第五話 仕事中に・・・
半蔵からの一通りの説明を終え、歳人達は仕事に入ることにした。
仕事は二組に分かれてする事になった。ひと塊になって監視するよりかは効率がいいとのことである。
明日は半蔵と、歳人は椿とのペアになった。

とても気まずい・・・
仕事の為だからといって二人きりになったのはとても気まずい・・・
監視を始めてから約一時間一言も喋っていない。それどころか顔を合わせることすらない。
歳人はそんな空気を何とかするために話しかけようとしたが、かける言葉が見つからない。
歳人は声をかける口実を考えながら歩いている。その後ろから椿がついてくる。
周りはいたって静かで、さっき乗ってきた列車の音以外はしない・・・と思った。
ドスンッ!!
「「えっ」」
後方から何かが落ちる音がした、歳人と椿声をそろえて、後ろを振り返る。
そこには、無数のピアスに何色なのかわからないカラフルな髪の毛、黒光りした皮製のジャケットを着ている男が立っていた。この男は一体どうやってこの法律適応外危険地区境界線(アウトロウライン)を超えて来たのだろう・・・・・はっ!?
壁にはとてつもなく長いロープが垂れ下がっていた。まさかこの男これで来たと言うのか・・・。馬鹿だ・・・。
男はこっちに気づいたのか、じっとこっちを見ている・・・。っといきなり男は
「ひゃは、ひゃはははははは」
と奇声を上げながら襲いかかってきた。完全にその目には正常な感情は流れていそうに無いおそらく薬物中毒だろう。
「何だこいつ!?」
歳人は、躊躇無く魔法を使って排除しようとした。しかし、椿を見た瞬間一瞬その手が止まった。先日の列車の事件で魔法を使いあんなことになってしまった。それが頭をよぎったのである。
「さーくん、何してるの・・・きゃっ!!」
歳人が怯んでいる間に男は椿を人質に取った。
「つばき!!」
椿も魔法は使えるが、歳人や明日と違い主に人の治療に使われる魔法を専門にしている。つまり攻撃はてんで駄目なのである。
「さー・・・くん・・・・」
男は椿を両腕で容赦なく抱え込んでいる。そこにはまったく人質のことを考えていない力の入れ方である。椿は苦しそうにこっちを見る。
男のイカれた目は歳人から椿に変わった。男は少し興奮してきたのか元々荒い息づかいがさらに荒々しくなった。男は何を考えたのか、椿の頬に顔を近づけ舌を出しぺロっと舐めた。
「!!!!!!」
椿はさらに苦しそうな顔、と言うよりかは今にもどうにかなりそうである。
それを見た歳人はもうそこにはいなかった。
歳人のいた地面は砕けちった。その瞬間男の前にいた。
どうやったのか、男の腕は椿から放されていた。っと言うよりかは掴んでいた腕がありえない方向に曲がっていた。
「は、はは・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男は震えながら叫ぶ。その刹那、数十メートル男は吹き飛んでいた。
倒れ、もだえ苦しむ隣に歳人がいる。その目は今まで見せたことが無いくらい殺気に満ちている。男は足りないオツムでもその状況を把握した。
殺される。
歳人は右手を振りかざす。その手には圧縮された魔法が詰まっている。多分これを食らったら列車一両どころじゃすまないだろう。
そんな右手を歳人は振り下ろした。力いっぱい。
「・・・・さー・・・・・・く・・・ん」
振り切る前に弱々しい椿の声が聞こえた。それに気づいたのか振り下ろした右手は少しそれ男の少し横に当たった。それでも十分男は吹っ飛び、法律適応外危険地区境界線(アウトローライン)にぶつかった。男は血だらけのまま気絶した。
歳人はすぐさま椿の所に駆け寄った。椿は弱々しいものの特に以上も無く、強く抱かれたことによる軽い酸欠ぐらいである。歳人は、下手ながらもヒールを行った。
「・・・さーくん。もう少し治療系魔法・・勉強しなさいよ」
状態が少しよくなったのか椿は呟いてきた。
「はいはい。下手でゴメンネ」
そういいながら治療を続ける。
「けど、ありがとう。・・・助けてくれて」
椿は顔を赤らめながらそう言うと、安心したのか眠りについてしまった。

3分後。半蔵たちがやってきた。法律適応外危険地区境界線(アウトロウライン)のセンサーが反応したのでやってきたのだ。半蔵は男を処分する為に残り、歳人たちには椿を休ませるために監視員たちが使っている小屋に向かわせた。
歳人は椿を小屋のベットに寝かせた。歳人も少し疲れたのか椅子に座る。椿の寝顔を見ながらしばしの休息に入った。
by鱈の弧