第弐拾八話 交差する死線
この感じはなんだろう?
遠くで何かが戦っている気がする。
誰と誰が?わからない。
でも、とても興味が湧く。
もう私は自由なのだから、自分の意志で行動しよう。
私は、身を隠していた茂みから這い出て目的地に向かって走り出した。

一方その頃、研究所から300メートル程の地点。
黒の影と2つの白い影が激しい戦いを繰り広げていた。
「あはははははは!ずいぶんとやれるじゃん、あんたら!」
俺とアルテミスはNo003と名乗る少女と戦闘状態になっている。
乗っていた車はすでに木っ端微塵に粉砕され、退路もNo003によって防がれている。
「そりゃぁぁぁぁ、粉・砕!」
と、No003が空に掲げていた右手を勢いよく振り下ろす。
またか!
とっさに横に思いきり飛ぶ。先程までに俺がいた場所は小規模のクレーターと化していた。戦闘開始からこのかた、俺とアルテミスはこの攻撃に翻弄されて、反撃もままならない。
「アルテミス、あの攻撃はなんなんだ!?」
「あれは私の衝撃波の改良版だ!しかし、あれは威力を高めすぎた反動で自分にかかる負担も大きいから採用されなかったはず…!」
「はは、たしかにそうよ!私も痛いもの!」
それを聞いていたのか、No003がけたたましく哄笑する。その身体は衝撃波の影響か、すでにずたずたである。
「だけどね、私はね、他人を殺すのが好きなの!そのためには手段や場所なんて気にしないんだから!あはははははは!」
なんて奴だ!マインドコントロールされていたとしても、あの性格はいくらなんでも異常だろ!
「でりゃあああああ、爆・砕!」
瞬間、衝撃波が俺の周りの空間をなぎ払う。
衝撃波自体はかわしたが、それでも余波は激しく、俺の身体が宙に舞っているのが分かった。
「黒乃!」
アルテミスの呼びかけに俺は気付いた。
目の前には、すでに衝撃波を放つ構えを取っていたNo003がいたことに。
「しまっ…………!」
放たれる殺気。
振り下ろされかける両手。
どうしようもないほどの、悪意。
No003の腕が振り下ろされ………………なかった。
と、言うよりもNo003の腕自体、『なかった』。
アルテミスの光線が、発動しかけていた衝撃波発振装置を焼き切っていたのだ。暴発した衝撃波は、そのままNo003の両腕を爆砕していた。
「っ!あたしの腕がアアアアアア!」
No003がわめく。アルテミスはそれを冷ややかな目で見つめていた。
「………………かわいそうな奴。」
「何が、何がよ!」
「ただ人を殺すしか脳の無い奴!あなたのような人は見ていて腹が立つ!」
アルテミスが激昂する。
「あなたを見ていると、前の私を思い出す!戦うことしか分からなくて、言い様に使い走らされた私が!」
「それがなんだっていうのよ!殺すのはきもちのいいことでしょ!?」
No003がアルテミスに挑みかかる。
「私の腕、返せ!返せぇぇぇぇぇ!」
「くっ!」
No003に蹴り飛ばされ、アルテミスが地面に叩きつけられる。
「あはははは!死ね、死んじゃえ!」
倒れて動けないアルテミスに止めをさそうとするNo003。
それは同時に、致命的な隙でもある。
前にもあった、同じ様な場面。
「これ以上はやらせん…………!」
俺は白波から渡された光線銃のトリガーを思いきり引いた。
バシュン!
光線はNo003の後頭部に命中した。
「あぐっ……」
命中はしたものの、流石に気絶しなかったようだ。
が、動きを止めるだけで充分。
「アルテミス!」
「わかった!」
俺ではNo003は倒せない。が、アルテミスの収束した不可視光線なら!
「でやあぁぁぁ!」
一瞬、視界が真っ白になる。
次の瞬間には轟音が響き渡り、No003のいた位置は白煙でなにも見えなくなっていた。
「やったか!?」
「分からない。ただ、あの攻撃で倒したとは思うが……」
目の前の白煙はまだ晴れない。が、No003の生死が確認できない以上は、ここに留まる必要はもうなかった。とにかく、今は基地に帰還すべきだろう。
「アルテミス、帰還するぞ。」
「ああ。」
とにかく普通の道路を通るのは愚の骨頂。近くの山沿いに逃げるのが得策か………
「ずいぶんとやるではないか、人間とNo001。」
「「っ!?」」
いきなり背後から声をかけられ、俺とアルテミスはとっさにその場を飛びのいた。
そこには、No003と同じ様な白髪の少年が立っていた。
「貴様はこの前の研究施設の……!」
「No002と呼んでいただきたい。」
No002と名乗る少年は礼儀正しく一礼し、いまだ白煙漂う場所へと歩き出す。
「No003、生きているんだろう!出て来い!」
「何っ!?」
とたんに白煙が揺らめき、中から白髪の少女が現れる。……生きてたのか!
「遅かったじゃない、No002」
「村松殿のご命令だ。今はターミナルの残党を掃除している場合ではない。」
………………親父がなんだっていうんだ?
「関係ない、と言いたいところだがお答えしよう。」
こいつ、俺の心を読んだ?!
「No006、名称ヘカテが逃げ出したとの研究施設から連絡が入った。」
「No006が!?」
「そうだNo001。No006は研究員の約3分の2を殺害し、逃走したのだ。」
そうか、だから研究所はあんなになっていたのか。
「さて、人間。」
………こいつ、礼儀正しそうで正しくないな。
「No003を追いこむとは中々の腕前。是非お手合わせ願いたい。」
なんだと!?
「そちらとしては不本意だろうが、村松殿の養子となればかなりの使い手とみられる。」
「ちょっとNo002!何あんた勝手に仕切ってんの!」
「先刻の言葉とは矛盾しているが、個人的な問題としてこの人間には興味がある…………」
やるしかないのか………?
正直、俺とアルテミスはもう戦えなかった。俺は衝撃波の余波でぼろぼろ。アルテミスは先程の収束不可視光線で疲れきっている。
どう考えても勝ち目は無い。………が、アルテミスだけでも逃がす!それが俺の与えられた任務だ!
「いい覚悟だ、行くぞ!」
No002が正拳を繰り出す。俺は身を屈めてやり過ごすが、心を読める相手にどう戦えばいいかわからない。
そうこうしているうちにも、No002の攻撃は止む事を知らなかった。こちらのガードを先読みし、うまくすりぬけて俺の急所を狙ってくる。
どのくらい戦ったのかは分からないが、気がつくと俺は地面に這っていた。
「黒乃!」
アルテミスがこちらに駆け寄ろうとするが、No003がアルテミスの前に立ちはだかる。
「やれやれNo001。邪魔するのは関心できないな。」
「どけNo003!黒乃を殺らせはしない!」
No002は呆れたようにアルテミスから視線を外し、俺のほうに向き直る。
「さて、人間。中々楽しませてもらったぞ。」
No002はそう言いながら懐から短刀をとりだす。
「逃げろ黒乃!早く!」
「あんたはいちいちうるさいのよ!」
アルテミスがNo003に蹴られてその場に倒れる。
「できれば生かしておきたいが、命令だから悪く思わないでもらおう。」
No002が短刀を振りかざす。
そんな時だった。急に全身に悪寒が走る。
これはなんなんだ!?
いままでにも似たような悪寒は戦場で経験したが、この気配はその比ではなかった。
その気配はすぐそこまでに来ていた。
「この気配は…………No006か!」
俺たちの目の前には、深緑の髪の少女が立っていた。
あとがき
まずはNo002とNo003の性格が設定とほとんど違うのをお詫びします。特にNo003。某薬中常夏三兄弟の一人になってしまいました。19世紀(r さんすいません。
とにかく、へカテを絡ませたので次の人の話にご期待下さい。
byキング