「うえぇ〜ん!!グスグス・・・ぅわぁ〜ん!!」
小さな女の子が泣いている。僕はずっとそれを見ていた。
僕よりずっと小さな女の子。細い小さな指で、涙で溢れるまぶたを拭っている。
グスグス・・・と鼻息を漏らすが、まわりの大人は誰も気を止めようともしない。
ここはデパートの屋上。親子連れや小学生がよく集まる場所である。
きっとあの子は前者だろう。小学生には見えないし、きっと親とはぐれてしまったんだ。
女の子はまた大口を開け、泣き叫ぼうとした。
僕は女の子に近づくと、肩に手を掛けた。女の子は、驚いたのかビクッと震えた。
「どうしたの?お母さんは?」
「・・・・・。」
女の子は見ず知らずの僕に警戒してるのか、何も話してくれなかった。
それどころか、また泣き出しそうだ。今にも瞳から大粒の涙が流れてきそうだ。
僕は慌てて、女の子を笑わそうと必死であたふたしてみたけど、結局女の子を泣いてしまった。
どうしよう・・・と思ったその時、視界にソフトクリームの売店が見えた。
僕はポケットに手を突っ込み、入っていた小銭をジャラジャラと音をたて枚数を数えてみる。
うん、大丈夫。1つくらいなら何とかなる。
僕は急いで売店まで駆けていった。
ソフトクリームを受け取ると、それを女の子に差し出す。涙やら鼻水やらでぐしょぐしょになった顔がこちらを向く。
「どうぞ。食べていいよ。」
しかし、女の子は受け取ろうとしない。ぼ〜っとこちらを見ている。
さっきもそうだったけど、もしかして言葉が分からないのかな・・・?
そう思った僕は、もう一度手を差し出す。ジェスチャー作戦だ。
何度も向けられた事で気付いたのか、女の子はソフトクリームを受け取った。
女の子はとりあえず持ってみたが、どうすればいいのか分からない困惑した表情を見せている。ソフトクリーム、食べたこと無いのかな?
僕はソフトクリームを手に持っている振りをし、舌を出し、舐めるジェスチャーをする。
女の子は僕の顔を窺いながら、おそるおそるソフトクリームをペロっと一口舐める。
その瞬間、女の子は驚きの表情をし、すぐさま二口目、三口目を口にする。
そんなに美味しかったのかな?と僕は思った。
女の子はとても幸せそうな満面の笑顔を見せた。先程の泣き顔が嘘のようだ。
引き込まれるような柔らかい微笑み。少し赤く腫れたエメラルドグリーンの大きな瞳に、ソフトクリームが映し出されている。整った顔のバランスが、とてもかわいかった。
僕はそんな女の子を見て、ずっとこのままでもいいな、と、ふと思った―――――――
―――――――ハッ
何だ、いつの間に寝てたんだ?俺は。もう夜じゃないか!いかん、いかん。
しかし、10数年も前の事を夢に見るなんて・・・。そういえば、結局あの女の子はどうなったんだっけ?あの後の事が思い出せない。まぁいいか。
さてと。寝てしまった遅れを取り返さなければ。
点けっぱなしだったパソコンに体を向ける。
カタカタカタッ
キーボードを押す音が一人暮らしの部屋によく響く。
自分も随分タイピングの早さが上がったなぁ。感心、感心。
しかし、タイピングだけじゃレベルは上がらないぜ! うりゃ!おりゃ!
画面に映し出されているキャラクターがモンスターを倒していく度に、経験地が上がっていく。よ〜し。この調子で寝てしまった分の時間は取り戻すぞっ!

俺の名前は、若津(わかつ) 誠人(せいと)。現在大学1年生。
2年も浪人して入った大学も最近サボリがちな駄目人間だ。
一人暮らしも、親の仕送りで何とかなっている。バイトなど生まれてから一度もした事がない。つーか、したくない。
将来の事を考えると不安にはなるが、まだあと3年も先の話なので大して考えてはいない。
今日だって、大学をサボってゲームをする予定だったのだ。寝てしまったが。
浪人生活が続いたせいか、なかなか怠け者の現状を打破出来ない。このままではニートになってしまう。それは困る。だけどやる気が・・・・・「ぬあぁっ!!」
こんな堂々巡りの考えをしていても仕方が無い。一旦、ゲームを止めて外に行こう。
俺はドアを開け、暗闇の世界に出た。昼間の騒音など無く、音が全く聞こえない。
アパートの階段を降りて、両足が階段から離れたところで煙草に火をつける。この瞬間が堪らない。自室は禁煙なのだ。
とりあえず近くの公園に来てみた。もうすでに煙草は2本目だ。
フゥー、と白い煙を吹き出し、ベンチの腰を下ろす。
心地よい風が気持ちいい。あぁなんだか、また眠たくなってきた・・・。
睡魔の重圧に耐えられず、俺は瞼を下ろした。やべぇ・・・マジで・・寝そ・・ぅ・・。
ドオオオオオオン!!!
「うわあああああああああああっ!!!!!!」
なんだ、何が起こった!?地震か!?天変地異か!?隕石墜落か!?
公園のど真ん中に何か落ちてきたらしい。だが、砂煙が巻き上がり、前が何も見えない。
俺は手に持っていた煙草を、いつの間にか落としていた。
段々と煙が晴れてきた・・・。そこで俺は衝撃的な物を眼にした。