第弐拾壱話 崩れる真実
研究所内部

「・・・なぁ、少しおかしくないか?」
「うん。明らかにおかしいよ・・・これ。」
 内部に侵入してからはや10分。進入してから続く違和感を口にしたのは七翔だった。
 研究所の中は通路が続いていて扉が等間隔にある。道だが、その扉のどれからも人の気配がしない。実際幾つかあけた扉の中には誰も居なかった。居たような形跡が明らかに残っている中のこの異常な違和感。
「敵が一人も出てこないなんて・・・罠だよね。あきらか」
 そんな話をしている間にも目的である研究所最深部へと近づきつつある。その時やっと視線の向こう側に人影を見た。つまり・・・
「隠れろ!」
 黒乃が言うのと同時に通路の角に黒乃と渚が、部屋の中に七翔が飛び込んで隠れた。
同時に動いたのは向こうもだった。三人が隠れるのとほぼ同時に銃弾が三発。黒乃達が居たところに飛んできた。
「やっぱり罠・・・ね。どうするの?」
「予定通り奥まで行く。七翔援護頼む。」
「解かった。あんまり真ん中走るなよ。当てるぞ。」
「わかった・・・よっ!」
 すぐさま七翔が扉を盾にM24を構え弾丸を撃ち出す。向こうはその弾丸を避けるようにして後ろへと後退し続ける。それを追う様にして黒乃が駆けて行く。
 だが、ここでもまた違和感を覚える。時々応戦をするものの積極的にこちらに攻撃を加える意志が無いように取れる。さらに、後退する先は自分達が守るべき対象の居る最深部へと下がっているのだ。だが、なすべき事をなす為にあえて罠としか取れないものの中へ飛び込んでいく。そして、ついに最深部の部屋の前まで到達する。そこまで来て敵対していた相手を黒乃は目にした。
 白髪に薄い青みがかった瞳。あどけなさが残るものの整った顔立ちの少年だった。しかし服は軍人が着る様な迷彩服。手にした銃はとても子供が持つ様な代物ではない。
「君は・・・」
 黒乃が声をかけようとしたが、少年は扉の中へと消えてしまった。電子ロックキーのドアをキーも使わずに開き入った。
「・・・ロックを掛けていない。明らかに誘ってるな。」
「「黒乃・・・」」
 二人が遅れてその場に到着する。黒乃はそれを確認すると何も言わずに扉に手を掛ける。片手に汗で滑る銃を強く握り締めながら・・・
その先に待っていたのが死の淵に追いやるほどの絶望が待ち構えていた扉を開けた。

 その後の記憶が少しぼやけている。現実と非現実が相俟って何が確かなことか判らない。
今は車の助手席で揺られている。それが確かなこと。
その車には自分を合わせて8人もの人が乗っていること。それも確かなこと。
じゃぁ、耳の奥にこだまするあの高笑いは・・・?それも確かなこと。だけど・・・
「・・・起きたかい?黒乃君。大丈夫であれば後ろを見張って欲しい。」
「はい・・・。」
 運転していた男のいわれたとおりにするため窓を開け一度後ろを見る。周りは広い田園地帯だった。高い建物も遠くに見える。空はすでに日が落ち星と月が浮かぶ闇が支配する世界に包まれていた。
次に車の中を見た。そこには力尽きたように皆深い眠りに落ちている。
「・・・どこまで覚えている?」
 唐突に投げかけられた質問。その質問の意味は理解できる。しかし・・
「答えられない・・・か。だが、解かっているはずだよ。だからあえて口にしよう・・・僕らの居場所。『ターミナル』はもう・・・ない」
「っ!・・・うぅ・・・!」
 その無情ともいえる一言でもやもやとした記憶が鮮明に、鮮烈に蘇る・・・

扉を開けたその先で最初に見たのは四人の子供だった。そして、その全員が折り重なるようにして倒れこんでいる。それだけならばまだ驚きも少なかっただろう。だが、それ以上の衝撃がその中に含まれていた。
「「「セレネ!アルテミス!?なんで・・・?」」」
 三人は慌てて子供達の下へと駆け寄る。全員とも意識が無いだけで生きている。何かで眠らされているのは確かだった。しかし、支部に保護されているはずの二人がなぜ?

パチパチパチパチ・・・

突然響き渡った音は手を叩き合わせる音・・・誰かの拍手だった。
「良くここまで来れたな。流石というべきか当然というべきか・・・ここは褒めた方がいいのかな?どうだ。黒乃・・・」
 聞きなれた声。その男の声は黒乃が最も知っている人物だった。
疑いたかった。信じたくなかった。自分の今最も信頼を寄せている相手が考えもしなかった最悪の立場に立っていることを・・・
「なっ・・・なんで・・・あんたがそこに居るんだよ!親父!!」
「何度も言わせるな。私のことはリーダーと・・・いや、もはやそれも必要が無いな。」
 そこに立っていたのは村松巌・・・『ターミナル』日本支部の支部長。日本支部の総隊長とも言えるその男がそこに居た。
 村松の横に居たのは先程の少年とそれと同じような少女だった。
「さて、ここまで態々来たご褒美に・・・そいつらを自由にしてやろう。一時の自由を・・・な。」
「なっ・・・何言ってる・・・っ!」
 黒乃が言い返そうとした瞬間大きな音と共に激しく揺れた。間違いなく爆発音だ。
「始まったな。私たちもそろそろ出ねばな。その前に・・・もう一つの褒美に問題を出してやろう。」
「!?」
「一つ目。なぜ『ターミナル』が今日まで存在し続けられたのか。東アジアの人間を集めたといっても戦力は大国の軍隊の半分にも満たないものが・・・。
二つ目。なぜ共和国に対するテロが武装の奪取や兵器の破壊が中心だったのか。回りくどいとは思わなかったか?」
 村松の言っていることの意味を三人は理解できなかった。そうしている間にも爆発音は止め処なくなり続ける。
「三つ目。なぜ今君達がこうなっているか?この問いの答えだけ教えておこう・・・。」
 村松が後ろを向き扉の向こうへ歩き出す。そして後ろを向いたままたった一言・・・
「君達がすでに用済みの邪魔者だからだよ。」
「しまった!」
 理解不明の状況に困惑し行動が鈍重になっていたせいで反応が遅れた。その間に村松たちは扉の向こうへと行ってしまい。同時に扉は硬く閉ざされてしまった。
「開け!この野郎!!」
 七翔が必死で閉まった扉をこじ開けようとするがびくともしない。
「ならこれで・・・!」
 次に銃弾が跳ね返ってくるのを覚悟でライフルを零距離で発射する。だが、なぜか銃弾は跳ねもせずにひしゃげて力なく床に落ちるだけだった。
「そんな・・・馬鹿な事・・・」
 七翔は絶望でその場にへたり込む。黒乃と渚も先程の衝撃的な出来事のせいですでになにも出来ない状態にあった。それでも爆発が止む事もなく響き続ける。少しずつ揺れが酷くなり上から物が落ち始めてきた。
 どんなに強く心を持とうと所詮二十にも満たない子供である。心の支えでも在るものが消え自分を仇なす。それがどれほど辛いのかなどはかれるものではない。
奇跡が在るのならばその時意外に奇跡と呼べるものは他にないだろう。

ドンドン・・・グシャッ!

 その音が示したものはたった一つの希望だった。七翔が開こうとしていた扉の反対側。自分達が入ってきた扉が壊れていた。いや、正確にはそこに居た者が壊したのだ。
「君達!何をしてるんだ!早く脱出するぞ!」
 三人の下に来たのは二十代前半の青年だった。黒い髪に黒い瞳と典型的な東洋人の顔つき。服は紺の軍服に黒のベストポーチ。そして、手にはサブマシンガンがあった。
「何をしてるんだ!こんなところで死にたいというのか!?そんな罪もない子供達と一緒に!」
「「「あっ!」」」
 三人は慌てて立ち上がり未だ意識を取り戻していないセレネたちを担ぎ上げる。このときその青年も一人担いだ。
「こっちだ。僕についてきて。」
 言われたとおりに三人は青年の後をついていく。時折崩壊寸前の場所を迂回しながらやっとのことで外へ出る。そして、その場に止めてあった車に乗り青年が車を走らせる。

「思い出したかい・・・?」
 運転しているその男が黒乃に再び問いかける。それに対してゆっくりと頷く。
「なら、僕の口で語ろう。『ターミナル』・・・そのふざけたシステムを・・・ね。」
 黒乃は何も答えない。だが、男は合意と取って話を始める。
「『ターミナル』なんてテロ組織は元々存在しない。本質は共和国に属する完全極秘の非公式部隊。その目的は、自身の支配内にある不要な。または施設や物を破壊・強制回収が目的だ。テロという名の行為の下で・・・ね。」
「っ!?」
「質問は後回しだ。話を続けるよ・・・実際この正体を知っているのは『ターミナル』の上層部。つまり各支部の支部長と呼ばれる者たちだけだ。それ以外は純粋に国を取り戻そうとしているやつらばっかりだ。」
 黒乃は苦しくなるような感覚に襲われる。国を取り戻す為に抵抗していた自分達の招待が実は敵に利用されるだけの駒だったと言う真実に・・・
「そして今日。生物兵器の完成を機に『ターミナル』を壊したんだよ。今頃各地の支部の同志達は共和国の連中に・・・っ!」
「じゃぁ!ここで逃げたって意味なんか・・・」
「いや、一つだけ・・・たった一つだけ守れたんだ。京都支部だけ僕の力で何とか守ることが出来た。」
 このとき黒乃のなかでバラバラだったものが一つに繋がる感覚を覚えた。
「僕の名前は真薙・・・真薙総冶。村松巌の長男にして京都支部支部長だ。」
「そう・・・だったんですか。」
「僕は、父を止める為に『ターミナル』再建する。本物の共和国抵抗組織『ターミナル』を・・・ね。それを信じるか信じないかは君達の自由。僕について来るも来ないも君達の自由だ。だから考えておいてくれ。」
「・・・はい。」
あとがき

 はい、我の史上最悪とも言おうか。そんな一作となった今回。
現『ターミナル』の崩壊と再生を描写しようとしましたが、いかんせん。
枚数が足りない。まだまだ表記していないことが山ほど海ほどあるのに・・・
とにかく可能な限りにまとめたものの予想通り収まらなかったあとがき。
まぁ、最低限のことをしたのだ。後は次からの奴が頑張ってくれるだろう。以上!!
byハガル・ニイド