私は
ここにきて
――眼前の少女を前にして
初めて
過ちに気づいた

もう
なにもかも
手遅れだったが
第弐拾六話 省みる場所
私にも家族があった
それをいま
ようやく思い出す
だが、当時家庭を省みる余裕などなかったし
家には寝に帰るようなものだった
だが、帰宅を待つ者がいることは充分心の支えになっていた
ただの自己満足だった
ただ真夜中に帰って来、まだ暗いうちに家を出る夫・父
妻も娘も、そんな私の在り方は望んでなかっただろう
軍の研究所に入るまでは
それでも私はよかった・・


『すまない』


軍の研究所に入ると
最初の一年はだたぼーっとしてた
同僚の話では一日中机に座り写真ばかりみていたという
でも次の年からはそれもなくなった
慣れたのだと思う
こういうところで人間が有する環境への適応能力は侮れない
私は与えられた研究に没頭し
次第に私の中で
家族のことなどは
最初からなかったのもとして扱われた


『すまない』


それは研究所入りして何年経ったときだったか
――窓も日光もなく
人工の光だけが照らす空間
そんななかで
時間の感覚などはなくなっていた
いや、正確には
スケジュール表と報告書だけが
時間の経過を海馬へと伝えていた
日頃の仕事に対する姿勢に上が目をつけたのか
私はあるプロジェクトの主任に抜擢された

“luna meet計画”

それが私の担当するプロジェクトだった


『すまない』


このプロジェクト
――端的にいってしまえば
人体の兵器改造ということなるのだが
には少女がその器とされていた
何故年端もいかぬ少女が
その生贄として選ばれたかは
当初からの疑問だった

そんな疑問はすぐにどうでもよくなった
彼女等と接する
もといこのプロジェクトに参加するには
感情というもの
その一切を捨てなくてはならなかったからだ


『すまない』


毎日、毎時
悲鳴懇願の声が止むことはなかった
その声に耐えられぬ者
生贄の救出を計る者は
容赦なく消えていった
担い手のいなくなった持ち場には
すぐ補充がはいる
それを黙って過ごし作業を続ける

己が身の方が大事だったのだ


『すまない』


しかし
こうして
彼女に
――最後の一人にして計画の集大成
  悪魔の儀式
  その生贄 犠牲者
死を突き付けられる

捨てたハズ
消したハズ
殺したハズ
の感情が蘇ってきた

彼女は
泣いているように見えた
いや
本来のそのようなことは在り得ない
彼女も
このプロジェクトによって
感情を破壊された一人
もとい
その最たる者だからだ
実際
彼女はいつもの
なんの感情も写さない
零度の瞳でいるだけだ
もしかしたら
泣いていたのは
私だったのかも知れない


『すまない』


仰向けに倒された私の額に
彼女の手が伸びる
深緑を思わせる髪
にも綺麗だと思った

「すまない」


そんな
手前勝手な謝罪を口にする
最後に
頭蓋の
砕ける音が
海馬に収納された



男の亡骸を見下ろすこともなく
何をするまでもなく
少女が佇んでいる
ふと思い出したように鳴ったサイレンが
研究所を埋め尽くす
それに反応するように一迅の風になる少女


草木も眠る静かな夜

森林を疾駆する深緑の影
その首には
タグ“No.006 ヘカテ”
ひとであるなら決して捉えられないそれを
止まり木の上
一羽のふくろうだけがみていた





あとがき

とりあえず
質問こいや!
書きたいもの書けたんでスッキリしました
満足です

軽くいろいろ規則被ってしまいました
すんません
by図書神