第29話 抜殻
母から父の名前を聞いた次の日の朝、ケンジは学校にいた。昨日のことを考えながら自分の席に座っていた。自分の持っている刀が父親の形見。その上父の名前が刀と同じ名前とは・・・
「じゃあ、あの時いた男は・・・」
ケンジは守護零刀を見ながら思った。

放課後
授業にも集中できず、帰路に着こうと下駄箱で靴を履き替えていた。
「ケンジ君」
後ろから声が聞こえた。チヅルである。
「今日これから暇?」
チヅルが笑顔で問いかけてくる。
「一応暇だけど・・・」
まだ、少し上の空の状態でケンジが答える。
「じゃあ、これから私と・・えっと・・・デ、デートしない?」
「あぁ、いいけど。・・・・えっ!!」
ケンジは驚いた。修学旅行で告白されたからチヅルの気持ちはわかっていたけれど、チヅルがこんなこと言ってくるとは予想だにしなかった。
「じゃあ、行こう」
チヅル笑顔で言った。

チヅルの言われるがままケンジはチヅルについて行った。
ゲームセンター、映画館、ショッピング、普通の恋人同士がしそうなデートをしていた。けれど、その間もケンジは少し上の空である。
町から少し離れた公園。平日だからなのかあまり人はいない。ケンジとチヅルは噴水の前のベンチに座った。
「ケンジ君、クレープ食べる?私買ってくるね」
チヅルはそう言うとベンチから腰を上げて向こうのクレープ屋に歩いていった。
しばらくたってからチヅルがクレープを二つ持ってケンジの元に帰ってきた。
「はい、ケンジ君」
片方のクレープをケンジに差し出す。そしてクレープをおいしそうに食べながらベンチに座った。
「ありがとう」
ケンジは少し遅れて礼を言う。
「ここのクレープおいしいんだよ」
「へぇ・・・」
ケンジは抜けた声で返した。まるであまりほかのことには興味が無いかのように。っとチヅルが、
「ケンジ君、修学旅行での私の告白覚えてる?あの時私はケンジ君のことが好きだった。けど今のケンジ君は・・・嫌い」
「えっ!!」
ケンジは驚きながらチヅルのほうに首を向ける。
「今のケンジ君変だよ。確かに修学旅行のことやトシオ君があんなこと言ったのは私もビックリしたけど今のケンジ君、私は見ていられないよ!確かにいつも少しやる気が無いけど、やるときはやるし、やさしいし、周りのことをちゃんと見ているし。けど今のケンジ君は抜け殻みたいだよ・・・」
チヅルが深刻そうな顔で言った。たしかに今のケンジは抜け殻のようである。
「・・・」
ケンジは黙っている。
「いつものケンジ君だったら、『なんとからるよ』とか言ってくじけないよ」
チヅルが強気にケンジに向かって言い放った。
「・・・・そうだよな。ありがとう。なんだか少し気持ちが晴れたよ」
ベンチから腰を上げチヅルのほうを向いた。
「うん!」
笑顔でチヅルが答えた。
「そうだ、修学旅行の返事なんだけど・・・。このことが片ついたらでいいかな。それまでまってもらっていいかな?」
「うん。待ってる」
時刻はもう6時を回ろうとしていた。回りも暗くなりだしてきたので二人はそれぞれの帰路に着いた。これからあんな事があろうとも知らず。
by鱈の子