睡魔との格闘を再会する。この学校は立地の条件上西日が強く、それが睡魔への抵抗に一役買ってくれていた。まぁ、それでも意識を保つのが精一杯ではあったが。ガ、ガンバ俺。
グランドから響いてくる運動部の活気が聞こえなくなる頃、
「じゃぁ私、そろそろバイト行くね」
そう携帯機能で時刻を確認すると席を立ち、よっしーが夜の労働へと出陣する。
「あぁ、いってら〜」
ひらひらと手だけ振って見送る。
「じゃあね。単位落としちゃだめだぞ涼ちゃん!」
「うっさい!ちゃん言うな、ちゃん!」
そういう声には自分でもわかるほど破棄が感じられなかったが、仕方がない。いまはこれが精一杯の抵抗だ。
「はいはい、涼“ちゃん”」
なにが嬉しんだか笑いやがって。ひとの話を聞けや。
こうして夕焼けに笑みを残してストーカー女は去っていった。
次に気が付くと俺は机に突っ伏していた。デコが痛ぇ。寝ちまったらしい。上半身を起こした勢いで卓上に敷かれていた紙が地面にハラリと落ちた。それをゆっくりとした動作で拾う。さぁ再開かと伸びをし、向き合う。しかし眼前のそれはもう、
「…すり替えの術…回収されたか」
たしか最後にある記憶が20枚目の設問Fだったな。ん〜、まぁ、2/3までは辿り着けたか。竹センは忍者だが鬼じゃない、これで赤点は免れるだろう。
「さて、そうとわかれば帰りますか」
辺りはすっかり真っ暗闇だったが、ぎりぎり閉門前だろう。出張してきた机と椅子と教室に戻す。そして胸にわいた不安をかき消すように扉、階段、一階の昇降口へと。風のように流れ走る。っと。ここで一応時間を確認しておく。電池残量1を湛えた我が愛機はその残り少ないいのちで、はっきりと主張していた。
「“20:37”」
…まずい。
この学校は19時には校門が閉まり、それとほぼ同時に防犯セキュリティの電源が入る。校門前と校舎の出入り口にそれぞれセンサーが設置してあって、それに引っかかると15分以内に警備員が駆けつけて来る…だったかな?たしか前に竹センが言ってた。
ここで竹センが言ってたことには、侵入するだけじゃなく外に出ようとしても感知されるから厄介だという。…厄介ってなんだ?まぁたしかにいまみたいな状況だと厄介なんだろうけど。
とにかく、これ以上進むと警備オッチャンが飛んできて大変面倒なことになるのは思い出した。だがものは試し。ひとつこの
………っぐ、だめか。さすがにいいところに仕掛けてありやがる。一筋縄じゃないかねぇわなこりゃ。30分ほど格闘してみたが無駄だった。開錠は問題ないんだがその先が…こうなると黒ぶちメガネでもない限り脱出するのは難しい。てか全出入り口の窓がワイヤー入りって、どんだけ警戒してんだよこの学校。まぁあとは窓をぶち割る手もあるが、生憎ガムテープは常備してない。片付けるのメンド…。
幸い明日は土曜日。
「まぁ一晩くらいならいいだろ」
泊まっていくか。
そうと決まれば話は早いと、校舎内で一番暖かいと思われる保健室に移動…なんでお布団ないの?
「………」
しばしその惨状の前に立ち尽くす。が、思い出した。
今日は一斉処分の日で、もちろん代えの布団が用意されてるはずだったのだが、発注に手違いがあり新しい物が届くのが二日ほどずれてしまったのだそうだ。と体育の時間佐藤が嘆いていた。いつもは仮病で有名な佐藤だが、そのあと青ざめた顔でうずくまってたとこを見ると珍しくマジだったらしい。南無三合掌だ。
仕方なく窓からカーテンを拝借きて、残っていたマットの上に敷いて簡易ベッドを作る。
「ふぅ、これで寝床は確保、か」
一息ついて手作りベッドに横になりつつ、夕方の昼寝があってかお目目パッチリなのよねぇ〜。
っとおぉそうそう、外泊するなら親に連絡しないと―
ピーピーピーピーッ
そのとき無常にも、ポケットからひとついのちが終わりを告げる音が。
「っってぇ!ビ、ビックリするじゃねぇかっ!!」
夜中の学校、それも人体模型見つめる保健室くらい怖ぇ場所はねぇぞ!
っあぁ〜ビビった。
もう寝る!寝ちまう!寝ちまおう!
「ふんっ」
そうして不貞寝だぃとばかりにバサッとカーテンを掛けてベッドのじ中へともぐり込んだ。寝心地は・・ん〜ゴワゴワ。最低。しかも厚手のはずなのに
「てか寒いわ!!」
◇
――で、いまに至るというわけだ。
いまになって落ち着いて考えてみると今日の俺寝不足のくせにテンション高過ぎだな。あぁ、徹夜明けはこれだからいかん。アドレナリンを回収せねば…。
そうして耳が痛くなるような静けさの中、やがて目蓋が重くなっていく。
眠りへと落ちるまさにその瞬間、それを狙ったように廊下からヒタヒタとした足音が響いてきた。夕方よっしーから聞いた話が脳裏を過ぎる。
カラカラと軽い引き戸が音を立てて開くのを聞き、身体を硬直させ頑なに目を瞑る。もう思考は恐怖の二文字で埋め尽くされていた。ただひたすらに早く過ぎてと祈るばかり。
近づいてくる気配。しかし予想していたものよりずっと小さい。なにかがおかしい。事実を確認するべく、頭まですっぽり被っていたカーテンから顔だけ出す。闇に浮かぶ緑の光球、唸るようにゴロゴロと鳴る。…ゴロゴロ?
「……猫かぁ」
一瞬わけがわからなくなり思考が停止したが、大丈夫、猫だ。黒猫ちゃんだ。
身体の強張りが一気に弛緩する。はぁ〜脱力〜。
「…お前も一人なのか?」
気配を辿ってきたのか。ただ迷い込んだだけなのか。俺はそんな小さく甘える客人を一晩の寝床へと招待することにした。入りやすいようカーテンの淵を持ち上げてやると、なんの遠慮もなしに中へと入ってきた。そのあまりといえばあまりの態度に思わず苦笑する。
しばらく品定めをするようにウロウロしていたが、やがて脇の横辺りで落ち着き丸まった。
歓迎の印にと頭を撫ぜてやる。摺り寄せるように顔を持ち上げ、ゴロゴロと返してくる。
気高くちいさな甘えん坊くれた、あたたかいひと時だった。
朝、目が覚める。いまは6時だろう。確認するまでもないが、ほらやっぱり。正面に掛かる、昨晩は見えなかった時計。ちょうど秒針が“1”を過ぎたところだ。環境が変わっても習慣というやつは変わらない。
上半身だけを起こし伸びをする。ふと枕元、目に付くものがあった。一泊のお礼だろうか。ちょこんとおネズミさんが置いてあった。煮ても焼いても食えないが、
「オーケー、受け取りましたよ」
ベッドから勢いよく飛び出しさっそく片付けに入る。念入りに、俺が来る前の状態へと。俺が不法侵入―犯罪者扱いされては堪らない。最後に“お礼”をゴミ箱へと埋葬し一晩の宿をあとにする。
目撃者を出すことなく帰宅しなければ。へいへい、すたこらっさっさと〜。
ぅおっと、諦めずに財布を弄ってたらテレフォンカード発見!
確か職員玄関とこに公衆電話が…しかもなぜかカード専用の嫌われ者。
「…電話すんべ」
どうせ嫌でもあと数十分後には家で会うことになるが、電話で怒りを和らげといた方がいい。我が家のルールでは基本的に外泊は禁止してないが連絡が絶対条件となっている。“無断外泊”いままで誰一人として冒したことのない禁忌。果たしてどんなお咎めが待ってるのか。
「…はぁ」
朝から気が重い。
吐いたそばから白くなる溜息。そうしてるうちに公衆電話に到着。ここまでくればと観念し、迷いなく自宅までプッシュする。
数回のコールの後
「はい、もしもし?」
出たのは母親。よかった。まだマシな方か。
「もしもし。俺だけど」
「…いまどこ?」
やや沈黙。息を吐く音が受話器越しに伝わる。
「ぇ、いいやぁ、そのぉ、よっしーん家出たとこだよ」
返ってきた意外にも静かな反応に面食らいつつ、さっき用意した常用の変化球で返球する。さぁどうだ。
「あぁ、良枝ちゃんからならさっき電話があったわよ」
フッ、既に手は打たれていたか。さらば…。
「“お子さん一晩も無断でお借りしてすみませんでした”って」
「へ?っという発音を寸でのところで飲み込む。よくわかんないけど好機。ここで逃すわけにはいかない。
「そ、そうなんだ」
さっきからドモりっぱなし。かっこ悪いぞ俺。
「まったく、女の子同士仲いいのはわかるけど、向こうの家にだって迷惑掛けるんだから」
「あぁはいはい」
フンッ。別にあいつとはそんなんじゃねぇよ。
「はいはいって、ほんとにわかってんの?んまぁいいわ。それじゃ早く帰ってらっしゃい」
そういって想像を絶する修羅場となるはずだった会話はあっけなくその幕を下ろした。
「っん〜」
どうにかお咎めなしで済みそうだと安堵し伸びをする。と、涙目の向こうに見知った人影。
「…出やがったな」
見まごうことなきやつだ。しゃがみ込んで昨晩の相棒にチーかまなんぞを与えている。この距離、気づかれてるか?いや、相手はあの超人ストーカー女だ。すべては計算済みで、俺の位置もわかった上であそこにいるに違いない。
「ぁ、涼ちゃん。早かったね」
ほらな。そういってまるでいま気づいた感を装って顔をこちらに向けてきた。
「うっせ。ちゃんいうな」
ささやかな抵抗を示して校門へと歩を進める。他にもイロイロと言いたいことはあるが、助けられた手前なにも言えん。うぜぇ。
「えへへ〜」
なんて声に出して笑ってやがる。さらにうぜぇ。しばらくこのネタ弄られるに違いない。これ以上そのニヤケ顔を見ていたくなくて目線を足元のチーかまへと向ける。が、そこにチーかまの姿はなく、かわりに舌なめずりしている黒いの一匹。丸ごと食いやがったか。昨日安売りしてた特大サイズだと思ったんだが。まぁ与える方も方だが。
「はぁ」
なんか、朝からすげぇな、おまえら。
なんか妙に関心しつつも門をくぐり、家路へ着く。
「ばいばいチョロ」
変な名前で呼ばれても、チョロは律儀に尻尾を一振り応えていた。
「っあ〜。晴れてんなぁキチショウ!」
名物の坂を下る中、晴天を仰ぎながら盛大に伸びをする。十二月上旬。道の落ち葉がカサカサと木枯らしに巻かれる、十二月上旬。
ここ最近の灰色天井が嘘のよう。今日は珍しく晴れてた。
あとがき
相変わらずといった具合に量はたいしたことない
でもまぁキャラとか気に入ってるからよしとする
前半は夜通し書いた部分なのでテンションが異常だ
が、これはこれで面白い
また新しく世界を構築できた
これから続けていく上でなによりもそれが収穫だ
拙く短いが おつかれ自分
うまうま
感想なんかくれると嬉しい
相変わらずといった具合に量はたいしたことない
でもまぁキャラとか気に入ってるからよしとする
前半は夜通し書いた部分なのでテンションが異常だ
が、これはこれで面白い
また新しく世界を構築できた
これから続けていく上でなによりもそれが収穫だ
拙く短いが おつかれ自分
うまうま
感想なんかくれると嬉しい