第34話 守りたいモノ
勢いよく来たものの、やっぱり一人になると怖い。
わたしは、さーくんやみつや君とは違い、戦闘系の魔法はあまり使えない。
もし、誰か出てきたらどうしよう?いや、ここは敵地。敵が現れないわけがない。
そんな事を考えていたら、体が震えてきた。どうしよう?どうしよう?殺されちゃう。
今から戻ろうか?走ればどっちかに追いつくかも・・・。
いや、駄目だ。それじゃあ自分は来た意味は無い。それどころか、お荷物になってしまう。
ぺしっ!と両頬をはたく。
しっかりしろ、椿!わたしだって、さーくんやみつや君、それに学校のみんなとの生活を守らなくちゃ!
わたしは勇気を振り絞って奥へと進む。すると、細かった道が次第に広くなり、大きな広場に出た。
その瞬間、左方から殺気が込み上げられてくる。
すぐに反応出来たものの、体が震えて動かない。殺気の主は素早く迫ってくる。
もうだめ、殺される!最後にわたしから出た言葉は、「きゃあっ」という悲鳴だった。
悲鳴を聞き、殺気の主はビクっと体を震わせた。そして、
「・・・つばきさん?」
なんと、自分を攻撃しようとしてたのはみつや君だった。おそらく、お互いに敵と間違えてしまったのだろう。
「どうしてここに?右の道に進んだはずじゃ?」
「わ、わたしはちゃんと来たわよっ!」
途中、逃げようとしたけど。
「・・・なるほど。あの分かれ道、結局、繋がってたのか・・・。ん?待てよ?歳人はどうした・・・?」
「さーくん?わたしは見てないけど・・・」
辺りを見回してみる。どうやら、この広場に繋がってる道は、わたしが来た道とみつや君が来た道、そしてこの広場を抜ける為の、奥にあるもう一本の道だけのようだ。
「まぁどうせ目的地は同じだ。歳人の事だから一人でも平気だろう」
みつや君はそう言うと、広場の奥へと進む。
「ま、待ってよっ!!」
すると、みつや君が足を突然止めた。ホントに待ってくれたのかな??前?・・・あっ。
広場を抜ける為の奥の通路を塞ぐように、見た事のある女性が立っていた。
小柄な体にしては、やけに大きいとんがり帽子にマント。首からペンダントをかけている。
もう少し目を凝らして見てみる。すると、向こうの景色が一瞬ボヤけた。
やはり、その透明の相方もいるようだ。
どうする?勝敗は分かっている。すでに一度負けているのだから。
みつや君の方を見てみる。すでに戦闘態勢だ。この人達に勝つ気でいるの?無理だ。
前の時とは違って、今回は確実に殺されるだろう。
まただ。足が震えて動けない。自分はこんなに臆病だったのか。
誰も動かない、緊張の瞬間が長く続く。逃げ出したい。でも体が動かない。
自然と涙が溢れる。心が張り裂けそうで、意識が飛びそう。
ゆらゆら揺れていた雫は、瞳からこぼれ落ちた、その瞬間―――――――

「くそっ 行き止まりかよ!!」
俺は思わず不満を口に出してしまう。
明日や椿と別れ、随分と進んだが結局行き止まりだった。
諦めて元の場所へ戻ろうとした時、
「待ちたまえ」
何もなかったはずの行き止まりに、白衣を着た、妙な奴が現れた。
「この魔法陣、無神の部屋へ繋がってるとしたら、どうする?」
「な、なに!!?」
なんだ?こいつは?何を言ってるんだ?
だが、魔法陣の話が本当なら、自分は間違っていなかったコースを選んだ事になる。
「・・・あんたは無神の仲間じゃないのか?」
「ちょっと違うなぁ。ふむ。あえて言うなら『協力者』といったところか。この空の柱を作ったのも、私だ」
!! 空の柱を作っただって!?
「な、何故、協力者のあんたが無神を裏切るような行為をするんだ?」
「別に裏切ってるわけじゃあない。無神との取引は空の柱を作るまでだった。今となっては仲間ですらないわけだ。つま〜り、ワタシはここにいない者として扱ってくれたまへ、少年」
こいつの言っている事が全て本当ならこの魔法陣は、無神のいるところへ繋がっているだろう。でも嘘なら・・・。ええぃ!考えたって拉致があかない!もう行くしか無い!!
俺は魔法陣の中へ入り、転送された。

――――― いつっ・・・!
右の掌から血が湧き出てくる。そこには透明の刀があった。
何とか止められた。だがそれが精一杯だ。
透明のこいつをずっと見てたおかげで、何とか攻撃を止められた。
動いた時の音の向き、角度、そして何より殺気が椿さんを襲うと物語っていた。
咄嗟に差し出した掌に穴が開いてしまったが、椿さんには刺さらなかったようだ。
椿さんが目を大きく広げ、驚き、震えている。
次の一撃がくる。これは、さすがにそれは守り切れない。
「椿さん、下がって!!」
俺は声を発すると同時に空気中の水分を凍らせ、つららに変えた。それを自分の掌に穴を開けてくれた透明の男に向かって次々と飛ばしていく。
透明の男――ミラとか名乗っていたな――が刀を掌から抜き、避けようとしたが、俺の掌はすでに血液が凍り、刀と右手は離す事が出来なくなっている。
つららは、ミラの目の前まで近づいていた。くらえっ!!
だが、敵は一人では無く、二人いたのだ。
ミラの背後にいたヴィオが結界を張り、それに守られたミラは一撃も当たらなかった。
そして、血液を凍らせたのが裏目に出た。相手も逃げられないが、自分も避けられない。
透明でよく分からなかったが、ミラが刀を持っていない方の手をあげたように見える。
その手には四角い・・・カードのようなものがあった。
ミラが呪文を詠唱し始める。・・・ここで終わりか。意外と早いもんだな、人生ってのは。
光が眩しい。こいつの術なんだろうか?周囲がよく見えない。俺は瞳を閉じた。
もうきっとこの瞼が開く事は無いんだろうな。・・・これが『死』か・・・。
そう思った瞬間、腹ににぶい痛みが走る。まるで無理やり持ち上げられているみたいだ。いや、待て。本当に持ち上がっているんじゃないか?空中に浮かんでいるのがはっきりと分かる。俺は、ゆっくりと瞼を開いた。
二度と見れないと思っていた景色は、先程と少し変わっていた。さっきまでいた場所から10mは離れている。俺が元にいた場所には、大きな焦げ目がついていた。
どうやら自分は助かったらしい。掌の氷は溶かされていた。いつの間にか治療系魔法も施されていて、血はすでに止まっていた。
しかし、一体誰が・・・。いや、大いに心当たりがあった。俺は、降ろしてくれと言わんばかりに上を見上げる。そこには、明月がいた。
「よっ!」
兄は自分を抱えてない方の手で敬礼をした。
この人はいっつもそうだ。小さい時からどんな時でも、俺が窮地に陥ると必ず助けてくれた。今回も、だ。
兄は俺を降ろしつつ、語り始めた。
「中々良い作戦だったやないか。だが、お前は詰めが甘いんや。それに、諦めが早すぎるわ。しっかりせいや!」
「・・う、うっせぇ!兄貴こそ、いるなら早く助けに来いよ!」
「こう見えても、いろいろ忙しかったのよ?明日君」
突然声が背後から聞こえた。俺は即座に振り向く。そこには、俺と同じように助けられた椿と彼女を救った姉の水穂がいた。
そうか。何故気づかなかったのだろう。ここに来るまで、妙に敵の数が少なかった。単に気づかれなかったのではない。兄達が守ってくれていたのだ。
「明日、先に行け。ここを抜ければ、おそらく無神のところに着くはずや」
「・・・わかった。」
俺はそう兄貴にそう告げると、奥の道へと走り出した。
「・・・行かせると思っているのか?」
ミラは、抜刀し剣を構えていた。
「悪いが、通すわけにはいかへん。こっからは、あんたらの出る幕、無いわ」

「椿。あんたも行くのよ」
「でも・・・」
水穂の言うとおり、みつや君についていくべきだろう。あの無神を一人で倒せるとは思えない。でも・・・きっとついて行っても、自分はさっきの様にお荷物になってしまうであろう。なら、いない方がマシだ。
「・・・ハァ。ここにいると、邪魔だって言ってるんだけど」
「え!?」
そうだった。この場はもうすぐ、激戦地になる。そこに自分がいても邪魔なだけだ。結局わたしはどこにいってもお荷物なのだ。
仕方なく立ち上がり、わたしはみつや君を追って走り始める。
「椿」姉に呼び止められた。
「あんたには、あんたにしか出来ない事があるでしょ?」
姉はそう言うと、その場から動いた。いや、正確には私が向こうに辿り着くまで、彼らを止めてくれているのだ。明月さんも同じ事をしている。
そうして、椿と明日は広場から抜け出し、更に先を目指して行った。
「さてと」と、水穂が動きを止める。
「本気でやり合おうやないかい。来な!」
明月が挑発する。
ミラとヴィオは、別々に戦っても勝てない事を前の戦いで感じていた。ならば、と二人は縦一列に並び、二人ならではの術式をとる。。
「「合体召喚魔術発動。機動確認。出ろ!!!ヘルブレイカー!!!」」

わたしにしか出来ない事って・・・なんなんだろう?
そんな事を考えているうちに、椿と明日は、遂に終点に到着した。
そこにいたのは、以前よりも禍々しいオーラを放つ無神の姿だった。
勇に奪われたはずの両手には、教授が作った義手がついている。
「・・・なんだ、お前らか。話にならんな、帰れ」
無神はそれだけ言うと、明日達に背を向け、空の泉の制御装置をいじくり始めた。
「バカにするなよっっ!!」
明日は杖を振り、火柱を出す。それを無神は義手でそれを防ぐ。
「貴様らがやる気なら仕方が無い。死んでもらう」
義手が変形し、手の甲のあたりに小さな砲台が出てくる。
「マズイッ!」
ドドドドドッッ!!!!
義手から放たれる無数の銃弾が二人に向かって飛んでいく。
駄目だ、避けきれない!明日は動けなかった。
銃弾が当たった箇所―――明日と椿のいた箇所に煙が立ち昇る。フンッ。他愛の無いものだ。無神はそう考えていた。しかし、
煙が晴れると、二人は立っていた。それも無傷で。
椿が結界を張ったおかげだった。この土壇場で椿は『自分にしか出来ない事』――皆を守る力―――がある事に気がついたのだ。もう迷わない。みんなは私が守る。椿の決意は自身の力を強め、通常よりも数倍の硬さの結界が張れるようになっていた。
「ちっ!結界か・・・。では、これならどうかな?」
無神は先程とは、別の腕の砲台を椿の結界へ向けていた。一回り大きいその砲台からは、爆弾が出てきた。
椿の結界でもこれは防げなかった。結界が崩れ、無防備になる二人。
「まずは、盾から破壊する!」
椿に向かって、義手がせまる。一直線へ伸びるストレートは、少し離れた位置の明日では止めようが無かった。
ドゴォ!!!
強烈なボディーブローが入る。あまりの衝撃に体が飛びそうになるのを堪え、地面から足は離れなかったが、殴られた地点より何mも移動させられていた。殴られたのは無神の方だった。
「・・・くっ・・いつの間に貴様がいたのだ?」
「女を殴ろうとする野郎は、最も許しちゃおけねぇー」
「さーくん!?」「さいと!?」
二人は、ほぼ同時に同じ人物の名を答えた。そこには歳人の姿があった。
「さぁて、そろそろ決着を着けようぜ、無神」
歳人がそう言うと、明日と椿が歳人の下に集まり、3人は戦闘体制をとった。
by絶望君