「ぐぁあああああああ!!」
叫びながら、灰色の髪の少年―――ムスペルは倒れた。
ここ、京都での戦いは、天使族の見事なコンビプレーで竜族に勝利した。
「あはっ☆ボク達にかかれば、こんな奴ちょちょいのちょいだね!」
緑色の髪の少女は、その自慢のツインテールを揺らしながら楽しそうに微笑んだ。
「・・・そうでもない。危ないところはいくつもあった。」
黒髪で長身の男は、激しい戦いでずれたメガネを
クイっと上げながら冷静に彼女の言葉を否定した。
「・・・フ、フーンだっ!"シンヤ"は、いっつもそう!
ボクのこと、一度も褒めてくれたこと無いよねっ!」
少女はプクーッと頬を膨らませ、"シンヤ"と呼んだ男の逆の方に顔を向けた。
「実際の話をしたまでだ。今ここに残っていたのは、彼の方だったのかもしれないからな。」
そう、"シンヤ"は冷静に言葉を放ち、倒れているムスペルを見る。
緑の髪の少女―――フロウも分かっていた。
確かに、あの火球は当たればかなりのダメージをもらってしまう。
それを避けきれない場面もあった。
しかし、そういう場面は常に彼が助けてくれたのだ。
「・・・ん。分かった。もうちょっと注意して戦う。」
フロウは、反省した面持ちで彼を見上げる。
その姿は、今まで他の誰にも見せたことの無い、フロウの弱さの一面だった。
「あぁ。俺達はまだまだ弱い。これからも鍛錬を重ねなければならない。」
そう言いながら、彼は微笑んだ。
言葉は厳しいようにみえるが、これは彼の優しさでもあった。
今のままでは、フロウはいつか命を落とすかもしれないのだから。
「・・・フロウ。俺は一旦戻るが、次の任務も任せたぞ。」
シンヤは表情を変え、こわばった面持ちで言葉を発した。
「うん。ケンジ君を追い詰めて、力を覚醒させればいいんだよね?」
「ああ。そうすれば、"あの短刀"も力が目覚める。
もしも宝玉が壊された時の為には必要なことだ。」
二人は任務の確認をし、別れようとした時にシンヤが言葉を発する。
「・・・フロウ。ケンジは未知の存在だ。危険だと思ったら逃げろ。」
「・・・うん。心配してくれてありがとね」
その言葉を聞くと、シンヤはその場を後にした。
「・・・ケンジか。名前を呼ぶのも久しいな。」
シンヤは、京都からの移動中につぶやいた。
キーンコーン、カーンコーン―――・・・
「はぁ〜っ!今日も疲れたぁ〜!」
ケンジはそう言いながら伸びをする。
「ケンジ君。一緒に帰ろう?」
だらけムード全開のケンジに、チヅルは声をかける。突然目の前に現れたチヅルにケンジは少し驚くが、
優しく微笑みながら、
「ああ。帰ろうか。」
と、肯定の言葉をチヅルに送った。
帰り道、二人の話は盛り上がり声を大きくして笑う。
「でさぁ〜、その一円玉募金してんの!!マジ最高!!」
「あはははは!!」
チヅルにはこの時間はとても充実していた。
昨日のデートから一気にケンジに近づいた気がして、
チヅルは幸せで一杯だった。
この時間が1秒でも長く続けばいいのに、と何度も思っていた。
しかし、現実は甘くはなかった。
突如に現れた黒い歪みによってチヅルの願いは、儚くも叶うことは無くなった。
その歪みから長身の男が現れた。
アズラエル―――いや、シンヤだった。
チヅルは咄嗟に彼は敵だと判断した。
その殺気はケンカもしたことが無い彼女にも伝わったからだ。
「ケンジ君!逃げ・・・・」
チヅルはケンジと共にその場から離れようとしたが、そこで初めてケンジの異変に気付く。
「・・・ケンジ君?」
心配するチヅルをよそに、ケンジは呆然と突っ立っている。
まるで見てはいけなかったものを見たかのように。
「・・・・・ケンジ、久しぶりだな。」
シンヤは、ケンジに声を掛け、そこで初めてケンジが言葉を発する。
「・・・あ・・・兄貴・・・・・!!」
楽しかった時間も今では嘘のようだった。
「な・・何で兄貴がここに?死んだはずじゃ・・・」
ケンジは動揺を隠しきれず、頭の中が混乱している。
「・・・お前も一度死んだよな?」
シンヤの質問を聞き、ケンジは全てを理解した。
―――――ミカエルだ。
兄貴はミカエルに生き返されたんだ。
つまり兄貴も―――――
「俺もお前と同じ適格者だ。そして今は天使側にいる。」
シンヤは、ケンジの考えを諭したように答える。
ケンジは更にその言葉で混乱するが、天使という言葉に引っ掛かる。
ケンジの考えよりも早く、シンヤは答える。
「つまりお前の敵ってことだ、ケンジ。」
言葉の方が先だったか、動きの方が先だったかは分からないが、
シンヤはケンジの頭を壁に叩きつけた。
「―――ッ!!」
ケンジは痛みで声が出ない。
突然の事だったがケンジは反応しきれてないわけじゃ無かった。
実際その手には、守護零刀を持っていた。
「悪いな、ケンジ。適格者である、彼女はもらっていく。」
シンヤのその口調は冷酷だった。
「えっ・・・!?」
ケンジはチヅルが適格者であることに驚きながらも、
「・・・チヅル逃げろっ!!」
呆然と突っ立っていたチヅルだったが、ケンジのその言葉を聞き、走り出す。
「無駄な足掻きは、よしてもらおうか。」
一瞬の出来事だった。
シンヤは壁に押し付けていたケンジの頭を離し、チヅルの目の前に現れた。
そしてケンジの目の前でチヅルを気絶させた。
「兄貴ィーーーーーっ!!」
ケンジは、シンヤに向かっていくが何者かに跳ね飛ばされる。
「おいおい。お前の相手は俺だろう?なぁ、ケンジ!」
「くっ!!だ、誰だ!?」
起き上がって見ると、そこにいたのはトシオだった。
「ケンジ!そろそろ俺たちの決着をつけようぜっ!!」
そう言うと、トシオは鎌を持ち上げる。
「あとは頼んだぞ。トシオ」
そう言うと、また現れた黒い歪みの中にシンヤはチヅルを抱きかかえ、消えていった。
「待て、兄貴!!チヅル、チヅルーーーー!!!!」
第32話 再会
by望君