第11話 旅行
湯気がわきたつ風呂の中。
ケンジは今日一日の事を振り返り、かなりぐったりした。
彼らは修学旅行で京都に来ていたのだが、
「はぁっ〜」
当のケンジは楽しむどころか、「彼ら」の巻き起こした事のせいで
ものすごい疲労感を感じていた。


「何でお前らがここにいるんだよ!」
ケンジは東京駅のど真ん中でつい怒鳴ってしまった。
怒鳴った相手は、ついこの前まで自分を狙っていた(らしい)あの2人だった。
「忘れたのか?俺だってこの学校の一員だぞ?参加しても構わないはずだ。」
「だよねー。」
レオとユナは、そう言うとケンジの前から去った。
「ケンジ・・・まあ、基本的にあいつらはいいヤツらだと思うけど・・・」
「トシオ・・・それ、あまり説得力ない。」
トシオのフォロー(になっていない)を流し、ケンジはその場で頭を抱えた。


「アガリだ。リーチ一発ツモ三色ドラ三。倍満だな。」
行きの電車内の一角で、レオの情け無用の声が響いた。
「ゲーッ、またかよ!」
「ああ、私の小遣いが・・・OTL」
レオ、トシオ、ユナ、ケンジの四人は電車内で麻雀を楽しんでいた。
「おい、早くお前ら点棒よこせ」
「はぅう・・・」
「何だよ!これじゃあレオの一人勝ちじゃねーか!」
「ふん、勝負の世界は運と実力だ。・・・どうだ?今なら
 お得な学生ローンを開設してやろう。もちろん利子つきで・・・」
「ふざけんなぁぁぁっ!」
ケンジは頭を抱える事しかできなかった。
清水の舞台での彼の苦労はハンパな物ではなかった。
「レオ、・・・一つ言いたい」
「なんだ、ケンジ」
「お前、ここまで来て電○文庫を読み耽(ふけ)るなよ」
「いや、なかなか面白いぞ。この『ま○ら○』という小説はよくできている。
 ストーリーの構成もしっかりとしているし、何より人物がいい。」
「いや、もういいから」
ケンジがレオの小説トークに気を削がれまくっていた、その時たっだ。
舞台の方で大きな悲鳴と怒声が聞こえた。
「なんだ!?」
「行くぞケンジ!」


「・・・で、チヅル。これはどういう事だ?」
ケンジの目の前には、半死半生のヤクザ3人と、その上で未だに攻撃の手を休めない
ユナの姿があった。
「えーと、私がヤクザにからまれていたのをユナさんが助けてくれたの・・・
 その時のユナの顔、まるで竜みたいで・・・」
「OTL」
「まあ、殺さなかっただけマシかな?」
レオの気休めにもならない一言を完全にスルーして、ケンジはその場にへたり込んだ。


人がざわめくロビー。
・・・色々と感想していて、情けなくなった自分を慰めるように、
ケンジはコーヒー牛乳を飲み干した。
「おい」
「ぶはー。!!何なんだよ!いきなり背後からせまるなよお前は!」
いきなり現れたレオに、盛大にコーヒー牛乳を浴びせてケンジは怒鳴った。
「いや・・・ただ、班長のチヅルさんが何処に行ったか聞きたかったのだが・・・」
「ああ、すまん。あいつなら、まだ風呂のはずだ」
「そうか、すまなかった」
そう言い残すと、レオはコーヒー牛乳臭くなった体を洗う為、もう一度
風呂へと向かった。


「ケンジ、お前もう寝るのかよ」
トシオは部屋で寝っ転がっていたケンジに話掛けた。
「ああ。俺はもう疲れた。頼むからこのままにしてくれ・・・」
「そうか・・・ておい!レオ!その『ニー○ルワー○』はなんだ!」
「見ればわかるだろう。早く山札から5枚捨てる。」
「このおぉぉぉ!」
「頼むから・・・」
ケンジの嘆願は2人には全く届いてなかった。


「そうか・・・こっちには『適格者』は居ないか」
「いやあ、まいりましたわ。レオはんの言いつけでここまで調査しましたんやけど、
 なかなか見つからないもんですわ。」
レオは夜中の、誰もいないロビーで、灰色の髪の少年と話していた。
「ふむ、まあいいだろう。調査はもういい。関東の戻って来い。」
「おおきに。ずっと待っておりましたけん。ほな、失礼しまっさ」
直後に灰色の髪の少年は消滅した。
「向こうで会おう・・・[火竜]ムスペル」
彼はその一言を言い残し、部屋へと引き返した。
彼も疲れていたのだろう。
部屋の中に隠れていた2人の少女に、彼は気付くことなく眠りについた。
byキング