第七話 満月の夜

「なに・・・これ・・・・・?」
カーテンの外に広がる風景を見て、椿は唖然とした。
それは先程までとは、うってかわって、まるで違う場所に来てるかのようだった。
ガチャ、と小屋のドアを開け半蔵が入って来た。
「やぁ椿ちゃん。具合はどう?」
「え?あぁ、もう大丈夫です。それより・・・」
椿はチラっとカーテンの外へ目を配らせる。
「うん、実はその事を話しに来たんだ」
「・・・何かあったんですか?」
いつの間にか起きていた明日が問い掛ける。
「『何か』あった、と言うよりこれから『何か』起こるんだ」
「いったい何が・・・」
「それは機密事項で答えられないんだ」
間髪入れずに答えられた為、二人は何も言えなくなってしまった。
しかし、同時に事の重要さも理解出来た。
「それで、ここら近辺は危険地帯になる。君達には学校へ戻ってもらいたいんだ。もう先生には連絡してある」
「「わかりました」」
半蔵は用件を伝えると二人に背を向け、
「んじゃ、僕は仕事に戻るから、君達とは次の列車に乗ってお別れだ。またねぇ〜」
バタン、と小屋のドアが閉まり出て行った。
「これから何が起こるのかな?」
「さぁ・・な。ただ、厄介事なのは間違いない。こいつが起きる前に、さっさと準備しちまおう」
明日は未だに起きない歳人を足蹴にして言った。


法律適応外危険地区境界線(アウトロウライン)を超えて中に戻ってから既に満月が昇っていた。
正午までまだ時間はあるとは言え、雷光は焦っていた。
「くそっ・・・」
どこを調べても、40人も集まっている様子がない。
大きな建物や広場等も中に入り調べてみたが、人が溜まっていた気配は感じられなかった。
法律適応外危険地区(アウトロウ)の中にいる偵察部隊は雷光だけでは無いが、他の者も同じ現状だった。
雷光が途方に暮れていたところに、携帯が鳴り出した。
携帯を開くと、そこには『如月 半蔵』の文字があった。
「雷光、何か分かったか?」
「駄目ですね。全く情報が掴めません」
そう言い切った直後に、キョロキョロと周りを警戒している若者を見つけた。
サッ、と雷光は物陰に隠れ、若者を見張った。
若者は周りに誰もいないことを確認すると、路地裏へと進んで行く。
雷光も後を追い、路地裏へと進む。
「雷光?何かあったのか?」
「怪しい人物を見つけました。追跡中です」
路地裏の奥には古びた大きな倉庫があった。
若者は倉庫の前でもう一度周りを警戒すると、中へ入って行った。
「こんなところに倉庫が・・・」
「なんだって?倉庫?」
「えぇ。怪しげな倉庫を見つけました。場所は―――――。今から中に入ってみます」
「分かった。気をつけろよ」
雷光はピッ、とボタンを押し電話を切った。
音を立てず恐る恐る真っ暗闇の倉庫の中に入る。
中には、ちょうど真ん中の辺りに大きな魔方陣が描かれていた。
雷光は一瞬で気づいた。
あの魔方陣は法律適応外危険地区境界線(アウトロウライン)の外に出れるワープゾーンだということに。
だが、魔法陣に目が入り、雷光は気づけなかったのだ。
最初に尾行していた若者が雷光の前にいなかったことに。
そして倉庫には、二階があるということに。
刹那、雷光の後頭部に衝撃が走った。
雷光は倒れ、その上から何度も何度も無数の人間から雷光は打撲を受けた。


正午前、雷光の遺体が見つかった。
連絡が取れなくなり、心配した半蔵が他の偵察隊員に倉庫の場所を教えたのだ。
雷光は見るも無残な形になっていた。
魔法陣は雷光の血で消えかかり、ワープとしては使用不可能となっていた。
倉庫には約30数名の人間が残っており、確保した。
雷光が気づくのが早かった為、あまり移動出来なかったようだ。
それでも、魔法が使えると言われていた者は残ってはいなかった。
by絶望君