「あ〜ぁ、やっちまいおった。」
目の前の本には、人気のなくなって静まりかえった某天使の執務室が映っていた。
それを見いてたは頭を抱えている。
本を閉じようとして、しばらくそのまま思考を巡らす。
「う〜ん、やはり・・・まずいかの。」
老人は思い立ったように立ち上がり、部屋をあとにした。
その扉には『TOILET』の札が揺れていた・・・。
第20話 分岐
部屋の中から話し声が聞こえる。
「ああ、ザコはまかせた。俺はフロウっていうのを殺る」
「ザ・・・ザコだと!?ザコかどうか試してみろ!」
「ふーん、お兄ちゃんがザコって言ったらザコじゃない?ザーコ!」
「貴さ」
その瞬間、扉の前にいた老人は、躊躇うことなくそれを勢いよく開け放った。
バーンッ!!
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
謎の来訪者の出現に、部屋の中を不思議な沈黙が満たす。
「・・・貴様、何者だ?」
レオが口火を切り、静かに問う。
他の者たちは様子を窺っている。
「わしの名は松吉。梨生の商店街で古本屋をやっとる者だ。」
ゆっくりとした口調で、この場にいる全員の疑問に答える。
「・・・で?その『松吉さん』が何でここに?」
フロウが最大の疑問を口にする。
「そのことなんじゃが・・・お前さん達、ここから一旦退いてもらいたいのじゃ。」
松吉は、『災厄』のメンバーの方に向き直るとそう告げた。
次の瞬間、メンバーの頭上に黒い穴が口を開けた。
「有無を言わさずじゃがの。」
その言葉が合図だったかように、謎の黒い穴は『災厄』のメンバー全員を
想像を絶する勢いで吸い込み、そして、その漆黒の空間をゆっくりと閉じた。
あまりに突然の出来事に皆唖然としている。
「・・・さてと・・・。」
そんな中、どこからか取り出した掃除機で、粉になったミカエルの体を集める松吉。
部屋には掃除機の駆動音だけが響く。
しばらくすると集め終わったのか、スイッチを切り、コードを収納する。
すると突然、ポンッ!と音がして、掃除機がモクモクとした煙りの柱をつくりあげた。
そして中からミカエルが姿を現れる。
「うぅん?ここは・・・?」
ミカエルが復活後の第一声を発する。
「ここはお前さんの執務室じゃよ。」
真横にいた松吉がゆっくりと答える。
「そうか・・・ところで、貴様は誰だ?」
ミカエルは落ち着いた様子で問う。が、その額には汗が浮かんでいる。
「わしは松吉。梨生の商店街で古本屋をやっておる。」
松吉は『災厄』のメンバーにした内容を繰り返した。
「・・・何故ここにいる?」
次の疑問を投げかけるミカエル。もう額の汗はひいたようだ。
「う〜ん。難しい質問じゃのぉ〜。まあちょいと『世界の均衡』を保ちにの。」
そう答えて、質問はこれで終わりとばかりに部屋を出ていこうとする松吉。
「ああ、そうじゃ」
思い出したように、扉から顔だけ出して言う。
「やつらは日本各地に分散させておいた。今の内に態勢を立て直しておいてくれると嬉しいのぉ。」
そして扉は閉まった。
あとに残されたのは
難しい顔をして佇むミカエルと、それを心配そうに窺う3天使だけ。
「・・・計画の練り直しが必要だな」
その沈黙の中、ミカエルは呟くように静かに、しかしハッキリと言った。
その顔は既に決意に満ちている。それに呼応するように、部下たちも力強く頷いた・・・。
by図書神