巣立ち
「あー、やっぱりここにいたぁ。」
「なんだよ、いちゃ悪いのか?」
この島では、岬の先端にだた一本だけ咲く向日葵がある。
地元の人たちには「おみおくり」と呼ばれ、若者の旅立ちを見送る花として大事にされてきた。
「今日はお祭りの準備があるんだよ?」
「そんなこと知ったこっちゃねぇや。」
最近では少子化が進み、そのことを知る若者は少なくなってきている。
「いま知ったもん!」
「オレには“こっち”の方が大事なの!」
しかしそんな中、世話をする少年がひとり。
「とにかく手伝いには行けない。じいちゃんにそう伝えてくれ」
「ぶ〜、わかった。じゃぁまたあとでね。」
「ん」
幼いとき沖に出て戻らなくなった両親。
帰らぬ両親を探すかのように海岸を放浪する日々。
そしてある日、出逢ったのがこの向日葵だった。
決して綺麗といえる花ではなかったが、みるものを包み込むような温かさがあった。
母親を失った少年にとって、その温かさはまさに母のそれであった。
少年はそれからというもの、雑草を抜き、柵を作り、毎日欠かさず水をやり続けた。
世話をしている間に何度かも見上げる度、少年は花が笑いかけてくれているような気がした。嬉しくなって笑い返す。温かい気持ちになった。
「よし、おわり」
日も落ち辺りが薄暗くなり始めた頃、村に松明の明かりが灯る。
それを頼りに少年は帰路についた。


翌朝、いつものように海岸線を走って岬に向かう少年。
到着すると、向日葵は枯れていた。
いつも笑いかえけるように見下ろしていた花も、いまは見上げる位置に。
呆然と立ち尽くす少年
突然だった。
昨日はどこにもそんなことを感じさせる気配はなかったのだ。
よろよろと心もとない足取りで近づき抱き上げる少年。
少年は泣いた。
大声で泣いた。
声が枯れても泣いた。
日が暮れるまで泣いた。


翌年、
「いってきます。」
岬。
そこには旅立つ少年。
そして芽吹いた新しい命があった。