第23話
目の前には俺のことを殺しかけた無神が一人用のソファーに座っている。
その後ろには刀なんか持ってる物騒な奴が歳人達を睨みつけながら立っている。
歳人達も三人くらい座れるソファーに腰をかけている。
ここは何処なのだろう。周りは随分と荒れた廃墟といった感じだ。その真ん中にテーブルを挟んでソファーが二つ。
なんだか空気が痛い。すごく痛い。というよりかは殺気が漂っている。目の前にいる刀を持ってる奴。こいつ一人から放たれているものだ。少しでも変なことをしたら食い殺されそうなくらいである。まるで、野うさぎを狩る狼のような殺気だ。
そんな空気の中、軽く無神は軽く口をあけた。
「さて、どうするのだ」
無神のこの言葉に歳人は眉を寄せた。額からは数滴の汗。隣に座っている二人も同じような感じだ。
今、ここで、返答を間違えたら・・・。殺される・・・。

十数時間前
歳人は普段どうり学校に来ていた。昨日の先生の話を忘れたわけではない。だからといって何かすることもない。
無神と交渉するといっても、「はい、わかりました」と会いに行くなんてできない。だから、いつくるかもしれない危険な状況の前に、精一杯普段の生活を満喫することにした。
「〜であるからして、この公式はこうあてはめる。そうするとこのY軸にあたる・・・」
そう満喫するのである。
「ぐぁ〜」
歳人は教科書を立て、腕を枕に安らかな睡眠をとっていた。
先生の講義が子守唄なのか、とても気持ちよさそうに、いびきなんか立てて。
コツ、コツ、
歳人の方に一人の足音が近づいていく。
ゆっくりとその音は近づき歳人の席の横で止まった。
「はっ!!」
歳人が気が付いて、起きた頃にはもう遅かった。横を振り向く
「ほぉ〜。私の授業がそんなにも寝心地が良いかね?片山君〜」
「は、ははは。え〜。まぁ・・・」
かなりの苦笑で答える
「そうか、そうか。そんなに寝たきゃ、廊下で寝てろ!ばかもーん!」
首根っこを掴まれたと思ったら気づけば、廊下に投げ出されていた。

昼休み
屋上で三人は昼食を取っていた。
歳人はパン。明日はおにぎり。椿は手作りの弁当である。
「はぁ〜。日常に戻ったと思ったらあれかよ〜」
「さーくんが悪いんでしょ。居眠りなんかしちゃって」
「まぁ、あいつの授業で眠くなる気持ちはわかるが」
三人おのおの昼食を取りながらそんな日常にあふれている会話をしていた。数日の間は色々とあり、こんな風に昼食をとるのは久しぶりである。
空はいつもどうり晴れ渡り、雲ひとつ無い。この空に雲をかけ、雨を降らせる「空の泉」。その鍵となる位置についてしまった歳人達。そんなことを考えると食べ物も喉を通さない。三人は同じことを考えていたのか、食べるのをやめてうつむいてしまった。
「ピーンポーンパーンポーン。例の三人。今すぐ応接室まで来てください」
・・・・・。
なんだか突っ込む気すら起きない。もう例の三人で定着してしまったようだ。

ガラ・・・。
三人は昼食を中断し応接室に入った・・・。

そこまでは記憶にある。だが、なぜだろう。気が付いたら車の中というのは。
「おお。起きたか」
目の前には昨日(であってると思う)「空の泉」の交渉の話しをした先生がいる。車のゆれの中今現在自分たちがどのような状況なのか一生懸命考えた。
「ここは?」
頭を抑えながら歳人は言った。まだ、何か頭の中に残ってるような感覚である。
「少し手荒だとは思ったが、急に決まったことでね。無神とのコンタクトが出来るようになった」
やっと周りを見て今が夜だと言うことを理解しかけたころに先生は言った。気づけば隣には明日の兄、明月が座っていた。
「このさい、どうやってこのコンタクトにこぎつけたのかは省こう。この交渉で「空の泉」が・・」
「待ってください!」
先生の話を止めるように歳人は叫んだ。その叫び声でまだ寝ていた椿と明日が起きた。
「僕たちは断ったはずなのにどうして、そんなことになってるんですか!?」
当然の講義だ。こんな拉致するかのように連れてこられて、いきなり交渉しろと言われてはい、そうですかと言えるやつはかなり肝の据わったやつか、ただの馬鹿くらいだ。歳人達はそのどちらでもない。
「先生これはどういうことですか!」
「何で今夜なの?私たち昼食を食べててそれで、呼び出しを受けてから、それから・・」
二人もやっと頭が働いてきたのか話しに混じり始めた。
先生は今の状況をわかりやすく、それでいて最低限に説明した。
端的に言うと、コンタクトをとる手配は出来たが、指定してきた日時があまりにも急すぎて説得してから連れてくるのでは時間に間に合わない。だから、しかたなく呼び出し薬をかがせて拉致したのだ。
「わかりました・・・」
歳人から思いもかけない言葉が出た。それに二人は驚いて顔を歳人の方に向けた。
「待って、さーくん。こんな危険なことやるなんて・・・」
「そうだ、ここは断るべきだろう」
二人から猛反発を受ける。当然だ。だが、
「二人とも最後まで聞いてくれ」
真剣な顔で言うと、二人は立ち掛けていた足を曲げ、座席に戻った。
「今回の交渉。やります。けど、この交渉が終わったら俺たちにはこの話しは関係が無くなる。だから、俺たちが協力するのはこれが最初で最後です。これを守っていただけるのでしたら・・・。やります」
冷静に、しかし力強くまっすぐな目で先生に向かって言い放った。
「わかった。交渉が終わったら、君達にそれ以上の協力を求めない」
先生は軽く頷いた。
「わかった。さーくんがそういうなら」
「俺も」
二人とも同意してくれた。心の準備はまだ出来ていないが、交渉のへと向かった。

「ここだ」
廃墟だった。もう、崩れすぎてこれ以上廃墟にならないんじゃないかと思うくらいの廃墟だった。
「明月を隠れながら、護衛に付かせる。何かあったらすぐ駆けつけられるように」
「わかりました」
そう言うと、三人と一人は廃墟の中へと入っていった。
中は少し電機が付いているのか薄暗くなっている。
「やー。歳人君。来てくれたか」
廃墟の真ん中にはここには似合わないソファーとテーブルが置いてあった。あいつらが用意したのだろうか。
無神は一人用のソファーに腰をかけこちらに話しかけてきた。
「まあ、座れ」
手を差し伸べた先には三人が座れるくらいのソファーが無神の座っているソファーと挟んで用意してあった。それに従い三人は無言でソファーに腰をかけた。
「さて、早速だが、本題に入ろう」
緊張が走る。それと一緒に殺気も来た。気付けば無神の後ろには刀を持った奴がいる。
「歳人。「空の泉」の情報が欲しいらしいな。教えてやらんことも無いが。条件がある」
何だろう。こんな感じのことを前にも言われたような気がする。そんかことを考えていた。
「お前が、部下になるなら教えてやろう」
最初に会ったときにもそんなことを言われた。
「え・・・」
聞いていない。そんなこと。交渉しろとは言っていたが、こんな条件があるとは聞いていない。先生は知っていたのだろうか。
「さて、どうするのだ」
殺気が刺さるようにくる。ここでなりませんなんて言ったら、確実に殺される。かといって部下になるなんてまっぴらごめんだ。どうする・・・。
「わかりました。私たちはあなたの部下になります」
「「!!!」」
何を言ってるんだ椿は、そんなことうしたら、
「けど、その前に「空の泉」の情報を頂戴」
何処にそんな度胸があるのだろう。まっすぐに無神の方を見て言った。
「いいだろう。これが「空の泉」情報だ」
何枚かの紙で構成された資料を渡された。
「確かに。では・・・。走って!!」
椿は振り向いてすぐ車の止めてある方へと走り出した。
それに続いて二人も走り出した。
「やはりそうか。捕まえろ」
そう言いながら手を上げ手首を振り刀の奴に指示をした。
最初はこちらが走りだしたからかなりの間隔があったはずなのにすぐに詰められた。
失敗した。そう思った。
「お前ら、行け!!」
振り向けば、明月が刀の奴を止めていた。
そのスキにすかさず車のほうに向かい乗り込んだ。
「よし」
明月は、相手を突き放すとすぐさま車に向かい乗り込んだ。
「クソ、逃がすか」
いくつもの魔法と見られる光球が飛びかう中歳人達はその場から逃げ去った。
by鱈の弧
この原稿が上がったのは午前3時40分。
精根尽き果てた鱈の弧氏は、私にこの原稿を渡すと
眠りを求め去って逝きました。
故にあとがきはありません。
鱈の弧先生、本当にお疲れ様でした。ゆっくり休んでください
といいたいとこですが、
残念なことに先生ぇ、今日は平日の真っ只中です。