湯気がわきたつ風呂の中。
ケンジは今日一日の事を振り返り、かなりぐったりした。
彼らは修学旅行で京都に来ていたのだが、
「はぁっ〜」
当のケンジは楽しむどころか、「彼ら」の巻き起こした事のせいで
ものすごい疲労感を感じていた。
「何でお前らがここにいるんだよ!」
ケンジは東京駅のど真ん中でつい怒鳴ってしまった。
怒鳴った相手は、ついこの前まで自分を狙っていた(らしい)あの2人だった。
「忘れたのか?俺だってこの学校の一員だぞ?参加しても構わないはずだ。」
「だよねー。」
レオとユナは、そう言うとケンジの前から去った。
「ケンジ・・・まあ、基本的にあいつらはいいヤツらだと思うけど・・・」
「トシオ・・・それ、あまり説得力ない。」
トシオのフォロー(になっていない)を流し、ケンジはその場で頭を抱えた。
「アガリだ。リーチ一発ツモ三色ドラ三。倍満だな。」
行きの電車内の一角で、レオの情け無用の声が響いた。
「ゲーッ、またかよ!」
「ああ、私の小遣いが・・・OTL」
レオ、トシオ、ユナ、ケンジの四人は電車内で麻雀を楽しんでいた。
「おい、早くお前ら点棒よこせ」
「はぅう・・・」
「何だよ!これじゃあレオの一人勝ちじゃねーか!」
「ふん、勝負の世界は運と実力だ。・・・どうだ?今なら
お得な学生ローンを開設してやろう。もちろん利子つきで・・・」
「ふざけんなぁぁぁっ!」
ケンジは頭を抱える事しかできなかった。
清水の舞台での彼の苦労はハンパな物ではなかった。
「レオ、・・・一つ言いたい」
「なんだ、ケンジ」
「お前、ここまで来て電○文庫を読み耽(ふけ)るなよ」
「いや、なかなか面白いぞ。この『ま○ら○』という小説はよくできている。
ストーリーの構成もしっかりとしているし、何より人物がいい。」
「いや、もういいから」
ケンジがレオの小説トークに気を削がれまくっていた、その時たっだ。
舞台の方で大きな悲鳴と怒声が聞こえた。
「なんだ!?」
「行くぞケンジ!」
「・・・で、チヅル。これはどういう事だ?」
ケンジの目の前には、半死半生のヤクザ3人と、その上で未だに攻撃の手を休めない
ユナの姿があった。
「えーと、私がヤクザにからまれていたのをユナさんが助けてくれたの・・・
その時のユナの顔、まるで竜みたいで・・・」
「OTL」
「まあ、殺さなかっただけマシかな?」
レオの気休めにもならない一言を完全にスルーして、ケンジはその場にへたり込んだ。
人がざわめくロビー。
・・・色々と感想していて、情けなくなった自分を慰めるように、
ケンジはコーヒー牛乳を飲み干した。
「おい」
「ぶはー。!!何なんだよ!いきなり背後からせまるなよお前は!」
いきなり現れたレオに、盛大にコーヒー牛乳を浴びせてケンジは怒鳴った。
「いや・・・ただ、班長のチヅルさんが何処に行ったか聞きたかったのだが・・・」
「ああ、すまん。あいつなら、まだ風呂のはずだ」
「そうか、すまなかった」
そう言い残すと、レオはコーヒー牛乳臭くなった体を洗う為、もう一度
風呂へと向かった。
「ケンジ、お前もう寝るのかよ」
トシオは部屋で寝っ転がっていたケンジに話掛けた。
「ああ。俺はもう疲れた。頼むからこのままにしてくれ・・・」
「そうか・・・ておい!レオ!その『ニー○ルワー○』はなんだ!」
「見ればわかるだろう。早く山札から5枚捨てる。」
「このおぉぉぉ!」
「頼むから・・・」
ケンジの嘆願は2人には全く届いてなかった。
「そうか・・・こっちには『適格者』は居ないか」
「いやあ、まいりましたわ。レオはんの言いつけでここまで調査しましたんやけど、
なかなか見つからないもんですわ。」
レオは夜中の、誰もいないロビーで、灰色の髪の少年と話していた。
「ふむ、まあいいだろう。調査はもういい。関東の戻って来い。」
「おおきに。ずっと待っておりましたけん。ほな、失礼しまっさ」
直後に灰色の髪の少年は消滅した。
「向こうで会おう・・・[火竜]ムスペル」
彼はその一言を言い残し、部屋へと引き返した。
彼も疲れていたのだろう。
部屋の中に隠れていた2人の少女に、彼は気付くことなく眠りについた。
第11話 旅行
byキング