第拾八話 疑うココロ
「ん………」
瞼が開く。視界がぼやけて何も見えない。まだ眠い。
もう少し寝てたいなぁ。そんな事を考えていると、視界がハッキリしてきた。
白い天井が見える。といっても、ところどころ染みが滲んでるけど。
どうやら、わたしはベッドの上にいるみたい。周りはカーテンで囲まれてる。
ここは、どこだろう?
重い瞼をさすり、体を起き上がらせようとする。
「っ!!?」
激痛が走る。ボフっとベッドに倒れこむ。
真っ赤にベッドが染まっていて、ビックリする。あ、わたしの髪か。
よく見ると、胸から腹部にかけて包帯が巻かれている。
あぁそうか。
アルテミスちゃんと戦ったんだ。
彼女とは、いつどんな出会い方をしたのか覚えてない。仲が良かったのかどうかも覚えてない。でも、アルテミスちゃんの事はよく知っていた。
長くてとても綺麗な白銀の髪に、溶け込まれそうな淡く青い眼。わたしと同じくらいの歳なのに、わたしよりもずっと大人だった。
そんなアルテミスちゃんと、わたしは戦った。
みんなを守る為に戦った。
でも。
ホントにこれでよかったのかな?
わたしとアルテミスちゃんが戦わなきゃいけない理由なんてどこにも……
ジャラッ
カーテンが開き、見知った顔が二つ現れる。
「うおっ!?」「セレネちゃん!?」「えっ!?」
驚きに満ちた二人の表情。何故かわたしも驚いちゃった。
「七翔!リーダー呼んできてっ!」
「あいよっ!!」
七翔が走って行く。
わたし、そんなに重症なのかなぁ?
渚が体をくの字に曲げ、寝ているわたしに顔を近づける。
「セレネちゃん、いつ起きたの?」
「んとねぇ〜。さっきだよぉ。」
「どこか具合の悪いとこはある?」
「お腹と背中がね、動かすと痛いの」
「どれどれ?」
渚は巻かれた包帯をほどき、傷口を見た。
わたしも恐る恐る自分の体を見てみる。どうしよう、穴とか開いてたら…。
……かすり傷だった。
「大分よくなったね!最初はもっとひどかったんだよ?」
「さいしょ?わたし、いつから寝てるのぉ?」
「ん〜、3日前くらい前からかな?」
「!?」
アルテミスちゃんと戦ってから、3日も経ってたんだ…。
そうだ!それじゃあ…っ!
「ア、アルテミスちゃんは無事なの!?」
セレネのその言葉に、渚は一瞬苦い表情を浮かべた。が、
「大丈夫よ。彼女は生きているわ。ただ、今は会えないの。ごめんね」
「ううん、生きてるって分かっただけでも嬉しいよ。でも、あの爆発からどうやって…」
ハッと気付いた。思い出してしまった。
そうだ。あの時、突然爆発が起きたんだった。
アルテミスちゃんを殺す仕掛けだった。わたし諸共。
この傷だって、アルテミスちゃんに蹴られた時の傷だけじゃない。火傷もある。
結局どこにいっても、わたしたちは兵器だから使い捨てなのかもしれない。
「アルテミスちゃん?どうしたの?」
「…ううん、なんでも無い」
柔らかな笑顔で語りかけてくる渚。
この人だって、もしかしたら心の底ではわたしの事を兵器として見てないのかな…?
わたしの心の中で何か黒い物が芽生え始めた、そんな気がした。


時を同じく、保健室でセレネが渚と話している時。
俺は親父に連れられ、廃校から少し離れた新潟基地の中を歩いていた。
劣化していた基地もこの3日間で整備し直され、基地として活動出来るようになっていた。
お互いに何も話さない。カッ、カッ、と二人の足音だけが響いていく。
やがて、足音がピタリと止む。
「村松だ。開けろ」
その声に呼応するように、扉が開いていく。
中には様々な研究機材が置いてあった。
その部屋の最も奥に、少女はいた。
四角い机に乗せられ、口には呼吸器がつけられている。
何本もの管が少女の体から伸び、わけの分からない機材と繋がっている。
少女には、意識が無かった。
あの爆発の時、少女の体は爆発の衝撃で吹っ飛び、運よく爆発には巻き込まれなかった。
だが、吹っ飛んだ時に頭を強打し、意識不明の状態に陥ってしまった。
すでに部屋の中にいた、マスクと白衣を着用した男が近寄ってきた。
「どうだ?何か分かったか?」
「いえ、何も…。正直、生物兵器なんか見た事無いので、どうしようも……」
「…そうか。では治療の方は頼んだぞ」
そう言って親父は部屋から出て行き、俺も後に続く。
カッ、カッ、また二つの足音が通路に響きわたる。
突如、ピタっとおやじの足が止まり振り返る。
「何か言いたそうだな?」
「…あの時、何故爆破なんかしたんだ?」
俺はあの作戦に反対だった。
あれは俺達を守ってくれた、セレネに対する裏切りだ。
結果的には、二人とも生きているが、死んでいてもおかしくない状況だった。
まさか、兵器だったらどうなってもいいって言うのか?
「では、お前は他に皆が生き残る道があったというのか?」
「それは……っ!」
何も言えなかった。
あの時、自分には見てる事しか出来なかったのだ。
「黒乃、我々の目的は生物兵器の保護でも、撃退でもない。この国を取り戻す、それが最大の目的なのだ。それを忘れるな」
「………」
おやじは、そう黒乃に告げると振り替えり、前に進んでいった。
俺は動けなかった。この国を取り戻す?その目的の為には、あの子達が犠牲になってもいいのか?…俺には、どうしても納得出来なかった。


基地のとある個室に村松は入り、ボスっと椅子に座る。ほこりが舞った。
…あれから3日も経った。彼の少女によってこの基地もばれているだろう。だが、共和国の奴らは攻めてくる様子が全く無い…。一体、何故なんだ…?
あとがき
前回はめちゃくちゃ忙しくて書けなかった、あとがき。
まあ今回もめちゃくちゃ忙しいってか今日テストだし。数学ヤッベッ!マジヤッベ!!
内容はそうですね。重要キャラの心境の変化とか上手く伝わればいいのですが。
あと、アルテミスの件ですが、まぁ何とも様々な思惑(ぇ の果て、こういう形に収まりました。どうなんですかねぇ?私はこれでもいいと思うんですけど。色々ニヤニヤ出来るし(ぇ
まぁ没案があるんで、見ていって下さいな♪


【没案:アルテミス グロEND Ver.】
あの爆発の時、少女は爆炎に包まれた。腕はもげ、足は通常とはあらぬ方向を向き、爆音の衝撃で鼓膜は破れていた。爆風により、少女の体は壁に思い切り叩きつけられ、その衝撃で、骨が折れ、肺に刺さり、呼吸も困難な状態に陥っている。肌は火傷で爛れ、四肢も使い物にならなくなり、内臓もぐちゃぐちゃになった今、正直生きていられるのが不思議である。様々な死体を見てきた俺でも、直視では見れなかった。
by絶望君