――――8.00m。
とてつもなく長い道程が、目の前に立ちはだかる。
――――8.00m。
その距離を考えるだけで、足が震え、心音が速くなる。
――――8.00m。
俺は果たして、こいつを超えることが出来るのだろうか?
スタートライン 〜白線の先に〜
ピッ!
勢いよく笛が鳴り響き、俺は走り始める。
全速力で駆け出し、目の前に近づいていく白線を意識し、歩数を合わせていく。
白線の前まで辿り着くと、地面を強く蹴った。
跳躍。
俺の体は宙に飛び出し、孤を描くようにして、やがて着地する。
勢いのついた体は止まりきれず、砂埃を巻き上げて砂地を滑って行く。
ある程度滑ったところで停止し、俺はやっと自由に動けるようになった。
「う〜ん、今イチ伸びが足らんなぁ」
笛の持ち主であり、陸上部顧問の先生が俺に告げた。
「この前の市大会じゃ、大会新記録を出したってのになぁ。相田、お前もしかして、まだ怪我が治ってないって事はないよな?」
先生は心配顔で、俺の顔を覗き込んできた。
確かに俺はこの前、部活の練習中に足を怪我した。といっても、全治一週間程度の捻挫だ。あれから一月は経ってるし、完全に治っている。
「先生、大丈夫です。もう一回やってもいいですか?」
「そう言ってお前、もう何回目だと思ってる?朝から動き過ぎじゃないのか?」
先生は呆れて、肩を竦めていた。
だが、俺はまだ諦めたくなかった。ここ最近、自分の練習が思うように捗らないのだ。それで今日の朝練にわざわざ先生にも来てもらったのに、その原因すら分からないなんて納得がいかなかった。
「とりあえず、もう授業が始まるから先生も準備せにゃならん。お前も練習は切り上げて、着替えて授業にちゃんと出席しろよ?」
先生はそう告げると、とぼとぼと校舎の方に歩いて行ってしまった。
仕方ないので、俺は一人でも続けようと助走位置に戻ったが―――
「おーい!相田ぁ!先生の話聞いてたかぁ!言うこと聞かないと、単位やらんぞ!!ハッハッハッ!!」
校舎の方から先生の怒鳴り声と豪快な笑い声が聞こえる。
しまった。
バッチリ見られていたらしい。心残りだが、バレてしまった以上、諦めざるを得まい。
俺はグラウンドに引かれた白線のコースから離れ、校舎の横にある部室棟に向かった。
ここ数週間、俺は記録が伸びるどころか、だんだんと落ちてきていた。
いわゆる、不調の状態だった。
「ショウちゃ〜ん!」
部室棟から着替えて出た時の事だった。
後ろから、俺を呼ぶ声が響きわたる。
俺を「ちゃん付け」する奴は一人しかいない。
このまま無視しようとも思ったが、さすがに気が引けるので振り返ってみる。
トコトコと、長い髪を揺らしながら彼女は俺のそばまで走ってきた。
「朝練?お疲れさまぁ」
「あぁ」
のんびりとした口調で、和やかな雰囲気を漂わせつつ、稲葉は話しかけてきた。
特にこちらから話すことは無いので、適当にあしらおう。
「まだ、調子悪いの〜?」
「……あぁ」
いきなり痛いとこ突いてくるな、おい。
「そっかぁ…。大丈夫だよ!ショウちゃんなら、すぐに調子良くなると思うよ!」
おもいっきり他人事だな。こいつ。
しかし、なんだかあまり怒る気がしないのも、稲葉の不思議なところの一つだ。
不思議なところと言えば、他にも色々とある。
こんなトロそうな雰囲気を醸し出しておいて、女子陸上部の期待のエースなのだ。
正直、初めて走っているのを見た時は、あまりの速さに驚いたが、今ではもう見慣れてしまった。
とは言え、俺は稲葉が少し苦手だ。
あまり人付き合いをしない俺にとって、稲葉のその独特の雰囲気と人懐っこい性格がどうしても好きになれなかった。
俺みたいな奴に話し掛けてくるなんて、物好きな奴なんだろう。
あと、「ちゃん」付けは止めて欲しい。
「でも、困ったねぇ。県大会、明日なのに…。」
「…………」
そう。明日は県大会だった。
県の強豪校の選手達が集まり、全国大会へのキップを手にする為に戦う大事な試合。
それまでに何とか不調を治したかったが、もう時間が無い。
このままでは、全国へは……。
「でもさ、明日まで、もうちょっとだけ時間があるから諦めずに頑張ろうよ!」
「そう、だな……」
稲葉の励ましの言葉に、返す言葉も見つからなかった。
放課後。
長い退屈な授業が終わり、俺にとっての最後の時間が訪れた。
この部活の時間で不調を治さなければ、もう時間は無い。
だが、朝と同じく何度跳んでも、前のように跳べなかった。
俺が何十回目かを跳ぼうとした時だった。
「相田。朝から練習し過ぎだ。お前の気持ちは分からんでもないが、過労で倒れたら元も子もないぞ」
「はい……」
仕方ない。木陰で少し休むか。
木陰に移ると、他の部員の練習風景をぼんやりと眺めた。
すると、一人の男が近付いてくる。
「お?これは我が校男子陸上部のエース、相田クンではないかね?」
「宇崎……。何の用だ?」
「いや、我がライバルの様子を見に来たんだが、その様子では相変わらずのようだね」
宇崎はニヤニヤしながら、俺の事を見ている。
どうやら、俺はこいつに喧嘩を売られているらしい。
宇崎マモル。
だらりと垂れた前髪が右目を隠し、こいつの気持ち悪さを象徴している。
男子陸上部の部員で、得意種目は俺と同じく走り幅跳び。
そのせいか、何かと俺につっかかってくる。俺はライバルだと思った事など微塵も無いが。
俺達の通う、栄門学園はいわゆるスポーツ推薦校だ。俺や宇崎、稲葉もそれでここに入ってきた。
宇崎は前の学校では名を馳せた選手だったらしいが、ここではさっぱりだった。
「俺を馬鹿にしに来たのか?お前も暇な奴だな」
「ん?今日は珍しく言うじゃないか。いつものクールな相田君はどこに行ったのかね?」
「うるさい。黙れ」
「ははぁ〜ん。よほど不調のストレスが溜まってるみたいだね。不調じゃあ、仕方ないか。でも、これじゃ市大会の時みたいに新記録は出せないね?お疲れサマ、不調の相田クン」
「―――っ!!」
思わず殴りたくなる衝動を無理やり抑え込む。
くそっ。今はこんな奴にかまっている場合じゃない。
俺は、宇崎から目を離し、グラウンドへ目を移す。
「ほほぅ、君もやっぱり好きなのか?相田クン」
「………?」
なんだ?何の事を言ってる?
まぁいい、こんな奴無視だ、無視。
「やっぱりかわいいよなぁ、稲葉メグミちゃん」
そう言われて、ハッと気づいた。
俺が見ていたグラウンドの先には、稲葉が走っていた。
練習中、いや運動をする時、彼女は長い髪を後ろで結んでいる。
いわゆる、ポニーテールというそれが、地面と水平になるような勢いで風に揺られていた。
「あの幼さを残したかわいい童顔、腰まで届く綺麗な黒髪、ブルマから出たスラッと長くて白い脚、おまけにスタイル抜群で、二つの大きな果実が今も揺れて――」
「どこ見てんだお前。それに俺はお前と違って稲葉に興味が無い」
「君はメグミちゃんの良さが分からないのかい?あの美貌を持ちながら、あの運動神経。彼女の得意な短距離走じゃ、男子部員ですら勝てないかもしれない」
確かに、女子陸上部の期待のエースと呼ばれる程の実力者だ。
明日の県大会でも、おそらく優勝を飾るだろう。
「でも、僕はそのどれでもなく彼女の純真無垢な性格に惚れちゃったんだ。誰とでも気兼ねなく話し合えて、困っている人には手を差し伸べる。僕も何度、メグミちゃんに助けて貰ったことか」
宇崎は犯罪者の様な気持ち悪い微笑みを浮かべ、彼女を眺めていた。
すると、稲葉も気づいた様子で手を軽く振り、にっこりと微笑んだ。
……どっちかって言うと、隣にいる俺の方に。
宇崎は気付いてか知らずか、手をぶんぶんと振っていた。
やがて振り終えると、宇崎は語り出した。
「……これだよ。僕がこんなにもメグミちゃんの事を想っていても、彼女はいつも君ばかり見ている。もう一人の陸上部のエースの君を」
「何が言いたい?」
「つまり、男子陸上部のエースになれば、メグミちゃんは僕を見てくれる気がするんだ」
「稲葉が俺に話し掛けてくるのは、同じ陸上部のエースだからって事か」
「そういうことさ。だから僕は明日の県大会で君を越える。おっと、勘違いしないでくれよ?
「はぁ?どうやって、前の俺を超えるんだよ?」
「簡単さ。君が市大会で出した大会新記録の7.63m。僕はそれより長く跳んで見せる」
そう言った宇崎の目には、固い決意があるように見えた。
俺はと言えば、宇崎の眼中に今の自分はいないという事に、少なからずショックを受けていた。
今の不調の状態では、俺は必要とすらされていないのだ。
「ん?待てよ?……そうだ!」
宇崎は少し思案した素振りを見せると、開いた掌に拳をポンッと叩き落とした。
「今度は一体なんだ?」
「こういうのはどうだい?明日の県大会で僕が君の記録を越えたら、君は彼女に近付くのをやめる。逆に、僕が君の記録を越えられなかったら、僕が彼女を諦めるっていうのは?」
「はぁ?ちょ――――」
「よし!それで決まりだ!そうしよう!明日が楽しみだよ!!」
そう言うと、宇崎は高笑いをしながらグラウンドに戻って行った。
大体、その賭けはおかしいだろ。
稲葉に惚れてるのはお前だけだし、いつも近寄ってくるのは稲葉の方からだ。
はぁ……。
「まぁ、いいか」
俺に損は無いし、あの記録には自信がある。宇崎なんかに破られるわけがない。
それよりも、今は自分の不調を治す事に専念しよう。
部活が終わり、帰り道。
帰路が同じ方向である俺と稲葉は、一緒に帰っていた。
「ショウちゃん、練習どうだった?」
「え?あ、あぁそうだな。あんまり良かったとは言えないな」
「そっかぁ……」
宇崎の奴が変な賭けを持ち出したせいで、変に意識してしまう。
それに、結局不調のまま、明日の大会に出ることになりそうだ。
県大会まで進む事は、出来ないかもしれないな……。
長い沈黙が続き、重苦しい空気が俺達を包んでいく。
そのまま数分歩いていると、T字路が見えてきた。稲葉とはここで別れる事になる。
「それじゃ……」
俺はそう告げて彼女に背を向けた。その時―――
「ショウちゃんはさ、いつも走る時、どんなコト考えてるの?」
「え?」
突然の質問に、俺は振り返って彼女を見つめた。
「わたしはね、走るのが大好き!だからね、走ってる自分を頭の中に思い描くの」
「…………」
俺は稲葉の言いたい事がよく分からず、黙り込む。
だが、話している彼女の目は真剣で、その瞳から視線を離す事は出来なかった。
「でも、ただ走ってるわたしじゃない。一番速く走っているわたし。
「新しい世界…?」
「うん。さっきまでのわたしじゃなくて、未来のわたしがいる世界」
俺には全然理解出来なかったが、何か真に迫る感じがある。
稲葉は突然、にぱーっと微笑みながら俺の両手を取った。
「おい、なんだよ?」
「明日ショウちゃんが勝てるおまじないしてあげる!」
そう言うやいなや、彼女は自分の白い指を俺の指に絡ませ、二人の両手は繋がりあう形になる。
当然、稲葉と向き合う形になる。少しでも顔を前に出してしまえば、彼女の唇に触れてしまいそうだった。
いくら恋愛感情を抱いてないと言っても、こんなに女の子と近付いたのは初めてだ。
心臓がドクンドクンと高鳴っていく。まともに彼女の顔を見ていられない。
ふと視線を下げると、開いた胸元から覗かせてる、彼女の豊満な二つのロケットが―――
「――――っ!?」
恥ずかしさに耐えられなくなった俺は、手を離そうとした。
「ダーメっ!まだ、おまじない終わってないんだからっ!」
細くて綺麗な彼女の指が離れなかった。一体、どこにそんな力が?
そんな事を考えてると、彼女は瞳を閉じて、
「明日、ショウちゃんが勝てますように………」
パッと彼女の目が開き、彼女の指が解かれていく。
あれ?もしかして………
「……終わり?」
「そうだよ?これでショウちゃんの優勝、間違いナシだねっ!」
それっておまじないでも何でもなく、ただの祈願なのでは……?
俺はそう思ったが、何故か言葉に出なかった。
「それじゃ、ショウちゃん。また明日ね!」
「あ、あぁ」
稲葉は自分の家の方へと、走り去っていく。俺は茫然と、立ち尽くしていた。
やっぱり、稲葉は苦手だ。
俺の手には、彼女の指の感触がまだ残っていた。
県大会当日は、よく晴れたいい天気だった。
心地よい朝の暖かさで目が覚め、体調も悪くない。
会場に辿り着いた頃には、太陽もいつものやる気を見せていた。
「やぁ、相田クン。調子はどうだい?」
「宇崎……」
こいつも、いつもと変わらないみたいだな。
今日はやはり気合いが入っているのか、自慢の前髪もサラサラ度が違う気がした。
いや、あくまで気がしただけ、だが。
「昨日の賭け、覚えているかい?」
「賭け?あぁ、そんなのもあったな」
昨日の今日で忘れるわけも無かったが、宇崎に賭けを意識されてると思われるのも癪なので、とぼけることにした。
「フッ。そんなに余裕をかましてしていられるのも、今だけさ」
「お前もな」
俺には損も得も無い賭けだと思っていたが、一つだけ得なことがあった。
こいつの悔しがる姿は、さぞ心がスカッとする事だろうな。
俺と宇崎の間に見えない電流が火走っていると、その間に稲葉が入り込んできた。
「えへへ、ふたりとも仲良いね!」
「俺が?こんなキモ前髪妖怪と?ありえない」
「そうそう、メグミちゃん。友達もいない根暗クンとなんか、誰も仲良くしないよ」
再び、宇崎との間に電流が火走る。
そんな俺達をよそに、稲葉は「え〜?そうかなぁ?」とか言って、ニヤニヤしている。
その時――――
「ねぇねぇ、あそこにいるの、栄門学園の相田ショウと稲葉メグミじゃない?」
「おぉ、マジだ。どうせ、この県大会も楽勝で突破だろうなぁ」
「そうね。私もあの子らみたいな才能があったらなぁ〜」
他高生の奴らがヒソヒソと話している声が聞こえた。
しかも俺が不調と知っているのか、いつも以上にタチが悪い。
こいつらは所詮、上を目指すこともなく敵わないと知ったら戦おうともしない。
ただ、口だけ。それだけの存在。
そんな奴らに、俺が負けるわけが無かった。
……今回までは。
不調の状態の俺では、こいつらにすら負けてしまうかもしれない。
まだ諦めたつもりは無いが、覚悟はしとかないとな……。
「あんなの気にすること無いよ、ショウちゃん」
そう言って、稲葉は俺の手をギュッと握った。
ふと、手を繋いでいるせいか、昨日のおまじないを思い出す。
「気にしてなんか無いさ。勝つのは俺だ。さぁ、さっさと準備するぞ」
「うん、そうだね!じゃあわたしは短距離走だから、また後でねっ!」
俺達はそのまま別れて、グラウンドの方へと向かった。
それを妬ましく見ている男が一人。
「むぅ〜、相田め……。今に見ていろよ?勝つのはボクだ……」
そうボソリと呟くと、宇崎も二人の後に続き、グラウンドへ向かった。
競技は、全6回の試技によって行われる。
予選でまず3回の試技を行い、そこで行われた記録の内、上位8名のみもう3回の試技を行える。
全ての試技を終えた時点で、一番長く跳べた選手の優勝となる。
当然、予選で一番長く跳べた場合でも、その記録は反映される。
平たく言ってしまえば、最初の1回で最長記録を出し、後は全てファールでも優勝である。
よりどれだけ多く跳べるかではなく、よりどれだけ長く跳べるか、なのだ。
しかし、長く跳んでいたとしても違反行為を行うと無効になってしまう。
それが、ファール。
主に、白線を越えて跳ぶ、着地した地点より後ろに体の一部を着く、審査員の合図から1分以内に試技を行わない、などがある。
白線付近では審査員が見ており、厳粛なチェックが行われている。
審査員は手に色の違う旗を持ち、それぞれがファールかどうかを伝えるための役割を担っている。
ファールの場合は赤旗、していなければ白旗を上に掲げる。通常は白旗が掲げられていれば、試技の有効となる。
俺は予選でその赤旗を2度掲げられたが、何とかギリギリで予選を通過した。
記録は6.38m。予選順位は7位。
不調とは言え、まずまずの記録だ。
ちなみに1位は宇崎の7.29mだった。
もうこの時点で、この大会の優勝者は決まったようなものだった。
『栄門学園、ゼッケンナンバー18、前へ』
放送アナウンスが流れ、俺は助走位置へと移動する。俺のゼッケンは18番。宇崎の奴は19番だ。
これから走る1回も含めて、俺はあと3回は走れる。
いや、あと3回しか走れない、の方が正しいだろうか。後の事も考えて、出来ればここで良い記録を出しておきたい。
俺が助走位置までたどり着き、軽く深呼吸をしてから、準備OKの合図を審査員に送る。
審査員は手に持っていた笛を口にくわえ、試技開始の音が鳴らす。
ピッ!
ここで勝負を決める為に全速力で駆け抜ける。
いい走り出し。スピードも出ている。白線までの歩数も完璧。いけるっ!
地面を蹴り、高く跳び上がる。
着地点をより遠くにする為、空中で反った体をくの字に折り曲げる。
地面に衝突し、衝撃が俺の体を襲う。
思わず後ろに倒れたくなるのを我慢し、そのまま前へと滑って行く。
滑り終わっても反動は止まらず、2、3歩、前へと歩き立ち止まる。
記録は?結構跳べた気がするが……。
後ろを振り向くと、そこには俺の期待を裏切るように赤旗が掲げられていた。
ファール。
どうやら、俺は知らずの内に白線を踏んでしまっていたらしい。
白線を踏む行為は実際よくやってしまうが、今日はもう3回目だ。
残す試技は、あと2回。これは、駄目かもしれないな……。
俺は、そんな気持ちでグラウンドからベンチに戻ると、そこには宇崎が立っていた。
「何か用か?宇崎」
「どうやら、賭けはボクの勝ちのようだね」
「まだ俺の記録を越えてないだろうが」
「今からキミに見せてあげるよ。キミの7.63mを越えた記録をね」
そう告げると、宇崎はグラウンドへと向かって行った。
宇崎の奴………。
すでに、宇崎は5回跳んで最長記録が予選の7.29mだった。
跳べるのは、あと1回のみ。
走り幅跳びの35cmとは近いようで届かない、とてつもなく長い距離。
おそらく、相当なプレッシャーが掛かっているはずだ。
『栄門学園、ゼッケンナンバー19、前へ』
宇崎を呼ぶ放送アナウンスが流れ、出番が訪れた事を意味した。
軽くストレッチをすると、宇崎は審査員に準備OKの合図を送った。
ピッ!
笛が鳴ると同時に、宇崎は走り出す。
自慢の前髪がその勢いで頭の上へと舞い上がり、隠れていた宇崎の右目が見えた。
いつものヘラヘラとした表情など、微塵も感じられない。
真剣なその表情は、その決意の現れであるような気がした。
白線が近付いていく。
そして、跳躍。
綺麗な孤を描くように、宙を跳んだ。
その跳躍距離はみるみる伸びていき―――
着地。
審査員は白旗を掲げた。試技有効。
宇崎が跳ぶのを見ていたベンチの選手達、スタンドの客達や応援団、コーチや先生達が静まり返る。
計測係が白線から宇崎の着地した地点までを計測する。
記録を電光掲示板に打ち込み、それを放送アナウンスが読み上げる。
『ただいまの記録――――7.71m』
「いよっしゃぁああぁあぁぁっ!!!」
宇崎の叫びがグラウンドに木霊し、彼はガッツポーズを決めた。
スタンドの客達や応援団がざわめき出す。
「おい、この県大会歴代記録ってどれくらいだよ?」
「たしか、7.69mだから、もしかして―――」
「た、大会新記録じゃねぇのか!?」
「おい、あいつ誰だよ?名前何て言った!?」
「すげぇ!あいつ凄ぇぞ!」
「キャー!わたし、初めて大会新記録誕生の瞬間に遭遇したー!」
スタンド席はもうわんやかんやで、大騒ぎ状態だ。
しかし、マジで越えられるとは。しかも県大会の新記録のおまけ付きで。
あれ?なんだ?
俺の心に、ポッカリ穴が空いたような……。
そこへ、バシっと何者かに背中を叩かれる。
「相田、残念だったな。先に新記録出されちまって」
「先生……」
「まぁ、あいつはいつもお前の影に隠れちまってたからなぁ。ずっと頑張ってたよ。お前に追いつく為に。でもまさか、新記録出すとはな。ハッハッハ!」
先生は宇崎の元へ行き、「よくやった!」と言いながら、宇崎の頭をくしゃくしゃにしにがら、頭を撫でている。
宇崎も大事な前髪をいじられているが、満更でもなさそうだ。
知っている。宇崎の事なら。
あいつがどれだけ必死にやってきたかって事も知ってる。それをいつも俺という存在が邪魔していた事も。
宇崎は、やっと超えたんだ。
俺は、それを悔しいとも思わず、素直に受け入れられた。
今回は完全に俺の負けだな……。
そこへ、先生からやっと解放された宇崎がやってきた。
「見たかい?相田クン!僕だってやれば出来るんだよ!」
「……そうみたいだな」
「さて、次はキミの番だな」
「え?」
「まさか、ボクのライバルであるキミがこれで終わり、じゃないだろう?」
「宇崎………」
もしかして、こいつ最初からその気で?
だから、あんな賭けを持ち出して突っ掛かってきたのか?
『栄門学園、ゼッケンナンバー18、前へ』
再びの放送アナウンス。
「相田クン。キミの凄さを見せてくれ」
「…………」
俺は宇崎に返事をせずに、グラウンドへと歩き出す。
正直、7.71mなんて跳べる気がしない。
宇崎の記録を越える為には、8.00mに近い記録、いや8.00mを越えなければいけないのだ。
とてつもなく長い道程が、目の前に立ちはだかる。
その距離を考えるだけで、足が震え、心音が速くなる。
俺は果たして、こいつを超えることが出来るのだろうか?
期待してくれる宇崎には悪いが、俺はもう……。
「しかし今回、相田はさっぱりだな」
「あぁ。前回の市大会で新記録出したらしいから、練習サボってたんじゃねぇの?」
スタンド席では言われ放題だな。仕方ない、か。
……やっと、分かった不調の理由。
俺は心のどこかで、あの7.63mという記録に満たされていたんだ。
だから、練習中に怪我をしたり、思っているように跳べなくなってしまった。
7.63mという距離を跳んでしまった事実と、その記録を破られるわけがないという自信が、
宇崎は、それに気付いていたからこそ、あんな賭けを持ち出してきたんだろう。
そして、俺の限界を打ち破るために跳んで見せた。限界がそこじゃない事を示す為に。
俺は助走位置に立ち、審査員に合図を送る。
ピッ!
駆け出しながら、自分の胸に空いた穴の事を考えていた。
確かに宇崎は、限界がそこではない事を教えてくれた。でも、それは同時に俺の中にある柱が折れてしまった事も指していた。
あの記録に満心していた部分があるなら、その記録が破られてしまった事に動じないはずがない。
頼るべき柱が無くなった今、何を思い、何を考えて走ればいいんだろうか?
俺は、白線を越えて先に行けるのだろうか?
あの白線の向こうには、果たして何が待っているんだろうか?
その問いにたどり着いた時、俺の脚は白線の前で止まっていた。
「あれ?相田の奴、止まっちまったぞ」
「何かあったのか?」
スタンドの客達がざわつき、赤旗が掲げられる。
ファール。
貴重な試技の回数を1回減らしてしまった。いや、回数などすでに関係無いのかもしれない。
俺にはもう、走る意味がよく分からなくなっていた。
審査員が駆け寄ってくる。
「どうした?体調でも悪いのか?」
「……いえ、大丈夫です。それより、続けてラスト1回、走っていいですか?」
「それは構わんが……」
「ありがとうございます」
審査員に礼をしてから、助走位置へと戻る。
もしかしたら、また白線の前で止まってしまうかもしれない。
でも、どうせこの気持ちで走るなら今でも後でも変わらない。早く終わらせてしまおう。
俺はそんな気持ちで最後の試技を行おうとしていた。その時――――
「ショウちゃあぁぁーん!!!ファイトぉぉおぉーっ!!!」
聞き覚えのある大声が、スタンド席から聞こえる。
スタンド席を見上げると、そこには見覚えのある少女がいた。
「が・ん・ば・れぇぇえぇええぇーっ!!!!」
どうやら、自分の種目の競技である短距離走は終えたらしく、首には金色のメダルがぶら下がっていた。
応援に来てくれた事に悪い気はしないが、それでも俺の気持ちが晴れる事は無い。
今の俺じゃ、稲葉の期待に応えられそうにない。
「負けるなぁー!!!ファ・イ・トぉぉおぉーっ!!!!」
やめてくれ。
もう、俺なんかに構わないでくれ。
稲葉の応援に何の返しもせず、俺は審査員に合図を送る。
審査員はその手に持つ笛を口にくわえ――――
「さいきょぉーのぉぉー!!自分をぉー!!!考えてぇぇぇーっ!!!!」
笛の音と同時に、稲葉の叫び声が鳴り響く。
俺の体は、その声に反応する様に停止した。
最強の…自分……?
ふと、昨日の帰り道の会話を思い出した。
―――ショウちゃんはさ、いつも走る時、どんなコト考えてるの?
―――わたしはね、走るのが大好き!だからね、走ってる自分を頭の中に思い描くの。
―――でも、ただ走ってるわたしじゃない。一番速く走っているわたし。
―――
………そうだ。
何て、大切な事を忘れていたんだ。
記録にばかりこだわって、一番大事なことを見失っていた。
俺は、記録の為に跳んでいるんじゃない。ましてや、誰かの期待に応えるために跳んでいるわけでもない。
好きだから、跳んでいるんだ。
そう。跳ぶのが好きだから、走り幅跳びをやっているんだ。
そっと瞼を閉じる。
「おい、相田の奴、また止まってるぜ」
「あいつ、もうダメだな。もう記録は伸びな――――」
俺の頭の中から、スタンド席にいる奴らがスッと消えていく。
「ショウちゃん………」
稲葉の姿も、消えていった。
次は――――
「君、競技はもう始まって―――」
注意をしてきた審査員の姿も消えていく。
同時にベンチにいる他の選手達、コーチ達、先生、宇崎の姿も消えていく。
そして、グラウンドも空も景色も消えていく。
残ったのは、何もない空間に引かれた短い白線のみ。
俺は、自分の走っている姿を思い浮かべる。
透明な何かから、やがて色が付いていき、もう一人の自分が現れる。
「よう。やっと会えたな」
そいつは、俺に語りかけてきた。
「ここ最近のお前は見てられなかったぜ。だが、俺ならまた7.63mだって跳べ―――」
「………違う」
「え?」
「お前は違う。
「な、なにを言って―――」
「もうその記録に興味はない」
もう一人の俺は、ボロボロと崩れて塵になった。
最強の自分とは。
それは、今この空間にいる自分自身。その存在こそが、そうである事を示していた。
行こう。新しい未来へ。
閉じた瞼を開ける。
そこには、頭の中に思い描いた何も無い世界があった。
俺は全速力で走り始める。
不思議と、体の重さなんて感じないくらいに軽かった。
早く、早く、早く跳びたい。
その気持ちだけが俺の中に溢れ、充満していく。
何故かさっきまで遠くにあったはずの白線は、目の前にあった。
そして、不安がまた押し寄せてくる。
あの白線を越えて先に行けるのか?
いや、先に進むんだ。俺は超える。越えてみせる。
俺は
そう気付いた時にはすでに、俺は跳んでいた。
いや、
走り幅跳びの選手が跳んでから地面に着くまで、約1秒と言われている。
俺には、その1秒が何十秒にも、何分にも、何時間にも感じられた。
飛んでいる。地面を、宙を、空を。
背中に羽が生えたような、そんな感覚に陥った。
あぁ、もっと飛んでいたい。
もっと高く、もっと長く、もっと速く。
……でも、知っている。
もうすぐ、この世界が終わってしまう事を。
永遠の様だった時間が、終わりに近付いていた。
ゆっくりと、地面へと降りていく。
そして―――――
「くっ……!?」
いつもの倍の様な衝撃が体を襲う。
脚は止まる事を知らずに、延々と地面を滑って行く。
勢いに負けて上半身がぐらついた。
だ、駄目だっ―――!
ここで倒れるわけには、いかない!!
「うおおぉぉおおぉおぉぉぉおぉぉっ!!!!」
俺は呻き声を上げながら、体勢を持ち直す。
止まれぇ―――――っ!!
渾身の力を振り絞り、脚に力を入れる。
すると、脚は滑るのをやめて止まった。
だが、今度は上半身がその動きに追い付かず、後ろから強く押されたように前のめりになる。
すぐに脚を前に出し、体重を移動してバランスを取る。
交互に脚を出していき、まるで、まだ走っているような状態になる。
やがてそれも終わり、俺を動かすモノは無くなった。
地面に夢中だった頭を上げる。そこには、元の世界が広がっていた。
いや、何かが違う。
そうだ。この世界には、音が無い。
ステージにも、ベンチにも、グラウンドにも人はいるのに、誰一人として声を発さない。
なんで―――――
「「「………………ぉ………」」」
「「「…………ぉおおおぉぉおぉぉぉっ!!!」」」
スタンド席から、歓声が聞こえる。
「おい、今の見たか!?凄かったぞ!!」
「めっちゃ跳んでたぞ!こりゃ、さっきの奴の記録超えたんじゃねぇか!?」
どうやら、みんな唖然としてたらしい。
しかし、そんなに俺は跳んだのだろうか?
後ろを振り向くと、そこには俺が滑った地面の跡と、白旗を掲げている審査員、それに計測係が今の記録を調べていた。
そして、電光掲示板へ記録を打ち込み、放送係が読み上げる。
「た、ただいまの記録………8.03m…………。」
再び、静寂が空間を支配する。
今度は数秒程度であった。
「「「……おおおぉぉぉおぉぉおおおぉぉぉっ!!!!!!」」」
先程とは比べモノになりない程の歓声が、グラウンドに響いた。
「8.00m超えって事は、もしかして日本のジュニア歴代記録に入るんじゃねぇのか!?」
「マジかよっ!?そんな奴が俺の同級生なんて!!」
「すっげぇ!!あいつすっげぇぇ!!!!」
「スター誕生だ!早くあいつの事調べろ!!」
「キャーー!わたし初めて歴代記録を超しちゃう人見たぁーーー!!!」
「おいおい…。宇崎といい、相田といい……。今年の陸上は化けモンばっかなのか?」
スタンド席以外にも、ベンチにいる選手や、他の競技中の選手もこっちを見ている。
俺はホントに8.03mなんて距離、跳べたのか?信じられない。俺は、跳びたくて跳んだだけなのに。
ふと、スタンド席にいる稲葉を見た。
彼女は俺を見つめて微笑んでいる。
その瞳から一筋の何かが零れ落ち、何かをつぶやいた。
歓声に包まれたスタンド席からは何も聞こえなかったが、何故か俺にはその言葉が伝わってきた。
瞬間、俺の心が何かに締め付けられた。
あれ?何だこれ?胸が苦し――――
「よくやった!よくやったぞっ!!相田ぁ!!それでこそ俺の生徒だ!!ハッハッハッ!!」
先生が俺の背中やら頭やらをバシバシ叩いてくる。
痛い、痛いって。痛いっつーの!!
俺はやめろと言わんばかりに、その大きな手を掴もうとした。が――――
「先生……!」
先生は泣いていた。
厳しい先生の、意外な一面を見た気がした。
何故だろう。不思議な気持ちになる。
「俺はお前や宇崎の様な生徒を持てて、ホントに良かった!お前達は、俺の誇りであり、宝物だっ!!ハッハッハッ!!!」
その間も、先生は泣きながら俺の体をバシバシ叩いてくる。
だから、痛いって!力強すぎなんだって!
そんなに強く叩いたら、
「ハッハッハッハッハッ!!!!」
グラウンドには、大きな歓声と先生の豪快な笑い声が響いていた。
日も暮れて、空が真っ赤に染まっている。
県大会は終わり、俺の首には金色のメダルが下がっている。俺は、県大会で優勝を飾った。
学園の連中とはもう別れ、俺は帰路を一人で歩いている。
とある曲がり角で、よく見知った男が立っていた。そいつは、自慢の前髪をくしでセットし直していた。
「……宇崎」
「やぁ、相田クン。君なら何か凄い事をやるとは思っていたけど、まさか8.00m超えの記録を出すとは思わなかったよ。それも、日本の歴代記録に載っちゃう程の記録を」
結局、宇崎は俺に続いた着順だった。
こいつの頑張りは、またも報われなかった。そうしてしまった張本人の俺には、掛ける言葉が見当たらない。
「……でも、それでこそボクのライバルだ。そうでなくちゃ、面白味がない」
「宇崎………」
「知ってるかい?壁ってのは、高ければ高いほど登った時に気持ちいいんだってさ」
宇崎の目に、賭けを持ち出してきた時と同じモノを感じた。
どうやら、こいつに心配は無用だったみたいだな。
そうだ。あの賭けも、俺のやる気を出させるためにしてくれたんだよな。
俺はみんなの支えがあって8.03mも跳べたんだ。だから、あの賭けも無効だろう。
「宇崎、賭けの事なんだが――――」
「え!?やっぱり覚えてた!?あ〜〜〜、言わなければ良かったぁ〜〜っ!!」
「あれは俺の為に――――」
「……よし!分かった!ボクも男だ!正々堂々と約束は守ろうじゃないかっ!!」
「だから――――」
「メグミちゃんの事は諦めるよ!!くぅ〜、ちくしょ〜〜〜っ!!」
駄目だこいつ。人の話聞いてないし。なんか勝手に泣いてるし。
どうやら、あの賭け自体は本気だったみたいだな。
「二人とも、こーんなところでなにしてるのぉ?」
「「え?」」
突然、ひょこっと噂の本人が現れ、俺達はぎょっとする。
俺達は目で会話し、意志の疎通を図った。
――今の話、聞かれたか?
――いや、多分この様子だと聞こえてないはず。
作戦会議終了。各自、持ち場へ戻れ。
「いや、たまたま会っただけだよ」
「そうなんだぁ。あ、今日はおめでと!ショウちゃん!」
彼女は微笑んだ。心から祝福してくれるように。その笑顔が、俺の心にスッと染み渡る。
稲葉には、一番大事なことを教えて貰った。
跳ぶのが好きという気持ち。もう、忘れたりなんかしない。
「もしかして、おまじないのおかげかなぁ?」
「ハハッ、そうかもな。稲葉も短距離走で―――」
あれ?何故か、二人は俺を見て固まっている。
どうしたんだ?
「ショ、ショウちゃんが………」
「笑った………」
おい。なんかひどいこと言われてないか、俺。
二人は、わなわなと震えている。
「あ、あれは、相田クンじゃない…。相田クンの皮を被った偽者だ!本物の相田クンはすでに殺されてて、奴はこの地球を支配しようと―――」
「死ねっ!!」
「がはぁっっ!」
宇崎は俺のラリアットを食らい、1回転しながら吹っ飛んでいった。
このキモ前髪妖怪め。あんまり調子くれたこと言ってると、魚の餌にしてやんぞ。
いや、もうなってるか。宇崎は地べたに這いつくばっていた。
「あはは!!もう、ショウちゃんたら冗談だよぉ!ゴメンゴメン!」
「俺だって人間なんだから、笑う時もあるってーの」
顔をぶすっとさせながら、俺は言い放った。
決めた。もうこいつらの前じゃ笑わねー。笑顔のえの字も見せてやらねー。
「ホントにゴメンって!でも、今日は良かったね!不調も乗り越えられたし、いい記録も出せたしね!」
「……そこは感謝してる。稲葉のおかげで、8.03mなんて距離跳べたんだ。ありがとな」
「えぇ!?ショウちゃんからお礼なんて、なんかくすぐったいなぁ〜」
俺と稲葉は顔を真っ赤にして、見つめ合った。
ドクン、ドクン、と鼓動が高鳴り、お互い照れ合う。
そして――――その二人を見ている男が一人。
「はいはい。お邪魔虫は退散ってね。賭けの事もあるし」
宇崎は腰を起こすと、立ち上がろうとする。
そこへ、細い腕が彼の頭へ伸びていく。
「へ?」
気付くと、彼は稲葉に抱かれ頭を撫でられていた。まるで小さな男の子をあやすように。
「ヨシヨシ。宇崎クンも今日の大会、惜しかったね!次はショウちゃんに負けないでね?」
「……ひゃい、ぎゃんばりましゅぅ………」
もう宇崎に入る力などなかった。
それもそのはず。撫でられている頭より、奴の顔面に当たってる二つの大きな果実の方が効果は絶大だ。
一撃で宇崎を骨抜きにしてしまうとは。恐るべし、稲葉。
――――って、
「それ、やり過ぎだから稲葉。宇崎、死ぬぞ」
幸せ過ぎな意味的に。
「え〜?なにがぁ?………あれ?宇崎クン、血がいっぱいだよぉ?」
何故か稲葉の服には、一滴の染みもつけないという驚異的な宇崎の技により、彼女は無事だった。奴の服は血だらけだったけど。
宇崎は稲葉から離れ、無言でスッと立ち上がる。
「……相田クン、賭けは守った。ボクはホントに一度諦めた。でも、また好きになってしまったのなら、それはもう運命としか言いようがないんじゃないかねっ!?」
音量のスピーカーを小から大に移動させていくように、宇崎は叫んだ。
いや、それまだ諦めきれてないだけだし。あと、まだ鼻血出っ放しだし。
「フハハハハッ!また会おうじゃないか、相田クン!さらば!!……メグミちゃんも、またね!」
そうして、奴は去って行った。鼻血をたらしながら。
どうせ明日学園で会うだろうに。明日からは、キモ前髪鼻血妖怪と呼んでやろう。
……前の俺だったら、こんなに宇崎と絡む事も無かったんだろうな。
稲葉とも話す事なんか全然無かっただろう。
俺はあの白線を越えてる事で、何かが変われた気がする。
白線の先には、俺の知らない世界が広がっていた。
今まで感じた事の無い感情、触感、景色が満ち溢れていた。
あれは、スタートラインだったのかもしれない。
過去の自分から、新しい未来の自分へ生まれ変わる為のスタートライン。
俺は、またここから始める。
この新しい世界で、新しい自分の新しい物語を創り上げる。
「な〜に、かんがえてるのっ?」
「ん?あぁ。ちょっとね。それよりも稲葉、話したい事があるんだ」
―――だから、踏み出そう。
―――そうやって、人は大きくなっていくのだから。
あとがき
何となく書きたいので久っ々に書いてみたいと思います。
まず、謝罪から。
当初2800のキリバン企画が上がった時に、「よし!書こう!そして京都へ行こう!」と筆っていうかキーボードを手に取ったんですが、案の定、文の量が多い事、多い事。〆切に間に合わない上に15000字を越えるという自分でも驚きの結果。ごめんね。
一応、企画のメールが来たその日から書いてたんですけどねぇ?いかんせん、文の量が多い事、多い事。あ、同じ事また言っちゃった。僕のやる気も失せる事、失せる事。
本当は、とある人がこっちにいる間に(“あいだ”って打つと、相田に変換されるんだよね。どうでもいいけど)、書きあげたかったんですけど無理でした。Orz。
あと、テーマとも若干違うし。これはキリバン企画じゃなくて、俺自身の短編小説になるのかな?でも、書きたいもん書けたし、、、、、いいよね!(何
この物語は、高2の時、とある人に「漫画のネーム描こうぜ」って言われてネームにした作品です。5pしか出来なかったけど。難しいんですよ、ネーム。コマ割りとか相当センス要ると思うんですよね。あ、話がそれましたね。
まぁ、あっためてた作品という事ですよ。しかし、ここまでハッキリと物語にしていなかったので、結構詰まりまくりでした。なので、ところどころ文章があれ?ってところもあるかもしれませんが、そこんとこはご堪忍してください。
もうなんか書くことも無いので、世界観の説明でも。とりあえず、キャラの名前は五十音順です。下の名前は適当です。あ=相田、い=稲葉、う=宇崎、え=栄門学園、っていう感じです。
深く作中では語ってないですが、栄門学園はエリート選手達が集まる私立の高校です。他にもきっと、凄い陸上部の選手がいるんでしょうが目立ちません。ドンマイ部員達。歴代記録の話はホントです。相田は凄い奴です。大したもんだ、ハッハッハ!
というわけで、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
では、また会える事を祈ってます。
何となく書きたいので久っ々に書いてみたいと思います。
まず、謝罪から。
当初2800のキリバン企画が上がった時に、「よし!書こう!そして京都へ行こう!」と筆っていうかキーボードを手に取ったんですが、案の定、文の量が多い事、多い事。〆切に間に合わない上に15000字を越えるという自分でも驚きの結果。ごめんね。
一応、企画のメールが来たその日から書いてたんですけどねぇ?いかんせん、文の量が多い事、多い事。あ、同じ事また言っちゃった。僕のやる気も失せる事、失せる事。
本当は、とある人がこっちにいる間に(“あいだ”って打つと、相田に変換されるんだよね。どうでもいいけど)、書きあげたかったんですけど無理でした。Orz。
あと、テーマとも若干違うし。これはキリバン企画じゃなくて、俺自身の短編小説になるのかな?でも、書きたいもん書けたし、、、、、いいよね!(何
この物語は、高2の時、とある人に「漫画のネーム描こうぜ」って言われてネームにした作品です。5pしか出来なかったけど。難しいんですよ、ネーム。コマ割りとか相当センス要ると思うんですよね。あ、話がそれましたね。
まぁ、あっためてた作品という事ですよ。しかし、ここまでハッキリと物語にしていなかったので、結構詰まりまくりでした。なので、ところどころ文章があれ?ってところもあるかもしれませんが、そこんとこはご堪忍してください。
もうなんか書くことも無いので、世界観の説明でも。とりあえず、キャラの名前は五十音順です。下の名前は適当です。あ=相田、い=稲葉、う=宇崎、え=栄門学園、っていう感じです。
深く作中では語ってないですが、栄門学園はエリート選手達が集まる私立の高校です。他にもきっと、凄い陸上部の選手がいるんでしょうが目立ちません。ドンマイ部員達。歴代記録の話はホントです。相田は凄い奴です。大したもんだ、ハッハッハ!
というわけで、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
では、また会える事を祈ってます。