第39話 恋人
その日の帰り・・・
生徒たちが帰路に着こうと下駄箱に集中する放課後、ケンジは教室にいた。
「はぁ〜」
いつもだったら真っ先に帰るケンジだが今日はそう言う気分ではないのか自分の席の窓から生徒たちが帰っていくのを眺めている。一人で帰るもの、グループで帰るものさまざまである。
「ケンジ君帰らないの?」
チヅルがそういいながらケンジに近づいてきた。教室には二人しかいない。
「なんか、たまにはこうして眺めるのもいいかな。っと思って」
ケンジはチヅルのほうに振り返る。
「じゃあ私も・・・」
チヅルはケンジの前の席に座る。しばらく二人は外を眺めていた。その行動に特に意味は無いのだが二人にとっては意味のあるように見えた。
しばらくして、帰宅する生徒もまばらになってきて学校にもあまり人がいなくなってきた。ケンジは席から立ち背伸びをした。まるで曲がった針金をまっすぐに伸ばすように思いっきり。
「・・・帰る?」
チヅルが立ったのと同時にチヅルも立ちながら、ケンジに問いかける。
「そうだな、そろそろ帰るか。けどその前に・・・」
ケンジが急に真剣な顔でチヅルのほうを向く。
「チヅルは、今の俺は好き?」
チヅルは驚いた。しかし、しっかりした声で
「・・・うん。今のケンジ君は好き」
「そうか。じゃあ、修学旅行の時からだいぶ経っちゃったけど・・・。チヅル俺も・・・お前のことが好きだ!!だから、これからも一緒にいよう」
「・・・うん!!」
チヅルは目を少しこすりながら言った。その目は少し潤んでいた。


「チヅルー!!ごめんごめん。待った?」
ケンジは少し息が荒れていた。
「もー。遅いよー」
チヅルが犬の銅像の前で待っていた。私服だからなのかいつもとは別人のように見えた。
「恋人になってから、初めてのデートなのに。遅刻しちゃダメだぞ」
そういいながら人差し指でケンジの額を小突いた。
「じゃあ、行こっか?」
「ああ」



そう言って、2人は人ごみの中を歩いて行った。
どこにでもいる、恋人のような、ここにしかいない、恋人。

幸せそうな笑顔を、空の下で振りまきながら・・
いつまでも、この空の下で幸せが続きますように。


どこまでも、この空が続きますように・・。
by鱈の子+あげ