翌日―――――――
「わいはムスペルや。みなはん仲良うしてな♪」
ケンジとチヅルは驚愕した。
死んだはずの男が自分のクラスに転入してきたからだ。
「・・・一体どうなってんだ?」
ケンジには何がなんだか分からなかった。
「レオ。ちょっといいか?」
休み時間に入り、ケンジはレオを呼びかける。
そこにはユナやムスペルもいた。
「ああ。俺もお前に話したいことがある。」
レオはケンジの問いに答えその場を動く。
「おい。どこ行くんだ?」
「ここで話すのもあれだろ?屋上へ行こう」
そう言って、レオは教室を出て行く。
それを追ってユナとムスペルも出て行く。
「・・・・・。」
ケンジは黙ってレオの後を追おうとする。
しかし、
『ガシッ』と服の袖を掴まれた。
ケンジは驚き、後ろを向く。
そこにはチヅルがいた。
「ケンジ君」
心配した目で、チヅルが何かを訴えかけてくる。
『行かないで』
ケンジにはそう感じられた。
一瞬、その目に魅入られそうになったが、
ケンジは掴まれていた袖を振りほどき教室を出て行く。
その時すでに、ケンジとチヅルは
もう前のようには戻れないことを知っていた―――。
「竜族って一体なんなんだ?何でこの学校に集まってくるんだ?」
屋上に着くなり、ケンジはレオ達に疑問をぶつけた。
「そうだな。そろそろ教えてもいい頃か」
レオはそう言い、語りはじめる。
「そうだな、まずは・・・俺達が地球に来た理由を話そう」
今、竜族はぞくぞくと地球に集まっている。
AS高校にも、ムスペルのように転入してきた竜族が2人いるらしい。
ケンジは、何故彼等がやってきたのかずっと不思議に思っていた。
「私たちは、竜族を滅ぼした古代兵器『イーリアス』を封印する為に来たの」
ユナが話し始める。
「あの兵器の破壊力は前に言ったよね?
あんなものが一度発動したら世界、いえ、全宇宙が消滅してしまう」。
ケンジは真剣にユナの話に聞き入っている。
「そうなっちゃえば、竜族も人間も関係ない。みんなが消えちゃう。
だから、私たちはそうさせない為にあなた達を監視してたの」
ケンジは閉じていた重い口を開き、言葉を発した。
「俺達がその『イーリアス』を動かせる適格者だからか?」
その言葉にムスペルが答える。
「そうや。適格者7人と光の宝玉さえ揃えば『イーリアス』は動かせる。
幸い、宝玉の方はユナが壊してくれたんやが、まだ何が起こるかわからん」
レオはムスペルの言葉に頷き、ケンジに語りかける。
「あぁ。そのとおりだ。天使族に怪しげな動きがある。
適格者を使って何かをするつもりなのは間違いなさそうだ・・・」
「でも、宝玉は壊したんじゃないのか?もう発動は無理なんじゃないのか?」
ケンジは、反論を唱えるが、
「それは俺達にも分からない。
元々、宝玉がどうやって作られたのかも分からないんだからな。」
レオは今までにない、曖昧な物言いをした。
「今までこの事を言わなかったのは、お前がどんな奴か調べていたからだ。
もしも、この事を言ってお前が天使側につく様子があるなら、
『イーリアス』発動阻止の為、始末しなくてはならなかった。」
ケンジは今頃になって竜族の恐ろしさを改めて知った。
もしかしたら自分は今、死んでいたかもしれない。
ほんの少し、運命が違っただけで・・・・・。
ケンジの中にあった竜族への不信感は少しずつ増していった。
「・・・俺の聞きたい事は終わった。そっちの話したい事って?」
ケンジは、レオに会話のバトンを渡した。
レオは、目を閉じ話すのを躊躇う素振りを見せるが、
やがてその口は開いた。
「・・・・・浅田トシオのことだ・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、ケンジの肩はピクリと動く。
「トシオについて何か知ってるのか!?」
感情が昂ったケンジは、つい大声になってしまった。
それは無理もなかった。昔からの幼馴染であるトシオが消え、
態度を豹変させて帰ってきたからだ。
ケンジは、トシオがどうしてあんな風になってしまったか知りたかった。
「なぁ!!教えてくれよ!!レオっ!!」
おもわずレオに掴みかかる。
「・・・トシオは、天使側についた。操られているという可能性はあるが、
どちらにしろ、次会った時は敵同士だ。」
レオはケンジに掴まれた状態のまま、冷静に答える。
「・・・敵?トシオが?嘘だろ?」
ケンジは昨日の現状を見ても信じられなかった。
何かにすがるようにしてレオに問いかける。
「ケンジ、これが現実だ。トシオは敵だ。倒さなければならない。」
そのレオの言葉を聞き、ケンジは脱力した。
一番の親友と殺しあう事なんてケンジには考えられなかった。
「・・・行くぞ」
ケンジの今の心境を察してか、レオはユナとムスペルを連れ、屋上を後にした。
一人、ケンジは屋上に残され、風に吹かれていた。
しばらくすると、ケンジの脳裏にあの言葉が浮かんできた。
「――――俺達と協力しないか?」
「――――俺はお前と争いたくない」
昨日のトシオの言葉が耳に残る。
ケンジはまだトシオに返事を出していなかった。
第23話 脱力
by望君