「やれやれ、ミカエルのやつはついに使ってしまったか・・・。」
「・・・。」
「やはりわしが出なければなりませんか・・・理姫羽。あなたの力も必要なようです。」
「・・・。」
「さぁ、行きましょうか。終わらせる為にあれを・・・イーリアスを止めましょうか。」
第35話 結末
「これですべての終わりだ!」
「やめろぉぉぉぉぉ!」
ケンジの叫びも虚しくミカエルが刀を突き刺そうとした・・・しかし
「!?」
ミカエルの手が空を切った。手にあるはずの刀がなくなっている。
「どっ・・・どういうことだ!?」
一瞬理解する事が出来なかったがすぐに理由が判明した。フロウが張っていた結界が破れた事により・・・。
「えっ?どうなってるの!?」
「ちっ!こんなときに覚醒を起こすとはな・・・。」
ミカエル達はすぐに戦闘体勢に切り替えた。だが、それでも時遅く・・・。
「・・・けふっ!」
ケンジの先制をフロウがまともに受け倒れこむ。
「「ケンジ・・・!」」
トシオとシンヤが二人掛りで攻めに入るが・・・。
「「なっ!?」」
ほぼ同時に攻めたはずの二人の攻撃が突如止まった・・・。なぜならばユナによって動きを抑えられていたせいであった。
「「この!離せ・・・っ!」」
抵抗する暇無くケンジに鳩尾を突かれその場に倒れる。
「早々利用されてたまるものか!」
ユナが小さな声で皮肉を言う。そうしてケンジは全ての行動を1秒にも満たない間に終わらせてしまった。そして、ケンジはそのままミカエルに向かい。
「・・・これで!」
ケンジは完全にミカエルの隙を突き攻撃を叩き込んだ・・・筈だったが・・・。
「かはぁ!」
完全に虚を突いた筈がものの見事に返された。ミカエルの手刀がケンジを貫き血塗れのままミカエルの前に倒れ込む。
「愚か者が。その程度でどうにか成るとでも思っていたのか?」
「どうにか成るからやるんでしょ!」
ユナが後ろから一気に攻め込もうとしたが・・・
ドサ・・・
「だから言っただろ、その程度でどうにか成ると思ってるのかと・・・。」
ユナの方を振り向きもせず一撃でしとめケンジから再び刀を奪う。
「くっ・・・渡す・・・ものか・・・っ」
必死に抵抗をするもののもはや動く事すらままならない。
「そこで見ていろ・・・世界の終わりを・・・!」
ミカエルが再び刀を突き刺そうとする。今度は誰も止める事が出来ずに・・・。

ゴゴゴゴゴ・・・
低い唸り声の様な地響きが鳴り響く。
「・・・くそっ!」
ケンジが悪態をつきながら地面を力いっぱい殴る。殴ったところで何も変わらないと解かっていても殴るしかなかった。それを見ているミカエルはただただ笑みを浮かべ続ける。
「ふっふっふっふっふ。残念だったな。イーリアスはもう動き出した。もはや誰にも止める事など出来はしない。これで全てを無に帰す!」
ミカエルの高笑いが聞こえる中ケンジはひたすら待ち続けていた。
「諦めろ。もう抗うな。大人しく世界の終わりを待つがいい!」
シンヤがケンジをなだめるように言う。
「ぐっ・・・まだ・・・だ。まだ諦めな・・・ぃっ!」
喋っているケンジをフロウが踏みつけ息すらつけない状態となった。
「いい加減黙ってなよ。五月蝿くてしょうがないよ!」
「っ!!」
痛みを耐え必死に動こうとするが体がまるで動かない。覚醒で全力を出した上に致命的なダメージも受けた状態で動けるはずも無い。増援など夢の又夢・・・外で竜族と天使族が戦っている限りここまで来れるはずも無い。結界が再び張られた今となっては。
(だけど、何としても・・止めるんだ!皆を守るために・・・!)
「守りたいか?」
「・・・えっ?」
地響きの中に聞き覚えのある声が混ざる。ケンジは思わず痛みも忘れ力の限り声のする方を向く・・・そこには松吉が居た。
「「「誰だ!?」」」
「あんたは・・・。」
「わしの事はどうでもいい。それよりも守りたいか?」
突如登場した松吉に一同が困惑する。
「もう一度聞く。ケンジ・・・お前は守りたいか?この世界を・・・」
「あっ・・・あぁ、守りたい・・・皆を・・・!」
ケンジはありったけの声を振り絞って言った。そして松吉はそれに答えるかのように
「「「!?」」」
ケンジを自分が今居る所まで運んだ。・・・それは見ることすら出来ないような速さで・・・
「ほぉ・・・まさか、こんな奴がまだ居たとは・・・な。」
その状況下の中ミカエルだけが全てを把握できたようだ。
「しかし、無駄な足掻きだな。どんなことをしようとイーリアスを止める事など・・・」
「出来ると言ったらどうするんじゃ?」
松吉が不適な笑みを浮かべながらミカエルに言う。
「・・・なに?」
「・・・ケンジよ。あの本は持っているか?わしの店から持って言った本だ。」
「えっ?あっ・・・あぁ、それならここに・・・」
唖然とする中鈍痛を堪え一体何処に入れていたのか解からが言われた本を出した。そして、松吉はそれを受け取り本を開く。ケンジは溜まらずある事を聞く。
「なぁ、それには一体どんな事が書かれてるんだ?レオは竜族と天使族の歴史が書いてあるって言ってたが・・・。」
「なに・・・そんなものこの本を隠すためのカモフラージュだ。本当の意味は・・・」
そこで言葉を切ると。今まで気づかなかったが松吉の肩の上に乗っていた猫が地面に飛び降りた。そして、鳴き声一つ上げずにイーリアスの方を見続ける。
「この理姫羽を発動させる為の物だ。」
「理姫羽・・・?」
ケンジは半信半疑で理姫羽と呼ばれた猫を見る。こんな状況の中妙に落ち着きを払っている奇妙な黒猫にしか見えないが・・・。
「ふっ・・・ふふ・・・ふははははは!傑作だ!そんな猫一匹に何が出来るというんだ!」
ミカエルが狂うように笑う。それを哀れむような眼で松吉が見る。
「・・・お前は考えが浅い。この世に絶対孤立のものなど無い。必ず対をなすものは存在するのだよ・・・。そして、イーリアスと対をなすのがこの理姫羽だ。」
声高らかに笑っていたミカエルから余裕が無くなった。この突如現れた訳の解からない男の言葉を何故か信じてしまう。
「なら・・・それが本当だとしても・・・!」
ミカエルが体勢を低くし松吉への臨戦体勢を取る。そして、それを見たトシオ、シンヤ、フロウの三人も武器を構える。
(まずい!松吉のじいさんがどれだけ強いか知らないがこの状況は・・・!)
ケンジは必死に体を起こそうとする・・・が、やはり動かない。そこへ松吉が
「大丈夫だ。そこで大人しくしていなさい。」
松吉はそれだけ言うと静かに前へと足を踏み出す。
「さぁ、何処からでもかかってきなさい。」
「ほう・・・余裕だな・・・なら・・・」
ミカエルが再び言葉を切ると四人がその場から姿を消し。そして、松吉の目の前まで飛び込み全員が同時に攻撃を仕掛ける。
「・・・その程度ではわしは止められんぞ。」
静かに呟く・・・そして、四人の攻撃は
「「「「っ!?」」」」
松吉に当たるはずの攻撃が全て松吉の前を空振る・・・。さらに何かに押される様にして後ろへと弾き飛ばされる。
「「「がっ!!」」」
三人はそのまま壁にぶつかりそのまま倒れこむ。ミカエルを除いて・・・。
「この程度の攻撃で私がやられるとでも思ったか!」
ミカエルのみ壁に直撃せず踏み込みすかさずショットガンを乱射する。
「ほぉ・・・少しはやるな・・・だが。」
ショットガンの弾が松吉の目の前で不自然に落ちていく。そして、同時にミカエル達四人も地面に押し付けられるような重みを感じる。
「くっ・・・これは重力制御!?」
「そうだ。この程度の術なら使う事など造作でもないからな。」
そうして四人の動きを同時に止めるが・・・
「っ・・・この程度の術で!私が止められるかぁぁ!」
ミカエルが術を強引に解きショットガンを放り投げ捨て身の攻撃に入る。
「もう少しでイーリアスは発動する!それで終わりだぁぁぁ!」
「残念だがそれは無理だ。言っただろ。わしはそれを止める・・・と」
松吉が音も無くミカエルの突撃を制し吹き飛ばす。それはまるでその一瞬だけ音を奪い去るかのようにして・・・。
「ぐっ・・・がっ・・・」
だが、ミカエルに来た衝撃は計り知れないものであった。もやは、すぐに動く事は不可能であろう・・・。
「くっ・・・くっく・・・くははははは!」
だが、そんな中ミカエルが突然笑い始めた。
「何がそんなにおかしいんだ!」
それを不信に重いケンジが聞く。そして、ミカエルの笑いが収まると。
「これが笑わずにいられるか。なぜなら・・・」
突然イーリアスが強烈な光を発し始めた。
「もう止められるものなど無いからだ・・・!」
「あぁ!」
今見ている現状にケンジの顔が青ざめる・・・。
(間に合わなかった!?)
ケンジに諦めの色が出始めている理姫羽が無言でのしかかる。
「んぐっ!?」
「ケンジ・・・大丈夫だ。わしが止める・・・いやその理姫羽が・・・な。さぁやるぞ理姫羽・・・。」
「・・・。」
理姫羽はただ静かにケンジの上から降り発動寸前のイーリアスを見つめる。
「行くぞ理姫羽・・・。」
松吉は本の最後のページを開き理姫羽に声をかける。理姫羽は鳴き声一つ上げずただひたすらイーリアスを見つめる。
そして、イーリアスが完全に発動をした・・・。
「これで・・・全て・・・終わりだ・・・。」
ミカエルが放つ言葉もイーリアスの発動による衝撃によりかき消される・・・。否、音そのものをそぎ取った無音の世界が広がり始めたとき・・・
「×××××××」
(うっ・・・ぐっ・・・)
眼を開けているのかさえ解からないほどにほとばしる光の中松吉が何かを唱えているのを聞いた・・・。そして・・・
「ケンジ。お前はよくやった。後はわしに任せておけ・・・」

(・・・どうなった?俺は生きてるのか?死んでるのか?)
はっきりしない感覚を少しずつ使い自分に問い掛けた疑問に答えようとする。そして、出された答えは・・・
「・・・生きてる?」
自分の出した答えにまだ納得出来ないもののとりあえず体を起こしあたりを見る・・・。そのときには体の痛み・・・傷が無くなっている事には気づかずに・・・。
「・・・松吉のじいさん・・・?」
あたりを見回すが松吉が何処にも居ない。松吉だけではなくあの理姫羽と言う黒猫もイーリアスも何処にも無い。周りにはミカエル達天使やトシオ、ユナそしてチヅルが倒れている。
(あれからまださほどの時間が経って無い・・・のか?)
考えているところにあるものが眼に入った・・・。
「えっ?・・・守護零刀・・・?何でこれだけ・・・?」
ケンジの目の前に守護零刀が突き刺して立てられていた。
「・・・松吉のじいさん・・・か?」
疑問を残しつつも刀を引き抜き鞘に収める。つもりだったが再び刀を構えざるをおえなくなった。
「くっ!・・・一体どういうことだ・・・どうなったんだ!?イーリアスは何処へ消えた!」
ミカエルが目覚め今ある現状に怒り狂う。その怒号にフロウとシンヤも起き上がる・・・。
「ミカエル。諦めろイーリアスは消えた。お前の目的は達成できなくなった。」
ケンジが冷静にミカエルに告げるが。ケンジの言葉など聞きもせずケンジに突撃してくる。「・・・何だかよくわからないがお前をしとめるには最良のチャンスだな・・・。」
今の今までその場に居なかったはずのレオがミカエル向かって切りかかる・・・。暴走気味のミカエルは避けきれず深々と切り裂かれる。
「「ミカエル様!」」
フロウとシンヤが慌ててミカエルに駆け寄る。そして、冷静を取り戻したミカエルは苦虫を潰したような顔をして・・・。
「撤退だ・・・!」
「えっ?」
「全軍撤退だ・・・今すぐだ。イーリアスを再び探さねば成らない。その為に今ここで死ぬわけには行かない・・・!」
「解かりました。」
「おいおい。誰が逃がすと言った?」
当然、ミカエル達を黙って帰すほどレオも甘くは無い。しかし、フロウが再び結界を張ると次の瞬間にはもうそこには居なかった。
「・・・っち!いっぱい食わされたな・・・。」
「・・・。」
レオは舌打ちをしユナの元に駆け寄る。ケンジもまたチヅルとミカエル達に置いて行かれたトシオの方へ駆け寄る・・・。
(これで全部終わったよな・・・?松吉のじいさん)
一抹の疑問だけを心のそこに残しケンジは二人を起こす。

「・・・ふぅ・・・終わったな。理姫羽よ・・・。」
「・・・。」
「イーリアスは止めわしたちで回収した・・・もはやこの悲劇が起きる事はなくなったな。」
「・・・。」
「あぁ、解かっいる。わしたちの仕事はまだまだある・・・わかっているさ・・・。」
by掟破りの作者