握った槍を振り上げ静かに目を瞑る無神。まるで黙祷でも捧げているかのように・・・
「お前達のような未来ある者を消すのはとても忍びない・・・生きていればいつか化けるかもしれない・・・。だが!私の敵である以上・・・等しく死の制裁を下す・・・。」
瞑った目を開き歳人達を見据える・・・
「さらばだ・・・」
第30話 消える灯火
その異変に最初に気が付いたのは無神だった。
必殺の一撃を叩き込んだのにまるで手応えがない。
現に目の前に在る世界にもまるで変化が見れらない。
いや、変化はあった。
見ると手中にあるはずの槍は消失している。
それを握っていた両手さえも。
「歳人を・・殺・すのは・・っ・この・・俺だ・・・!」
眼前に、
黒衣の亡霊が立っていた。

「「なっ!」」
あまりの状況に驚愕する従者二人。
無神の負傷もそうだが、死者の出現が混乱に拍車をかけていた。
だが、いつまでも呆けている場合ではない。
復活してからの二人の行動は迅速だった。
「無神さま!」
駆け寄るヴィオ。
自らの服を破りそれで傷口を縛り止血する。
ミラも気配だけを移動させる。
敵前とはいえやはり主の安否が最優先だ。
殺気と構えだけは歳人たちに向けたままだが。
その間に、転がっていた両手を教授がさり気なく回収する。

従者たちが主の元に意識を向けている間に、
亡霊はここに存在する(来た)目的を果たすべく動いた。
「し・ね・・・さ、いと・・。」
聞き取れないくらいの掠れ声でそう呟き、
吸い込まれそうな闇色の球体を出現させる。
全身が火傷で真っ黒に焦げ、もはや本人と識別できる材料は繰り出す技のみであった。
かつての貫くまでの殺気は影もなく、執念だけが彼を突き動かしている。
だが、
そこまでだった。
技の発動に全生命力をもっていかれ
直立姿勢を保てなくなり、その身体がグラリと傾いた。
そしてそのまま
自ら生み出した球体に上にのめり込むように倒れる。
それが
己の復讐に全てを捧げた男の
最後の姿だった。

「ぐぅっ・・!」
「無神さま、ここは無理をなさってはであります・・」
傷ついた身体に鞭打ち、攻撃の体勢を解こうとしない無神をヴィオが全身で制す。
この決して折れぬ精神力・覚悟でもって、あの地獄を生き残ってきた。そしていまここに在る。それ故にこの男、己が信念を曲げようとはしない。
「ん〜、ここは一旦退くべきだと思うのだがねぇ?」
その横で教授がニヤニヤと他人事のように提案している。この場にあって唯一緊張感を感じさせない嘲笑だ。
無神の意思に呼応するようにミラの殺気が膨れ上がる。
そしてその意志を代行すべく瞬時に
戦意を喪失している三人の間―自らの間合いへと滑り込む。
腰を深く落すように構え・・抜刀―
「そこまでだ」
その発せられた言葉よりも重い一手が柄に押し当てられ攻撃を中断させられるミラ。
封印者は更にそこに印を結び魔力を構築、追撃する。
抜刀を完全に封じられたミラはなす術がなかった。
そんなミラに背を向け公用車に乗り込んだ先生(ドライバー)
無神へ嘲笑うように一瞥をくれると
三人に倒れている二人を車に乗せるよう指示する。
「では"無神"君、また遭おう(・・・・・)
時と場所を選ばず満面のニヤリ顔を貼り付けて颯爽と走り去っていく。
そんな朝王学園公用車の遠ざかる様をただ見送る四人。
いつのまにか、周囲の霧が晴れていた。
あとがき

・・・死者への冒涜が過ぎたようですね
反省しています
利用するだけ利用しといてポイッですから
中川 勇氏のご冥福を心よりお祈り致します
南無(―人―)南無

さて、
物語もいよいよ終盤戦です
みなさん
持てる技術と想像力を最大限に駆使して
最高の状態まで高めていきましょう

気合ですぜ
by図書神山地