―二○○一年 一月一日
西暦が二十一世紀に変わった、最初の正月。
地球に飛来した巨大隕石が日本・新宿に落下した。
その隕石は落下地点の周辺地域を壊滅させただけではなく、その衝突時に生み出されたエネルギーが東京と神奈川の大地を大規模に隆起させ日本本土と分断させた。
それに日本は首都圏全域の機能を失い、混乱のふちに陥ることとなる。
さらに、その隕石が起こしたのは、大地の隆起だけではなかった。
その、隕石には宇宙より飛来した未知のウイルス、後に『アポカリプスウイルス』と呼ばれるウイルスが隆起した大地に蔓延した。
そのウイルスは人体には影響はないものと当初判断されていたがそのウイルスは人に感染すると『異能』と呼ばれる不思議な力を呼び覚ます事となる。
それを危惧した日本本土は、隆起した大地にいる人々を大地の外へ出る事を禁じた。
これが後に、『アポカリプス事変』と呼ばれる一連の出来事である。
―二○三○年、本土、中等教育教書より抜粋
第一話 ケンジとチヅルとトシオ
「…ん…ちゃん…ケンちゃん」
体を誰かに揺すられる感覚。その揺れは寝ている自分に意識を覚醒させようと小刻みに体に伝わってくる。
「ん…あと一時間。」
「それじゃあ朝ごはん食べれなくなっちゃうよぉ…」
もそもそと動くと少年は布団に潜って行く。
そんな、少年に少し泣きそうな声が少女の声が届くが睡魔には勝てないと無視を決め込んだそのときである。
「ケっンジくーんあっさですよー♪」
今まで聞こえていなかった第三者の声と共に、
「ぐはっ」
寝ていた少年の腹部に痛みと共に衝撃が走ったのだった。
「トシオ、てめぇ人の鳩尾に蹴り決めてんじゃねぇよ。」
蹴りを腹部に決められ強制的に意識を覚醒させられた少年―月山ケンジは朝食が並べられたテーブルの傍にある、イスを引き寄せ座る。
「チヅルちゃんが優しく起こしてるうちに起きないのが悪いんだろ?いやぁそれにしても悪いねチヅルちゃん。俺まで朝飯ご馳走になって。」
ケンジの腹部を蹴った張本人―浅井トシオは悪びれもなくケンジに言った後、朝食を用意してくれている少女にお礼の言葉を述べる。
「いえ、私もケンちゃんもお世話になってますから。」
そう言いながら少女―野上チヅルは入れてきたお茶をケンジとトシオと自分の前に並べた。
「ってかトシオてめぇ人の家で飯食うなら金払えっ!」
「払うんだったらお前にじゃなくてチヅルちゃんにだな。」
「んだとっ!」
「しょうがないよ。ケンちゃん、お金の管理できないし。」
「ついでに言えば、掃除に料理に洗濯、家事関連はチヅルちゃん頼りだしな。」
「甲斐性なしのろくでなし、だね。」
「はい。すいません。それにクズとうすのろを足してもいいです。」
がっくりと肩を落とし、トシオとチヅルの連携攻撃にあえなく撃沈した。
そんななか彼らの朝食時間は過ぎていった。
朝食の後、家を出て、荒れ果て舗装されていない砂利道を三人並びながら歩いていた。
二○○一年の隕石落下井以来、旧東京地域から復興が始まっているが、大地の7割は荒廃した大地が続いている。
「学校なんて面倒だな。」
「しょうがないよケンちゃん。私達そのお陰で生活保護のお金ももらえてるんだから。」
「わかってるっての」
ケンジとチヅルは幼馴染であり、巨大隕石の落下が原因で互いに両親を失った。
両親を失い、隆起したこの大地に取り残された二人は互いに支えあいながら生きている。
「しっかし、都市部は大分復旧してるってのにこの辺はぼろぼろだな。」
荒れ果てた大地を横目にトシオは呟く。
「しょうがねぇよ。旧東京組にいる大人達は本土の奴らにへいこら頭下げてやっと復旧できる状態を保ってんだからよ。」
ケンジは心底嫌な表情を浮かべ呟いた。
ケンジの家から十五分程度歩いたところにある学校。
『AS学園』それが三人が通う学校の名前である。
「え〜本土からの支援により校内設備等も粗方整い…」
登校した三人に待っていたのは、テスト、宿題に並ぶ『学生三大苦行』の一つ、学園長の長話である。
「全体朝礼だるい…」
あくびをかみ殺しながらケンジは学園長の長話を聞いていた。
チラリとチヅルとトシオを見てみると、チヅルは真剣な表情をして校長の話を聞いており、トシオにいたっては鼻提灯を作って立ったまま眠っていた。
「え〜また、最近になって異能能力者『アポカリプスホルダー』による犯罪も増えてきております。また組織も出来上がっているようなので登下校時は十分に気をつけ集団行動を心掛けるように。」
その一言で学園長の話は終わった。
教室に戻る途中、トシオを見かけたケンジはトシオに声を掛ける。
「なぁトシオ。『アポカリプスホルダー』の組織って知ってるか?」
「まぁ噂程度だが『九龍』って言うらしい。」
「『九龍』ねぇ…」
「構成人数とかはわかっていないが、全員『アポカリプスホルダー』でいて、なおかつ俺達と年齢が近いらしい。」
「まぁ、俺達には関係ないだろうがな。」
「だな。」
二人はそんな会話をしながら教室へ戻っていった。
『九龍』と本土のいざこざに自分達が巻き込まれる事をケンジたちはその時知る由もなかった。
byJTR