第29話 抗えぬもの
 対峙する。張り詰め始めた緊張感の中に潜む一縷の殺気。
歳人ら三人はその空気に今にも押しつぶされそうになる。
 その嫌悪感漂う空気の中悠然と立っている男が一歩だけ歳人達に歩み寄り、歳人だけを見据える。そして、三度目になる・・・あの問いを投げかけられる。
「さて、歳人・・・これで三度目になるな・・・愚かなものだなこの私も。たった一人の少年にどうしてここまで拘るのだろうなぁ・・・?」
 中途半端な問いかけを投げるとまた一歩、歩み寄る。
「私の部下になれ。そうすれば他の奴を見逃してやる。」
 また一歩・・・歩み寄る。徐々に狭まって行く無神との距離。そんな恐怖の中必死に意識を保つ歳人。そして、震える体を抑え投げかけられている問いの答えを返す。
「答えは・・・」
「っと言いたいところだが。」
 歳人が答えを返そうとしたその瞬間再び無神が重く深い声で歳人の答えをかき消す。
「もうお前に拘るのはやめだ・・・」
 狭めていた距離を一旦戻すかのように無神は後ろを向きゆっくりと元居た位置まで戻る。
「私は部下・・・仲間にはそれ相応の敬意を払う・・・が、敵に対しては・・・」

ジャリ

「!?」
「躊躇いなど微塵も無い。すべて消す・・・殺せ。」
「伏せろぉぉぉ!!」
 次の瞬間からは怒涛の攻防となった。
 いつの間にか後ろにものすごい殺気と共に何かが振られる気配を感じ指示通り迷わずその場に伏せる。
っと、同時に・・・よりも早く明月が左手で銃を抜き後方に向け乱射。
放たれた弾丸はあるところまで飛ぶと金属の衝突を立て瞬く間に落ちていく。
「なんや!!いつの間に後ろに・・・つうかどこにおるんや!!」
「にいさん気をつけろ。そいつは姿が消せるんだ!!」
 伏せつつ明月に警戒を促しすぐさま術の詠唱に入る。
「その通りだ。ミラの能力を見破ったか?・・・違うか。ならば少しは楽しめたのだが・・・やれヴィオ。」
「はい。」
 無神への返事からすぐさま杖を振り火柱を放つ。対象はミラに攻撃するために後ろを向いている明月に。それをすかさず詠唱が終わった明日の氷の魔法によって相殺される。
 炎と氷の衝突によって氷が蒸発。霧となって周囲を覆う。
「そこか!!逃がさへんで!!」
 消えていたミラの輪郭が霧が発生したことにより浮かび上がる。それをすかさず狙い連射。だが、見えていているといってもやはり不鮮明な状態ではいまいち狙いが定まらない。
「支援援護」
「悪いけどさせないわ。」
 ヴィオが再び術を放とうとしたが、素早く動いていた水穂が手にした短剣で杖を止める。
「ほぉ・・・ミラとヴィオを抑えるとは・・・な。」
 まるで無関係を装うかの様な感想を述べる。この状況下の中まるで当たり前であるかのように立ち振る舞う。
「うぉぉぉりやぁぁぁ!!」
 そんな無神目掛けて歳人は魔力を込めて全力で殴りかかる。それを見る無神は少々あきれ返った顔をしている。
「またそれか。芸がないぞ歳人。」
 飛び上がり、振り下ろされる拳を当然かのごとく軽々と片手で歳人の攻撃を制する。
「無属性の魔法攻撃は万物の対象に効くが、その程度ではたかが知れている。」
「今だ!あした!!」
 計画済みの行動であった。歳人の攻撃が通らないのは計算のうち。上から攻撃すれば防御にしろ反撃にしろ必ず意識は一瞬上に集まる。
 そして、その死角である真下から攻撃が来ればどんな達人であろうと避けるのは至難。
「っ!!」
 無神の足元を中心に無数の氷の刃が突き出す。さすがの無神もその状況下では避けきることは出来ず直撃は免れたもののかなりの傷を負った。
 しかし、そんな危険地帯の中でなぜか歳人は傷一つ負っていなかった。
「ナイスタイミング!!つばき」
 椿の防御魔法を展開したことにより歳人に向けて突き出る氷の刃。その着地点すべてを守りきったのだ。そして、無神の隙を逃さず再び攻撃にかかる。
「無属性がダメなら属性があればいいんだろ!?」
 そうして、再び右手に魔力を込める。すると、周囲の氷の刃が見る見るうちに溶けて行く。そして、その拳はたがわず無神の懐に入る。
ふっぐぅ!!」
 直撃。拳の当たったところは煙を上げながら焼け焦げた匂いが立ち込める。
しかも、その衝撃で体が後退し氷の刃に切り刻まれる。
「「無神さま!!」」
 ミラとヴィオも思わず叫ぶ。
「おいおい。」
「よそ見しないの。」
「お前の相手は・・・」
「私達よ!!」
 見事に折り重なる明月と水穂のセリフ。その中に含まれる激しい攻防にどちらも無神の下へいけない。
「どうだ!!」
 歳人の自信に満ちた歓喜に近い叫び。無神はなぜか口元を緩め笑みを見せる。
「くっ・・・ははははは・・・面白い。なかなか面白いじゃないか。歳人」
 全身傷だらけの無神はぞっとするような笑みで歳人を見下ろす。
「私が油断したとはいえ・・・まさかここまで手傷を負わされるとは・・・予想外・・・うれしい予想外だ。」
 無神は自分の懐を探っている。自分の体から血が絶え間無く流れているのもまるで関心が無いかのようだ。
「あの男・・・半蔵だったか?あの男も楽しませてくれたが、お前たちもがまさかここまでとはな・・・」
「半蔵さん・・・!?」
 嫌な予感はしていた。最悪の結果も判らなくもなかった。無神を抑えていた半蔵がここに居ず。無神が目の前に居るという原因から導き出される結果を。
「冥土の土産をくれてやろう・・・これで貴様らを葬り去って。」
 懐から手を出すと一本の万年筆が握られていた。様に見えたのは一瞬だけだった。今握られているのはまごうことなき槍だ。
「まさか一日に二度も使うことに・・・なるとはなぁ!!」
「なぁっ!?」
「さーくん!!」
 無神は持っている槍を力任せに薙ぐ。ただ、それだけだった。それだけで、とっさに椿が張った防御魔法を破壊し歳人を吹き飛ばす。
「ふぐぅ・・・んがぁ・・・」
 弾き飛ばされた歳人は明日と椿の前まで飛ばされていた。その圧倒的な破壊力と衝撃を直に受けたことで蹲り動くことが出来ない。
「ふん。クズどもが・・・!」
 歳人を明日たちの居るところまで一直線にはじき飛ばしたのを確認した後
再び槍を構える。さらに、今度は槍の先端に魔力を集中させ・・・
「さて、そこの邪魔者には・・・消えてもらおう!!」
 溜めた魔力と共に槍を突き出す。それにより魔力が無数の光る散弾となり飛び散る。
そして・・・
「えっ!?」
「んなぁ、馬鹿な!!」
 飛び散った無数の光弾は半分ずつ[明月と水穂に狙い違わず]飛んでいく。
二人とも逃げようとするが光弾はその動きに合わせて追いかけ
「にいさん!!」
「姉さん!!」
 『全弾命中』それはまさに敗北宣言を叩き出されたかの様だった。
光弾の属性が炎だったのかそれとも魔力の密度そのものがもたらしたものか、二人は火傷のような状態だった。何より二人は・・・動かない。
「無神様。」
「申し訳ありません。力足りずあなた様のお手を煩わせてしまい・・・。」
 今の攻撃で相手の居なくなったミラとヴィオは無神の前でひれ伏す。
「いい。私も久しぶりに楽しめたのだ。」
 発生していた霧もいつ消えたのか。または、今の衝撃ですべて消し飛んだのか。
良好な視界の中にあるものはすべてへの絶望だった。
「あ・・・あぁ・・・」
 無神の圧倒的な破壊力の前に倒れる歳人。光弾をすべて受け動く様子の無い明月と水穂。その3人を見て絶望的な現状にもはや失神寸前の明日と椿。
「5分・・・か。決して悪くは無かった。お前たちは決して弱くは無かっただろう。
ミラやヴィオだけではなく。君たちに敵う者はまず居ないだろう・・・だが。」
 その顔に深々と刻まれた他者を凍て付かせるほどの笑みを浮かべる。
「私に敵うものか。貴様らとは生きてきた時が違う!己に刻んできたものが違う!何より・・・」
 そこで一端切り、声のトーンを一気に落とす。
「貴様らとは覚悟と信念が違うのだよ・・・。」
 握った槍を振り上げ静かに目を瞑る。まるで黙祷でも捧げているかのように・・・
「お前達のような未来ある者を消すのはとても忍びない・・・生きていればいつか化けるかもしれない・・・。だが!私の敵である以上・・・等しく死の制裁を下す・・・。」
 瞑った目を開き歳人達を見据える・・・
「さらばだ・・・」
あとがき
ふぃ〜 (▼〆▼)y―~~~
まぁ、この辺がリミットだね。我の
ベタな切り方をしてしまったのは正直残念だが・・・まぁ、いっか。(マテ!!
無理しても人の限界超えるのは安いもんじゃないからねぇw
っと言うことで次の奴は死ぬ気でがんばれ〜。じゃ無いと死ぬのは歳人たちだからなw
byハガル・ニイド