時はすでに日も昇り始めた朝。しかし、木々の間から差し込む光は乏しくそこは夜のように薄暗い場所。膝まで伸びた草が一歩踏み出すたびにすれる。だが、そんなことは気にもかけずにずんずんと突き進んでゆく。その足音の数は一つや二つではない。十数人がかたまってぞろぞろと歩く。それも慎重に・・・
「止まれ。」
先頭の一人が足を止める。それに連なり後ろも止まる。声の主はかなり若い声だ。
「ア・・・対象が逃げたとするならばこの方向で間違いはない。ここから手分けして探す。A班はここから西側へB班は東側を捜索。残りは俺と一緒に南側だ。対象またはそれ以外でも何か見つけた場合はすぐに連絡。」
「「了解」」
返事の声は指令を出している声よりも明らかに年上である。だが、そんなことは問題ではなかった。
「これは迅速かつ、確実に成し遂げなくてはならないものだ。各自それを良く理解するよう・・・作戦開始!」
その言葉と同時に数人の人影が二手に分かれ薄暗い闇の中に、残った者たちも再び足を進める。
「・・・ねぇ、見つかると思う?」
「見つかるかじゃなくて見つけるんだ。これは任務だ。」
「それは解かってるよ!ただちょっと心配になっただけ!」
「心配するな・・・とはいえない。だけどやることはやるつもりだ・・・。」
そこで言葉を切り黙りこくる。その表情はとても苦しそうにも見える。
扉を半ば強引に開き部屋の中に駆け込む。そして、話すべき相手・・・村松にものすごい剣幕でにじみ寄る。
「リーダー。アルテミスが逃げました!」
黒乃は息を荒げながら端的に結論のみを言う。
「お前のその反応を見れば嫌でもわかる。それに、こちらもすでにそれは察知している。だから今、捜索チームを編成している。お前たちもすぐに入ってもらう。」
「当然です!」
剣幕を残したまま叫ぶ。そこには焦りの色がにじみ出ている。
「焦るな。今回の任務は重要だ。焦りは失敗を生む。」
「くっ・・・!了解・・・リーダー。」
リーダーの一喝で冷静さを取り戻し自分を落ち着かせる。
「それでいい。とにかく南口に向かえそこでお前が指揮を執る。」
「了解!」
「それと、今回の任務・・・七翔ははずす。」
「なぜですか!?」
「対象が逃げたのは南の密林地帯であることは確実だ。位置がわかるならばともかく捜索段階でスナイパーが前に出るのは危険だ。お前と渚が適任だからな。」
「・・・了解・・・しました。」
それだけ聞いた黒乃は部屋を出る為、村松に背を向け部屋を出ようとする。
「最後に一つだけ言う・・・この任務は昨日とは大きく違うところがある・・・。」
「えっ!?」
唐突に言われた言葉に一瞬戸惑いを見せる。
「この任務は・・・アルテミス・・・つまり対象の抹消を前提にした捜索だ。」
「えっ・・・なっ、何ですって!?」
その一言に黒乃は大いに動揺を見せる。
「こちらの配慮のミスとはいえ、こちらの居場所が完全に知れ渡る事となる。こちらとてすぐに移動することは出来ない。こちらの安全を少しでも上げる為にはこちらの居場所が知られるわけにはいかない・・・再度捕獲でも問題はないが、おそらく抹消となる可能性が高い・・・。そこのところ良く理解しておけ・・・。」
「りっ・・・了解・・・しまし・・・た。」
「・・・どうなるにしろ、まず見つけることが重要だ。」
「うん・・・。」
そして、二人は嫌な沈黙へと入った。そのまま森の中をくまなく探し続ける。
そうして、一時間森の中をひたすら探し続ける。だが、木々の密集しすぎて当たりは暗く見通しはよくない。探すということに対してもっとも不向きな場所であることは確かだ。だが、そこに思いもかけない吉報が入った。
『こちらB班。ポイント五一三の七四四にて対象を発見。』
「っ!隊長!対象が発見されたようです!」
黒乃の後ろを歩いていた者の一人が通信を受け報告する。
「解かった。すぐに向かうぞ。A班もそちらに行くように指示しろ。」
「了解しました。」
そうして、方向をぐるりと変えてアルテミスが発見されたという方向に向かう。
10分ほど経った頃に吉報に続く凶報が入ってしまう。
『っ!!報告!こちらB班!敵と見られるものと現在交戦中!敵の数は不明。しかし圧倒的に不利です!至急応援を!』
「隊長!!」「聞こえた!急ぐぞ!」
足の速さが次第に焦りの気持ちと入り交ざり始める。目指す場所に近づくにつれ銃声が少しずつ大きくなる。そして、見えた!
「敵の横に回りこんで援護に入る。俺に続け!」
運良く交戦の真横に居た為横からの奇襲に入った。
黒乃は手にしたマシンガンを容赦なく撃ちまくる。だが、木々が密集しているせいで木に当たってしまい十分に攻撃が通らない。しかし、それでも奇襲のおかげで四、五人を一気に倒す。他のものも黒乃に続いて撃ち続ける。
「渚!今のうちにアルテミスを支部へ!」
「解かった!援護お願い!」
渚は指示通りアルテミスの方へと向かう。黒乃も渚を援護する為に敵を仕留める。
だが、敵の数が異様に多く向かうことが困難である。黒乃達の援護が全然足りていない。
「っ!数は二十・・・三十・・・くそ!多すぎて数えられねぇ」
悪態を吐きつつ木の陰に隠れては銃弾を避け、相手を確実に仕留めて行く。
だが、情勢は一向によくならない。渚は未だにたどり着けず。さらには敵がアルテミスに着実に近づいている。
「やばい!このままじゃ向こうに・・・!」
その最悪の状況の中唯一の方法があった。だが・・・
「・・・とにかく今はやるだけやらねぇと!」
そうして銃撃戦は未だに終わる兆しを見せない。しかし、遅かれ早かれそれは向かうことになる。
「くそ!弾が・・・!」
確実性を狙って倒しているとはいえ多勢に無勢。着実に予備のマガジンが無くなっていく。さらに、こちらもすでに四人はやられている。
「くそっ・・・急げ渚!!」
しかし、返事が返ってくることが無かった。黒乃に最悪のイメージが沸く・・・
「おい渚!返事をしろ渚!!」
そうしている間に堪えていた者たちがやられアルテミスが敵の手に落ちた。
「しまった!・・・くそぉ!」
すでに何度目になるかわからない悪態を吐きアルテミスのところへと駆けて行く。そして、自分のやるべきことをなす。
(重要なのは組織の機密。機密を守る為に対象の・・・抹殺・・・っ)
自分がやらなければならないこと。それはこの世界にいる以上やら無くてはならないこと。いつか来るこの状況が今来たのだ。
(もう・・・殺しに迷うな・・・!)
覚悟を決めアルテミス向けて引き金を引くその瞬間・・・
バシュッ!!
(っ・・・あっ・・・がっ!)
右肩に走る激痛。途切れる集中力。近くなる地面。ここに来て大きな失態をする。
(んっ・・・だが!)
痛みを無視して強引に引き金を引く。放たれた弾丸はアルテミス向けて飛ぶ。しかし、時すでに遅し。木の陰に隠れて一発も当たることは無かった。
(ちっ・・・ちくしょぉぉぉおお!)
言葉に出来ない悪態を心で叫びつつ一歩踏み込む。っと同時に何かに躓き地面にひれ伏す。そして、視界がだんだんとぼやけ始める。耳には未だやまない銃声が鳴り響く。
気がついた時にはその場での戦闘は終わっていた。
一番遠い位置で捜索していたもう一つの班がその場に到着し、生存者の手当てと逃げた敵の再捜索に割り振られた。しかし、後者はおそらく手遅れである。
黒乃が躓いたもの。それは傷だらけで倒れていた渚であった。渚は出血が酷いものの大きな怪我は無く問題は無かった。
だが、それは酷い言い方どうでもいいのである・・・
「おい、支部に連絡だ。任務は失敗。対象の奪還および抹消は出来ず敵の手に落ちた。相手は間違いなく共和国の兵士だ。」
近くに居た者にそれだけ言うと敵の逃げたと思われる方向をただ見続ける。
「・・・くそ!」
右肩の痛みを無視して右手で近くの木を殴りつける。木はほんの少し揺れ葉が数枚ひらひらと地面へ落ちる。
第拾弐話 覚悟と屈辱
あとがき
駆け足で進む中。半ば強引に進む現状。不本意な現状。
不本意で中途半端な戦闘シーン・・・我も人のことが言えない・・・
せめて一番ましな戦闘だけはまともなものを書けないとなぁ・・・
それに、これは流石に次の奴が困るかなぁ・・・?
まぁ、我が考えることじゃないか。
駆け足で進む中。半ば強引に進む現状。不本意な現状。
不本意で中途半端な戦闘シーン・・・我も人のことが言えない・・・
せめて一番ましな戦闘だけはまともなものを書けないとなぁ・・・
それに、これは流石に次の奴が困るかなぁ・・・?
まぁ、我が考えることじゃないか。
byハガル・ニイド