「・・・何処だ、ここは?」
誰でもない自分の見ている夢の途中、霧が晴れるとケンジは地平線の彼方まで永遠と広がる花畑にいた。まあ、ココに地平線が存在すればの話だが。
遠くに赤レンガ造りの城が見え、その近くには川が流れ橋が架かっている。
ケンジはしばらく寝ぼけた頭でボォ〜ッと歩く。
「う〜ん、なんか前にも来た事あるような気がするぞ?ここ・・・」
妙な既視感を覚え立ち止まるケンジだったが、時すでに遅し。彼をここに呼び寄せた張本人は既に腕組み構えて待っていた。
「よお、ケンジ」
声を掛け、そのゆっくりとした歩みを止めようする。
「ん?」
まだ脳が完全に機能していなかったケンジは一瞬声の主が誰かわからなかった。
「ああ、なんだ兄貴か・・・」
睡魔に支配されていた脳が次第に覚醒へと向かう。
「・・・って兄貴ぃ〜!?」
声の主はケンジの兄、天使アズラエルこと月島シンヤだった。
第37話 微笑
傍から見れば妙な光景だった。
パジャマ姿の兄弟二人が、城がそびえる横、広大な花畑の真ん中で対峙しているのだから。
兄は上下無地の黒、弟の方はピンクの上下。
ちなみに弟の上着には大きなハート、ズボンには『チヅルLOVE』の文字が可愛らしく刺繍されていた。
「別に警戒しなくてもいい。戦う為に呼んだのではないからな。」
そんな状況の中、顔色一つ変えずに冷静に話を切り出す兄シンヤ。
「・・・母さんはなんか言ってたか?」
母の反応を求め、問う兄。
「うん、『まあ、一度は死んだ身なんだから、シンヤの好きなように生きなさい。』だってさ。」
ケンジは母の伝言をそのまま伝えた。
「フッ、母さんらしいな。」
思わず笑みをこぼすシンヤ。
すると、これが本題とばかりに表情を引き締まったものにする。
「ケンジ、俺は天使界
ここ
に残る。ここには仲間、新しい家族がいるからな。」
(それに、俺がいないと、危なっかしいやつもいるしな・・・)
「・・・母さんにも、そう伝えてくれ。」
「・・・ヤダ。」
「なぬ!?」
「兄貴が、自分で言いなよ・・・母さんに、直接さ。」
「・・・わかった。俺から直接言おう。そのときにはそっちに邪魔することになるな。」
そう言ってシンヤは再び笑顔をみせた。
このやり取りを、城の窓から微笑ましく見下ろす人物がいた。
「フッ。」
「まっこと良い天気じゃ。こんな日には思わず微笑みたくなるのもわかるわい。」
と、その横から合いの手が入る。
「・・・貴様の訪問の仕方はいつもそうなのか?」
予期せぬ訪問者にミカエルは一瞬驚き、静かに憤った。
「突然現れたことはすまんかった。まあ、タイミングが重要だったもんでの。」
松吉は穏やかな口調で謝罪した。
「フンッ。」
顔に収まりきらない行き場を失った憤りが噴出し、鼻を鳴らす。
「・・・しかしよく私に会う気になったな。」
戦闘状態とは比べ物にならないほど落ち着いた様子でミカエルは言った。
この素早い切り換えが、彼女が今の地位にいる要因のひとつであろう。
「まあ、お互い切り換えが早いからな。問題ないはさしてとの判断だよ。」
「そうか・・・」
ミカエルは再び窓の外に視線を向けながら応える。
「さて、本題に入ろうかのぉ。実はお前さんに受け取って欲しいものがあるんじゃ。」
松吉が話を進める。
「受け取って欲しいもの?」
「そう・・・」
そう言って傍らに佇んでいた黒猫が一歩前に進み出る。
「この猫を受け取ってもらいたいのじゃ」
黒猫に一瞬視線を走らせ、再び松吉に視線を戻す。
そして何かに気づいたように、冷笑するミカエル。
「これは、どういうことかな?」
それを受けても、松吉は相も変わらず穏やかなオーラを発している。
しばしの沈黙、松吉が口を開く。
「・・・『矛』を『盾』に持ち替えてはみんか? ということだ。もともと、守護天使はそのためにおるのじゃからな」
まるで用意していたように、ゆっくりと語り掛ける。
「・・・」
顎に手を当て、時が止まったように思考の海に沈むミカエル。そしてそれを見守る松吉。
「・・・いいだろう、その申し出を受けようではないか。」
言葉は憮然としているが、その顔は吹っ切れたように晴れやかなものだった。
「決まりじゃな。」
ミカエルの決断を穏やかな笑顔で迎え、黒猫を抱き、差し出す松吉。
それをしっかりと受け取り、無意識に優しく抱きしめる天使。
そして、いつの間にかその金色の瞳には涙が・・・。
それを見届けると松吉は静かに退室した。
生き方を別けた兄弟、
猫を抱く天使、
闘い続ける者、
それを見守る者、
そよ風に揺れる花畑、
すべては、どこまでも広がる、この青い空の下、
それぞれの今日を生き、明日を見つめるものたち。
流れ、過ぎ去る一瞬。
この連続がイマをかたちづくり、ミライを、紡ぎ出す・・・。
パジャマ姿の兄弟二人が、城がそびえる横、広大な花畑の真ん中で対峙しているのだから。
兄は上下無地の黒、弟の方はピンクの上下。
ちなみに弟の上着には大きなハート、ズボンには『チヅルLOVE』の文字が可愛らしく刺繍されていた。
「別に警戒しなくてもいい。戦う為に呼んだのではないからな。」
そんな状況の中、顔色一つ変えずに冷静に話を切り出す兄シンヤ。
「・・・母さんはなんか言ってたか?」
母の反応を求め、問う兄。
「うん、『まあ、一度は死んだ身なんだから、シンヤの好きなように生きなさい。』だってさ。」
ケンジは母の伝言をそのまま伝えた。
「フッ、母さんらしいな。」
思わず笑みをこぼすシンヤ。
すると、これが本題とばかりに表情を引き締まったものにする。
「ケンジ、俺は天使界
ここ
に残る。ここには仲間、新しい家族がいるからな。」
(それに、俺がいないと、危なっかしいやつもいるしな・・・)
「・・・母さんにも、そう伝えてくれ。」
「・・・ヤダ。」
「なぬ!?」
「兄貴が、自分で言いなよ・・・母さんに、直接さ。」
「・・・わかった。俺から直接言おう。そのときにはそっちに邪魔することになるな。」
そう言ってシンヤは再び笑顔をみせた。
このやり取りを、城の窓から微笑ましく見下ろす人物がいた。
「フッ。」
「まっこと良い天気じゃ。こんな日には思わず微笑みたくなるのもわかるわい。」
と、その横から合いの手が入る。
「・・・貴様の訪問の仕方はいつもそうなのか?」
予期せぬ訪問者にミカエルは一瞬驚き、静かに憤った。
「突然現れたことはすまんかった。まあ、タイミングが重要だったもんでの。」
松吉は穏やかな口調で謝罪した。
「フンッ。」
顔に収まりきらない行き場を失った憤りが噴出し、鼻を鳴らす。
「・・・しかしよく私に会う気になったな。」
戦闘状態とは比べ物にならないほど落ち着いた様子でミカエルは言った。
この素早い切り換えが、彼女が今の地位にいる要因のひとつであろう。
「まあ、お互い切り換えが早いからな。問題ないはさしてとの判断だよ。」
「そうか・・・」
ミカエルは再び窓の外に視線を向けながら応える。
「さて、本題に入ろうかのぉ。実はお前さんに受け取って欲しいものがあるんじゃ。」
松吉が話を進める。
「受け取って欲しいもの?」
「そう・・・」
そう言って傍らに佇んでいた黒猫が一歩前に進み出る。
「この猫を受け取ってもらいたいのじゃ」
黒猫に一瞬視線を走らせ、再び松吉に視線を戻す。
そして何かに気づいたように、冷笑するミカエル。
「これは、どういうことかな?」
それを受けても、松吉は相も変わらず穏やかなオーラを発している。
しばしの沈黙、松吉が口を開く。
「・・・『矛』を『盾』に持ち替えてはみんか? ということだ。もともと、守護天使はそのためにおるのじゃからな」
まるで用意していたように、ゆっくりと語り掛ける。
「・・・」
顎に手を当て、時が止まったように思考の海に沈むミカエル。そしてそれを見守る松吉。
「・・・いいだろう、その申し出を受けようではないか。」
言葉は憮然としているが、その顔は吹っ切れたように晴れやかなものだった。
「決まりじゃな。」
ミカエルの決断を穏やかな笑顔で迎え、黒猫を抱き、差し出す松吉。
それをしっかりと受け取り、無意識に優しく抱きしめる天使。
そして、いつの間にかその金色の瞳には涙が・・・。
それを見届けると松吉は静かに退室した。
生き方を別けた兄弟、
猫を抱く天使、
闘い続ける者、
それを見守る者、
そよ風に揺れる花畑、
すべては、どこまでも広がる、この青い空の下、
それぞれの今日を生き、明日を見つめるものたち。
流れ、過ぎ去る一瞬。
この連続がイマをかたちづくり、ミライを、紡ぎ出す・・・。
by図書神