第36話 災厄
戦いは終わってない。
〔イーリアス〕の発動を抑えた。レオ・ブラックはその場に立ち尽くしていた。
「〔イーリアス〕がまだ残っているだと・・・!?」
天使が残した最後の言葉を心の中で読み返し、彼の事態の重さを悟った。
「まだ、懲りずに過ちを犯そうとしているのか、あいつらは!」
レオはただ、ひたすらに憤った。なら、今までの犠牲はなんだったんだ?
自分が今までやってきたことはなんだったんだ?俺は・・・
「・・・・・・いや、俺は〔災厄〕のレオ・ブラック。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、目の前に敵が現れたのなら・・・たたき切るまでだ・・・!」
そう、自分はここで止まるわけにはいかない。心を鬼にし体を修羅と化してでも
天使たちの野望を食い止める。それが自分に出来ること。
「・・・そうだよ、また手伝ってもらおうか。お前ら。」
そう言いつつレオは過去にリョウに使った技を使う。己の命を削り他者に分ける冥王の力。
「おおおぉぉぉぉ・・・!!」
また自分の命が減った。が、レオは矛の竜族とは比較にならないほどの寿命の長さの持ち主なのである。おそらく先祖もこの能力を使いこなすために長い寿命を持っていたんだろうとレオは思った。
「っはぁ、はぁ、手応え、あったぜ・・・」
息をつきながらも、生き返った事を確信したレオは疲れのせいか眠りについた。

「・・・わりぃ、またレオはんにメーワクかけてしもた。どないすれば償えるんやろか・・・」
ムスペルはそうリョウにぼやきつつ、ガルム、カーミラと共にレオを探していた。
「ムスペル、お前は本気でそう思っているのか?」
「リョウはん・・・?」
「あの人にとって俺らは道具だろう。しかし、俺たちはあの人にとってかけがえの無い大切な道具だ。俺たちは生きてあの人に忠誠を尽すことが唯一の償いだ。」
リョウはそう言ったきり、レオを探すことに没頭した。
「・・・・・・。」
ムスペルは自分が涙を流していることに気づき、他の竜たちに解らぬようにそっと手で涙を拭いた。
「おーい、レオさんが居ました!ユナさんも一緒です!」
向うからガルムの声が聞こえる。
その声を聞き、ムスペルとリョウはその声がした場所へと飛んでいった。

「・・・全員集まったか。」
「うん。・・・レオ、また戦わなきゃいけないの?」
ユナが恐る恐るレオに訊ねる。レオはただ黙っているだけだった。
「いや、言った私がバカだった。ごめん。」
その揚げ足を取るように、レオが口を開く。
「ああ、そうだな。お前はバカだよ。」
(それが一番良い所なんだがな)とは口に出さず、ユナをからかった。
「レオ、そろそろ行くのか?」
リョウがレオに質問する。レオは、一言、ああと言って立ち上がった。
「そうだな。すべての〔イーリアス〕を止めるまで俺らは止まる事を許されない。絶対にあいつらの野望は阻止するぞ!」
「はい!」
そうレオが言い、竜族は新たなる戦いを求めて去っていった。
あとには、ただ一陣の風が誰も居ない大地をなでるだけだった。
byキング