第二話「最悪の休日」
歳人達は朝王駅から港への列車に乗る。
冬期休業の最終日。三人で楽しくピクニック・・・という事だ。
「ん〜いい天気。絶好のピクニック日和だね。」
車窓から見える景色を見ている椿に対して歳人は不満をたらす。
「まぁ、いい天気だけどよぉ・・・どうして『天の大灯台』なんだ?いくら観光名所だからって。この寒い時期に港なんて・・・。」
「いいじゃない!どうせ休みの間ずぅぅぅっと暇だったんでしょ。」
「なんだと!つばきだって人のこと言えないだろ!」
二人は席から立ち互いに睨み合う。そこへ慌てて明日が仲裁に入る。
「まぁまぁ、2人とも痴話喧嘩はそこまで。今更喧嘩してどうなることでもないだろ。」
「「・・・。」」
明日の仲裁が功を奏し何とか二人をなだめ席に座らせる事に成功した。
「・・・。(ふう。とりあえず大人しくなったか。)

歳人達は港にある観光名所『天の大灯台』へ向かっている『天の大灯台』とは港の高台にあるかなり大きな灯台の事である。
そこから見渡す風景は絶景そのものだが、それ以外は大して凄いものなど無い。
特に灯台など馬鹿にでかいだけであってそこには大した特徴など無い。
特徴とまでは言えないものの強いて言えばその灯台。そして、そこまでの交通手段である列車も全て国営だと言うことである。
つまり今乗っている列車は国が運営しているのだ。
その列車も名物と言うべきなのだろうか、列車は木製を思わせる車両の蒸気機関車である。(実際はそんな効率の悪いものでは動いていないが)
そんなほのぼのとした車窓の景色はゆっくりと流れていく。
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと・・・止まった。
「へ?」「え?」「あ?」
三人は見事なまでに口を合わせて驚く。
それもそのはず。まだ駅に着くにはあまりにも早すぎる。おそらく半分も行っていないであろう。同じ車両に乗り合わせて居た数人の乗客も彼らと同じように驚いている。
「・・・なぁ、この状況どう思う?あした。」
「そんなもの聞かなくても大体解かるだろ。『アレ』だろ。」
「やっぱ『アレ』か。正直あんまり関わりたくないな。」
歳人が言葉を切ると同時に会話の『アレ』が車両間の扉を蹴破った。
「おめーら!動くんじゃねぇぞ!」
扉の向うから出てきたのは銃を持った二人組みの男だった。
「いいか!この列車は俺たちが占拠した!死にたくなけりゃ金目のものを通路にだしな!」
男が怒号と共に天井に向かって銃を乱射させる。
乗客は悲鳴を上げることすら許されぬまま言われたとおり金品を通路に置く。
「・・・やっぱり『法外地区(アウトロウ)』の不良どもか。」
法外地区(アウトロウ)。正式名称は法律適応外危険地区。
比較的治安の良いこの国で唯一最も治安の悪い地域の事をさす。
その地域は幾ら国が干渉しようとしても決して入り込む事が出来ない非常に危険な地域。
その地域に住むものは不良や殺人鬼。果ては行政すら関わる事を拒むほどの国家犯罪者などがいる。そして、法外地区・アウトロウを出て事件を起こす事もしばしば。
「さぁて、どうする?さいと。このまま大人しくしてればそのうち軍警察が来るだろうが。」
「・・・そんなの待ってどうする。どうせ間に合わないよ。それより・・・」
「何考えてるのよ!変な事考えてないで大人しくしてましょうよ!」
「つばき、それは無理な相談だ。だってよ・・・」
三人が暢気に言い合っているところへ二人組みの男の一人がやってくる。
「おい!てめえらもさっさと出せ・・・っ!」
「だってよもう行動起こしちまったんだから。」
歳人は近づいてきた男の鳩尾に綺麗なまでの肘鉄を喰らわせる。
男はもがき苦しむ事も無くそのまま気絶した。だが、そんな光景をもう一人が見過ごすはずも無い。
「てめえ死にてぇのかぁ!?」
入り口付近に立っていたもう一人の男が歳人に銃を向け引き金を引いた。
バァン
発砲した弾は歳人に当たる事は無かった。いや、[発砲した弾すらなかった。]
「がぁぁぁ!」
引き金を引いた銃が暴発し破片が男に突き刺さる。
「まったく・・・。無計画にも程があるよ。」
歳人の隣に居たはずの明日がすでに男の真横に居た。
そして、明日が男に手をかざすと手元が一瞬光り同時に男が前触れも無く倒れこむ。
「仕方が無い。これも乗りかかった船だ手伝ってやるよ。」
歳人が明日の元に歩み寄りながら倒れこんだ男を足で突く。
全身をぴくぴくと痙攣させて動けなくなっているようだ。
「サンキューあした・・・あっ!そうだ。つばきお前はどうする?」
明日軽く礼を言うと思い出すかのようにして後ろで座ったままの椿に聞く。
「お前も来るか?」
「冗談じゃないわ!何で面倒に巻き込まれなきゃいけないの!?私はパスよ!」
「そっ、じゃぁちょっくら行ってくる。」
どうやら椿の機嫌は酷く斜めなようだ。下手に刺激すると何が起るか解からない。
そうして歳人と明日は前列の車両へと歩き出した。
「あした。向うは何人くらい居ると思う?」
「この程度の列車を襲うんだ。多くても10人くらいだろ。」
そんな軽い会話を挟みながら進む。
そして、隣の車両へと何の気負いも無く堂々と入る。
堂々と入り堂々と敵を蹴散らし次の車両へ、そしてまた次の車両へと・・・。
そうして通ってきた5両すべての不良を見事蹴散らし運転席へと入る。それまでに二人が蹴散らした人数は合計14人。予想よりは少し多かったものの大した問題も無く。ここまで来た。そして、運転席には当然今まで蹴散らしてきた不良の頭が居た。運転手は端の方で小さく縮こまっていた。
「ん?誰だお前ら?俺様の部下どもはどうした。」
「そんなの俺たちがここに居るのが答えだろ。」
「ちっ!使えない奴らばっかだな。まぁいいちょうど暇してたとこだ。相手してやるよ。」
さして怒るでもなく軽く笑い飛ばし腰からナイフを抜き構える。
歳人と明日も身構える・・・が、当然のことながら彼らは武器など持っていない丸腰である。
「いいのか?エモノの一つも持たないで俺様とやり合おうってのか?まぁ、それもどうでもいいか・・・。サクッと殺しちまえばんなのどうだっていいか!!」
男は歳人との距離を縮め構えたナイフを振りかぶる。しかし、歳人はそんな状況でもその場を動かない。
「残念。」
小さく一言呟き手を前にかざした。たったそれだけで勝負はついた。
「っ!?」
男は進んでいた方向とは真逆に吹き壁に激突する。
「ぐはぁ!・・・お前ら・・・一体何者だ?」
「あ?あぁ、俺たちは朝王学園、魔法研究養成学科の生徒さ!」
歳人が言い放った言葉に男は目を丸くし驚き。そして、顔をしかめた。
「なっ!朝王学園の生徒だと?ちっ!胸糞悪い国のエリートどもかよ。」
悪態をつきながら男は立ち上がり再びナイフを構える。
「ならいいさ、改めてお前らをぶっ殺してやるよ!お前らのちゃっちぃ魔法なんかに怖がってたまるか!」
「へぇ、ちゃっちぃとはよく言うねぇ。どうやら君は魔法の力を理解してないみたいだね。」
明日が男の軽い挑発に乗る。
「なら、思い知らすのが一番だな。」
「おう!思いっきりぶっ飛ばしてやるよ!」
歳人は右手を握り締めかまえる。
「そうそう。思いっきりぶっ飛ばしてやる・・・って。おい!待てさいと!」
軽い挑発に乗り自分の過失に気がつかないまま話した末。重要な事を見落とした。
だが、気づいた頃には時すでに遅し・・・。
「おぉぉぉぉ!」
歳人は雄たけびを上げながら男に飛び掛り、そして・・・
「ぶっ飛べぇぇ!!」
振りかぶられた腕は男の横を通り床に向かって飛んでいった。
男が避けて空ぶった。それならばまだ良かったのだが、やはり状況は変わらないもの。
拳が床に当たると同時に床が・・・吹き飛んだ。
「・・・ぁ。」

それから凡そ30分後軍警察が到着し、不良達は全員御用となった。
大きな怪我も無く被害は無いように思えた・・・。
唯一の被害は列車である。列車の一両だけがものの見事に半壊。
床はコナゴナ壁も天井も殆ど無い。その中でも大怪我が無かったのは不幸中の幸い・・・。
だが、それでも良い事はあまりない。
「・・・はぁ。」
「ふん!いい気味よ。私言ったよね。変な事考えてないで大人しくしてなさいって。」
大きく深い溜息。それを嘲るかのようにして罵倒する。
「・・・返す言葉もありません。」
「当たり前よ。こんな事した事に対してどんな弁解があるのよ、さーくん!」
軍警察が来るまでの30分。そして、今も歳人は椿に説教を受ける。
つまり、列車を半壊させた張本人。
「さーくんのお陰で楽しい楽しいピクニックは中止。列車は壊すし、何を言われても知らないよ!」
「まぁまぁ、一応不良たち捕まえた事だし・・・その辺にしよう。」
明日が必死で弁護するが、まるで威力が無い。

これから先は言うまでも無い結果だ。
そうして、俺たちの最後の冬期休日は最悪なものに終わった。
椿には説教を受け、俺は帰ってからも親に説教を受け・・・明日には学園で説教を受ける事になるだろう。それを考えるだけでも憂鬱だ。
だけど、まさかこんな事件がきっかけでこれから起る大きな事件に巻き込まれる事になるなんて。そんなの微塵も予想する事も出来なかった。
by規則破りの傍観者