第参拾話 答えの隠し場所
カタカタ   カタカタ   

単調に叩かれる無機質な音。
耳が痛くなるような静寂の中に響く。
時折その音は止まり、また鳴り出す。
常に一定のペースを刻むように・・・
「時は、満ちている・・・いや、満ちすぎているだろう。」
 単調な音を刻み続ける者が言葉を漏らす。そこには誰も居ない。ただの独り言。
「時間はもはや残されては居ないだろう。僕らに勝ち目すら残さずに・・・」
 声の主。その男は座っていた席を立ち窓へと歩む。窓の外の景色は大半が何かで覆われて空が見えない。だが、その合間から唯一静かに輝くものがあった。
「あなたの考えている夢物語はこの僕が責任を持って砕きます。それが僕に出来る全ての者への償いだから。」
 そして男は再び自分の座っていた席を見る。そこには椅子と共に置かれているデスクの上。パソコンのモニター画面に映っている文字を見る。

Project“luna meet”

「全て片付けさせてもらいます。大馬鹿親父」


黒乃とアルテミスが研究所から戻ってきて早一週間。
周囲の慌しさとは逆に大人しく部屋の中に居座り続ける。その姿は何かに怯えている様にさえ取れるような大人しさだ。
「おい黒乃。何ボケーっとしてるんだ?皆せっせと仕事してるのによ、一人だけサボるのはいけないねぇ」
「あぁ・・・わりぃ」
 あまりの暗さに耐えかねていた七翔は暇があればしょっちゅう黒乃にちょっかいを出しに着ている。しかし、黒乃は生返事ですぐに話を切ってしまう。
「・・・あっ!そうそう。お前に渡しておいてくれって言われてたものがあるんだ。ほれ、これだ。」
 七翔は腰に差していた物を黒乃に投げ渡す。それは以前使った妙な形の銃だった。
「それ、前回のを改善したらしいと。改善されたのはバッテリーパックをギリギリまで
小さくして最大2連発まで出来るようにして、んでもってバッテリーパックを取り外し自由になったからリロード可だとさ。ほれ、こいつが呼びのバッテリーパック。」
 今度はポケットから小さな箱を取り出しやはり投げ渡す。
「その中に三十本、つまり三十発分入ってるとだとさ。だけどよはっきり言って実用性にどーも欠けるとしか言いようがないね。こんな半端なもの作るくらいならもっと他のもの作れってんだよなぁ」
「・・・・・・・」
「あのさぁ・・・そのよぉ・・・はぁ。わりぃがもう行くぜ。やることまだ残ってるからな。じゃぁな、サボりも程々にしろよ。」
 それだけ言い残して七翔は部屋を後にした。
「どうだった?」
 黒乃の部屋を出るとそこには渚が居た。そして開口一番の言葉がこれだった。
「だめだ。すっかり腑抜けてる。反応が薄すぎ。そっちの方はどうだ?」
「うん。アルテミスの方は結構元気取り戻してる感じだけど。やっぱり・・・ね」
 それだけ言葉を交わすと二人そろって黙りこくってしまう。
「そうだ。さっき真薙に呼ばれてたわよ。」
「何で俺だ?」
「黒乃の代わり。」
「けっ!そうですか。わかった、行くよ。黒乃の代わり行きましょう。」
 七翔は僻みつつも仕方がないので真薙の居る所に向かう。

 七翔が真薙の部屋についた。七翔はノックをしようとしたが、どうやら中でまだ誰かと話している最中のようだった。
「・・・・以上が現在の状況です。」
「そうか。思っていた以上に被害が少ない。ターミナルの陣営の半分も残っていたなんてな。正直一割残っていれば幸いと考えていたのだがまさかここまでとは・・・」
『この話ってもしかして・・・・』
 最初は聞くつもりはなかったが少し気になる話題ではあったのでそのまま聞き耳を立てることにした。
「どうやら敵は我らに勝ち目がないと高を括っているのでしょう。」
「だろうな。実際まともなやり方では僕達に勝ち目などないのは確かだ。だが、やらなくてはいけないのも事実だ。生き残ったものはどれくらいで集められる?」
「日本支部の者は3週間もあれば全員召集は可能でしょう。他国の支部は直接合流が最善かと思われます。」
「わかった、それで十分だ。引き続き頼む。それと・・・天童夫妻の消息の方で何か判ったことはあるか?」
『っ!?いっ・・・今なんて・・・?』
 思わず扉を開けて飛び込もうとした。しかし、はやる気持ちを抑え何とか堪える。
「いえ、そちらについては未だ情報がありません。死亡も捕まったという事はどれもありません。寝返った・・・ということもありえませんしね。」
「そうか・・・ありがとう。引き続きそちらの方も頼む。戦力はほんの少しでも必要だからな。それに彼らの力は大きい。」
「解かりました。それでは失礼します。」
 七翔は慌てて扉から離れてすぐ横の柱に身を隠す。自分でもどうして隠れるのか解からないうちに。だが、それが無駄な行為だと理解できるのはそのすぐ後だった。
「七翔君。そんな所に隠れていないで早く入ってきたらどうだい?」
 あっさりと真薙に見破られ、恥ずかしさを抱えながら部屋へと足を運ぶ。
「さて、なんだかんだで少々時間がなくなってしまったので、すまないが要点だけを話すが構わないかい?」
「・・・はい。」
「では要点を・・・これを君達全員に読んでもらいたい。解かっていると思うが、もうすぐ・・・おそらく早ければ一月後には共和国にこれまでで一番大掛かりな作戦を仕掛けるつもりだ。その前に君達には事の発端を知る必要   いや、知る権利がある。」
 そういわれて真薙が七翔に手渡したのは何枚か重なった紙の束。その一番上には“luna meet 計画”と書かれている。
「これは?一体なんですか?」
「それは、先にも行ったとおり今起きている全ての発端。大馬鹿の大人たちが考えたどうしようもない夢物語の全容だ。詳しい内容は部屋に戻って読むといい。」
 七翔はその場で立ち尽くす。自分に手渡されたものを強く握り締めながら。
「今君が思っている通りのものだ。そして、それを手にし中を見る権利が君達にある。
それは君達が間違いなくこの事に対して最も深く関わっているからだ。」
「っ・・・?」
「その計画の中には生物兵器の製造が当然含まれている。そしてこの計画の一端とはいえこれほど深く関わっている君達に対してもっとも重要なものだ。」
「・・・今、なって言いました?計画の・・・一端!?」
 一時本心状態になりかけていた七翔の意識を取り戻させたのはあまりにも不可解なその単語のせいであった。
「そう・・・一端なんだよ。生物兵器の製造なんてこの計画の一端に過ぎなかった。
この計画の大部分はこれから起きることだ。」
「これから・・・?」
「そうだ。だからこそ必要なことなんだ。これは・・・」

 その後七翔は真薙の話を黒乃達にするべく部屋へと駆け戻った。
幸い全員がなぜか黒乃の部屋に集まっていたので手間が省けた。
「皆いるなぁ。とりあえず今聞いてきたこと・・・さっさと話すぞ・・・」
『そう。この誰もが驚くようなふざけた一大計画を・・・』
あとがき

 あいはい、大いに内容の不足。最悪のバトンの渡し方。
問題の先送り。その他もろもろ約数箇所。
期限超過の割に駄作しか出来ない己の力量が悲しい。
とはいえ、今の状況ではこれ以上のことが出来ない・・・
問題の先送りをしてしまったのが一番申し訳ないことではあるが、
やはり諦めるしかない。

よって次の者達にこの無念を晴らしてもらいたいものだ。
それを切に願う・・・
byハガル・ニイド