第21話 恵みのカケラ
「これはな、"水"を作るための物なんだよ」

「「!!!」」
"水"というキーワードに反応する二人。
その後ろで発せられた言葉の意味を理解できず取り残される歳人。
先生は椅子の肘置きに頬杖を付いてその様子を目を細め観察している
とりあえずオウム返しに質問を返す作戦をとってみる。
「?・・なぁ、"水"を作るってどういう」
「「・・・先生それってっ」」
と、三人の声が重なった。
観察をやめ、三人の発言を軽く手で制し再び説明を続ける。
「そう、二人のお察しの通りだが、薄学たる歳人君にもわかりやすく説明すると、"水"というのは『雨』のこと。すなわち"水"を作るとは『雨』を降らせることだ。」
二人はやはりと頷き、薄学王はなんとか飲み込んだという様子。
「といってもこれはいわばサンプル。まだ完成には至っていない、不完全な代物だ。」
一呼吸置き、三人の顔を確認するに見てから再び言葉を紡ぐ。
「そしてこれはあまり知られていないが、この魔晶石(エレメンタルクリスタル)にはその用途により一つ一つに名前がついている。ちなみにこいつは『空の泉』。開発した学者がつけたものだ。しかし『空の泉』とは、なかなかどうしてシャレているとは思わんか?」
手首を捻り角度を変えながら光の反射で色の変わるそれを目を、細め眺める。
その口元に無意識の内に形作られた笑み。どこか狂気じみたものを感じる表情だ。
(『空の泉』?どっかで聞いたなぁ・・・う〜ん・・・『空の泉』・・・・ん?!)
「『空の泉』!?」
歳人氏の脳内、聞き覚えのある単語にその使命を全うせんと海馬が反応し、引き出しに収められていた記憶が勢いよく飛び出した。
突然発せられ大声に隣にいた二人はビクッと瞬間体を宙に浮かせる。
一瞬、先生の双眸が歳人を捕らえ光ったが、それに気付いたものはいなかった。
「どうしたね歳人君?」
いつものように至極冷静に、だが少し粘性の声色で問う。
「そ、そそそ、それが、それがそれがですね!」
使い慣れない(もの)を勢いで使った代償か、問われた少年はこれまた慣れてない敬語を使い、しかもうまくしゃべれてない。
そんな目の前の壊れた生徒を見て憐れと思ったか、ただ単にウザいと思ったのか、机の上においてあった閻魔帳の背でその脳天に一撃を見舞う担任。いわゆるショック療法である。
だが、インパクトの瞬間閻魔帳のページが飛び散った件も含め、明らかに本来の目的外の威力を有した一撃である。先に挙げた動機はどうやら後者のようだ。
すると、紙吹雪舞う中、普段のボケェ〜っとした少年の姿がそこにあった。
※これは魔法ではない!繰り返す、これは魔法ではない!
「では続きを」
事態を冷静に見つめている明日や、ちょっと!さーくんになんてことすんのよっ!とか色々言ってる椿嬢を軽くスルーし、非情の先導師が促す。
「はい。実は・・・」
歳人は昨日の草原から転送されてからの出来事を大雑把に説明した。もっとも詳しく説明できたのかといえば疑問だが。
「なるほど。そんなことがあったのか(ね)」
さきとは収まり、冷静さを取り戻した椿嬢と常に冷静沈着明日氏は得心したりで頷いた。
「ふむ。報告とも合致するな。」
こちらも反芻するように空を読みつつ頷く。
「?先生、報告って、兄が歳人に合流するまでのものしかないんじゃ?」
聞いていてふと引っかかったことを質問する明日。
「ああ、それか。それなら簡単だ。この学校支給の全ての制服には、万が一に備え会話を拾うための盗聴器がついているのだ。超小型仕様だから敵に気付かれる心配もないぞ。」
サラリと自慢げにとんでもないことをのたまう学園教師。
「!!う、うっ嘘でしょ!?どこどこどこ!?」
担任の爆弾発言に完全に冷静さを失い制服を弄る椿嬢。
「ふっ、冗談だ」
不敵ティーチャー、お馴染みのニヤリッ顔が発動する。
「さて、話を元に戻すと、」
いまだ混乱いている女子生徒を放置して、非情の先導師が脱線した話を復帰させる。こういうとき切り替えの早い大人はズルい。
「歳人君からお聞きのように、この『空の泉』の情報をその"無神"とやらが持っているようだ。話していなかったが、この開発者は何者かに殺されてな、現在研究が中断されてしまっているのだよ。我々としては例え情報・サンプルの欠片であっても回収したいわけだ。そこで、だ。できれば事は穏便に運びたい故、君たちに彼らとの交渉(・・)を頼みたい。幸いなことに歳人くんは彼に気に入られたようだしな。」
"交渉"
穏便にと言っているがおそらくそうはならないだろう。彼らにとっても『空の泉(これ)』は計画の要であり、そうやすやすと渡してくるとは思えない。
「丁重にお断りしますわ。」
さっきの腹いせとばかりにいやみっぽく鼻を鳴らす椿嬢。
「右に同じです。いくらなんでも今回は危険が大き過ぎます。」
「いいとも〜」
そんな中馬鹿一人。
「問題ない。そのための護衛だ。」
三人の意見を受け止めたかどうかもわからないタイミングで返す依頼者。
不敵な笑いを貼り付け、その口が半月に吊り上げる。それはもう事が決定し、覆らない証。
ここに三人組不運記、第ニ幕の幕が上がった。
あとがき 〜なんだかいつもの如くすごい量ですね(;^_^)〜

えー まずはお久しぶりです図書神です。
色々トラブルその他山盛りでしたが、無事後半戦突入いたしました。
これもひとえに皆様方のウンタラスンタラ以下略。
これから一層盛り上げて参りましょう!

今回は正統派、無難に決めてみました。
いつもと違いつなぎではなく、ストーリーを展開しなければならなかったわけですから。
常に逃げてばかりの自分に喝をいれてくださったあげ隊長には頭が下がります。(本人は多分そんな自覚ないでしょうけど)
後半から調子が上がってきて、ないに等しい実力ではありますが
ようやく本来の力を出せた気がします。(自分が書いて楽しかったともいう)
細かいところを挙げればきりがありませんが、全体として悔いはありません。非常にスッキリした気分です。

いろんなところで申してる気も致しますが、
テスト中とはいえ、実に10日間の滞納もはや許され難しぃ!!
ごめんなさいm(_)m 編集長がこれではダメですね。
次回からは勢いにノッて〆切守りたいと思います。(自分の力では守りきれない情けなさ)

それから、報告が遅れましたが、私のHP内で前作も含め今までのLS作品を公開させていただいています。もしよろしければご活用ください。
http://www.geocities.jp/worldofonly2015/index.html 
by図書神山地