その通信機の前にあるイスに黒乃。その隣のイスにイージスを座らせる。
「よぉ。おや・・・」「私のことはリーダーと呼ぶように何度も言っているはずだが?」
・・・。
開口一番で言葉を切られてしまい口をすぼめる黒乃。
「わっ・・・解かってるよリーダー。それよりも、早かったな。まだそっちに連絡入れて間もないはずだけどもう回答が出るなんて。」
「それだけ君たちの任務は重要視されているんだよ。すでに、三つ先の事までは準備が出来ている。」
その対応の早さに【ターミナル】の凄さとこの任務の重要性を改めて知らされる。
「んと・・・話が早い事はいいことだ。っということか。」
「そうだ。」
「とにかく、現状報告をいたします。新東京駅にて東アジア共和国が開発していた生物兵器のプロトタイプを確保できました。こちらの被害は軽症で、実質ゼロです。生物兵器のプロトタイプには利便上イージスと名づけました・・・以上です。」
「了解した。では、次の指示を与える。そのまま生物兵器プロトタイプ。イージスを連れこちらへ帰還すること。何か質問はあるか?」
「移動手段の方は・・・」
「用意してやりたいのは山々だが、そんなことで時間を削りたくは無い。悪いがそちらで何とかしてくれ。それと・・・十分に気をつけるよう。油断は死と同意義だということを常に忘れるな。」
「了解。肝に銘じておきます。」
通信終了。向こう側が迷わずすぐに切る。黒乃はイスの背もたれに深々とかけ大きく息を吐く。そして、あることに気づき自分の隣に目をやる。
「そういえば、態々お前を連れてくる必要なかったな。」
隣にはイスの上に行儀良く座っているイージスが黒乃の方を見ている。とても眠そうに
「あ〜。とりあえずもう寝な。渚の所に行けばいいから。」
イージスは心底眠いのかただ頷くだけで、すぐ立ち上がり渚の居る方へと危ない足つきで向かっていく。
「・・・何をするにしろ明日だな。俺らも休むか・・・っの前に七翔、渚!
「あぁ、解かった。」「そんなに大きな声出さなくても聞こえるよ。」
その後各自の部屋へと戻り眠りに着く。
コンコン
朝の日差しが降り注ぐ家の中に響き渡るノックの音。しかし、そのノックに答える者は居ない。
コンコンコン
再度ノックが響き渡る。当然結果は変わりはしない・・・
ドンドンドン! ガシャ!
ノックの音が一変。破壊音へと変化する。そして、扉はなすすべも無く壊される。そして、そこから数人の武装した男たちが入り込んできた。
「居ないぞ。」「こっちもだ。」「だが、発信元はここだ。」
男たちはずけずけと家に入り込んでは部屋をくまなく探す。時には荒く、時には慎重に扉を開けては銃を構えつつ部屋を調べていく。
「おい。こっちだ。」
一人の男が声をかける。それに呼応して他が続々と集まる。
「どうやら発信機がばれたみたいだな。」「ちくしょう!」
男たちは悪態を吐きつつ発信機であるドッグタグを手に取る。
ピッン
話は男たちの居た家からおよそ1kmと離れていない車の中。
「おっ!ビンゴ〜♪黒乃あたりだ。やっぱアレが発信機だったみたいだ。」
車の助手席でくじにでも当たったかのような笑顔を浮かべる七翔。
「んじゃ、これであのアジトも吹っ飛んだな。あ〜あ。結構気に入ってたんだけどな。」
嘆かわしいと言わんばかりに頭に手を当てつつもハンドルをしっかりと握る黒乃。
「まぁ、むしろそんな処置すら無い方が怪しいしね。」
後ろの席で二人の話に混ざる渚。その渚の膝枕の上で心地よさそうに寝息を立てているイージス。今は午前4時。実際の行動は0時に開始された。
まず、寝ているイージスを調べ発信機であるドッグタグをはずし、それを起爆装置として部屋の至る所に爆弾を設置した。つまり発信機を手に取ればアジトが丸々吹っ飛ぶ寸法である。そして、トラップを仕掛け終わった後すぐに地下の駐車場にある車に武器庫の武器ごと乗りしすぐに脱出したというわけだ。
ちなみにこの車は戦闘を前提にした武装ジープだ。
「今頃向こうは全滅だな。ついでにこっちの証拠も消せて一石二鳥だな。」
「だけど向こうもあんまり馬鹿でもないみたいだぜ。」
浮かれている七翔を横目に助手席側のバックミラーに目をやる。ミラーに写るのはまったく同じ型の白の軽自動車が六台。いかにもという風に固まってぴったり一定の距離を保ったまま追跡してくる。
「へぇ〜。まさか二部隊も動いてるとは思わなかった。」
「ほら七翔、あんまりじろじろ見ない!向こうにはまだ気づいてないことにしなきゃ。」
「へいへい。さっさと迎撃準備でもしてますよ。」
憎まれ口を叩きつつ少しずつシートを完全に倒す。そして、うつぶせの状態に変わりそのまま後部座席へ匍匐全身。そして、付属されている狙撃ライフルのところで狙撃体勢に入る。
「30口径はと・・・あぁあった。」
ライフルの隣においてある木の箱から細長い弾を五つ手に取り一つずつ装填していく。
「さて、こっちは準備できたぞ。」
「解かった。渚はしっかりイージス守ってろ。」
「言われなくても解かってる。」
「んじゃ・・・3。2。1。・・・0!」
パシュ
黒乃の合図と共に響く気の抜けた音。だが、その音とは裏腹に後ろの車の列は凄いことになっていた。
「ビンゴ!」「大当たり。後ろの車もアレじゃ全滅だな。」「さすが〜♪」
その言葉どおり後ろは追跡車の中の一台の車輪をピンポイントで撃ち抜きバランスを崩した車を中心に全て玉突き状態で衝突して動けなくなった。
「さすが俺天才!」「はいはい、確かに凄いが自惚れるなぁ。」「なんだとぉ?誰のお陰だと思ってる?」「何よ。恩着せがましいわよ。」「なにぉ!」
始まった二人の痴話喧嘩に耳を傾けようとした黒乃。だが、そんな悠長なことが出来ないことにすぐに気がつく・・・。
「っ・・・んなぁっ!」
突然黒乃が意味不明な叫び声を上げハンドルをありったけ切る。
「うわぁぁ」「黒乃何するん・・・だ・・・」
七翔がいちゃもんをつけようとする声が途切れる。自分の目に入ってきた光景によって。
「しっ・・・市街地であんなふざけた物だすかよ?ふつー!」
七翔が吼えた理由。それは車の後ろ、先程まで進行方向だったところに一台の装甲車があった。もちろん完全武装つきで・・・
「なっ・・・七翔!早くあれ撃って!」「解かってるよ!」
パシュ。カン!・・・パシュカン!・・・
再び車輪を狙って当てるが車輪そのものすら硬く弾が全て弾かれてしまった。
「ちくしょう!ライフルの弾程度じゃ弾かれる!」
パシュ。カン!・・・パシュカン!・・・
悪態を吐きつつも装填した残りの弾も諦めずに車輪を狙う。
「おい!向こうも攻撃してくるぞ。渚!イージスと一緒に伏せろ!」
ミラー越しに装甲車から顔を除かせる銃口を見てすぐさま車を左右に振って避ける努力を始める。だが、マシンガンを使っている以上時折車に直撃する。一応防弾用の装甲と強化ガラスで出来てはいるがあまりもたない。このままの状態が続けばいつか蜂の巣となる。
「黒乃!振り切れないの?」「無理だ!向こうもあれで速い!」「そうだ!」
大きく揺れる車の中突然七翔が何かを思い出したかのように木箱の中をあさる。
「渚!全員に耳栓つけとけてくれ。急いでな!」
渚は言われるままにイージス。黒乃。七翔。そして自分に耳栓をつける。その間に七翔は木箱の中から一個の弾丸を取り出しそれを銃に装填する。
「・・か!・・・ら・・・の・・ぞ。」
耳栓をしている上にマシンガンの銃撃音のせいで七翔が何を言っているかまるで聞き取れない。だが、そんなことを気にしている余裕は無かった。
バァァァン!カン・・・ドォォン!
耳栓をしているにも拘らず鼓膜が破れるんじゃないかという発射音の後に爆発音が入り混じる。後ろを確認すると先程まで後ろについていた装甲車は火だるまとなっていた。
一件落着。三人は耳栓を取り、七翔に質問をする。
「今の何だよ?」「そうそう。」
「【ターミナル】が作った新しい徹甲弾だよ。ホン機関銃に使うのを改良して普通の狙撃銃でも使えるようにって事らしいが・・・」
七翔は涙ぐんだ口調で淡々と話し続ける。彼の手にはサイレンサーごと壊れたライフルのバレルがそこにあった。
「くそぉ・・・帰ったら開発者に文句言ってやる。」「まぁ気を落とすな。」
嘆く七翔に黒乃が慰める。そして、そこまで来てある疑問が沸いた・・・
「そういやさぁ・・・イージス・・・大丈夫か?静かだけど・・・。」
「あっ!」
渚はあわててイージスに目をやるだが、あまりにも拍子抜けしてしまう。
「ねっ・・・寝てる・・・。」
「「なにぃぃぃぃ!?」」
あの騒ぎの中何にも動じずに寝ていたその精神力に一同唖然とした。
そんな和やかな雰囲気をかもしつつ一行は【ターミナル】日本支部へと向かう。