第参拾七話 復活の銃声
立ちあがったのは、セレネだった。
セレネは俺たちをかばう様に、こちらに歩んでくるヘカテの前に立ちはだかる。
「みんなは……やらせない」
セレネは手をヘカテにかざし、不可視光線で攻撃する。が、ヘカテも不可視光線で相殺し、こちらに接近してくる。
『全戦闘システム解放』
アルテミス戦の時と同じ、セレネのものではない機械的な声。
それを引き金に、超高速の死闘が始まった。

俺は前にセレネが言っていた事を思い出していた。
(今度は私が守る番……)
あいつは俺たちに守ってもらったと思っているらしい。
が、ホントはそうじゃない。俺たちの方が守られていたんじゃねえか!
重傷の七翔のほうをちらりとみる。七翔はもう顔が蒼ざめ、早く手当てをしなければ命にも関わる。
ふと、親父のセリフを思い出す。
(お前らも甘くなったな)
俺の生物兵器に対する甘さがこのざまだというのなら…………もう迷わない。
相手が生物兵器だろうと、少女でも関係ない!俺は、甘さを捨てる!
俺は今こそ戦うんだ!

もうだめかもしれない。
ヘカテちゃんはいくらなんでも強すぎる。
こちらのすべての内蔵兵器はまったく通用せず、逆にヘカテちゃんの衝撃波や光線で
自分のほうがダメージを多く受けている。
もたもたしている内に、あちらの衝撃波が私を狙い、とっさにかわしてやり過ごす。
と、突然身体がふらついた。
次の瞬間、全システムが落ちたのが分かった。もう、私には力が残ってなかったんだ。
みんな、ごめんね。
最後に私は渚さんや七翔、倒れているみんなをチラッとみる。
私、みんなを守りたかった…………
ヘカテちゃんの手のひらが輝き、不可視光線が私をねらう。
右足を貫かれて私は床に倒れ、動けなくなる。
ヘカテちゃんのてが再び輝きだし…………
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
黒乃がヘカテちゃんを突き飛ばしていた。
不意を付かれたヘカテちゃんはまともに突き飛ばされ、光線は私の横を通っていった。
「セレネ、早く渚のところへ行け」
こちらに駆け寄った黒乃が私を起こしてくれる。
「だめ、私がみんなを守るから………」
「邪魔だ」
「…………っ!」
その時の黒乃の顔は、まるで鬼のような形相だった。
「みんなを守るんだろ?だったら早く行ってやれ!」
と、倒れているみんなの方に指をさす。
私は、言われるままにその場を離れた。
「黒乃………死なないで!」
黒乃は、それに答えるようにこっちを見て微笑んでくれた。その時の顔は、穏やかないつもの黒乃の顔だった。

今の俺にはヘカテの攻撃がすべて見えていた。
研ぎ澄まされた感覚。それは、昔から自分を危機から守ってきた大切な感覚だった。
来る………
軽く身をよじり、不可視光線をかわす。
セレネやアルテミスに頼っていた俺は、この感覚をすっかり忘れていた。
親父に甘くなったといわれるのもしょうがないだろう。
ヘカテの顔に焦りが見え始めている。
「なんで……あたらない!」
めずらしく口を開くヘカテ。しかし、それに構う時間は俺には無い。
一瞬のスキをついて俺はヘカテに肉薄する。
「くたばれ」
俺はナイフを右袈裟懸けに振り下ろし、さらに頚動脈を切り裂く。血のシャワーが俺を覆い、俺の視界を赤に染める。
ヘカテが崩れ落ち、動かなくなったのを確認して俺は七翔に駆け寄った。

七翔はもう、冷たかった。
顔はもう蒼白で、心臓の鼓動も聞こえない。
だけど、その顔はどこか満足そうだった。
「黒乃…………」
渚が泣きそうな顔でこちらを覗く。
「七翔、死んじゃったの?」
セレネがこちらに訪ねる。俺は、それに答えることが出来なかった。
俺は半開きだった七翔の目を閉じてやり、光線銃を前に置く。
その時だった。
まだ残っていた俺の感が、すさまじい悪寒を感じ取った。
俺は次の瞬間には渚とセレネを抱えて真横に転がる。と、先ほどまで俺たちがいた場所には、3つの穴があいていた。
「あいつ………生きていたのか!」
目線の先には先ほどまで死んでいたと思っていたヘカテがいた。
手を前に突き出すヘカテ。その殺気の斜線は、俺を狙っていた。
「早く俺から離れろ!」
とっさに二人を左右に突き飛ばす。直後に右腕と左ももを光線が貫通していく。
「黒乃!」
渚の悲鳴にも似た声が耳に入る。
ヘカテは、すさまじい殺気を放ちながらこちらへと向かってくる。
俺は身体を動かしたくても動かせない、標本の昆虫のような状態だった。
「だめぇぇぇぇぇ!」
渚が抜刀してヘカテに切りかかろうとするが、距離が空きすぎて間に合わない。
セレネも、力を使い果たして動けない様だった。
今度こそ…………殺られるのか?
俺は止めをさそうと手を輝かせるヘカテから目をそらし、セレネと目を合わせる。
ごめんな、セレネ。
ヘカテの手の光が一点に集中し―――――――

次の瞬間、ヘカテの頭を一筋の光線が貫いた。
「何っ!?」
ヘカテは二、三歩こちらに歩み、そして倒れる。
誰だ?誰の攻撃だ!?
辺りを倒れながら見渡す。だが、その撃ち手の姿は見えなかった。
セレネも渚も、今の攻撃には関係なさそうである。では、だれが?
誰かが俺を見下ろしている気配がし、そちらを見ると……………
「へへ……閻魔大王に地獄から叩き出されちまったぜ」
      あ り え な い
こちらを上から見ていたのは――――――――

七翔だった。
なんだ?俺は幽霊を見ているのか?そうか、俺もさっきの攻撃でやられたのか?
「………俺も死んだのか」
「なわけねーだろ!ボケ!」
この軽口。まさに俺たちが知っている天道七翔だった。
「七翔……なんで生きてんの!?」
渚が泣きじゃくりながら七翔に訪ねる。七翔は、頭を掻きながら起きていたルナを指差す。
「いや……………あいつの能力さ、細胞治癒、蘇生能力だってさ。」
「「「はあっ!?」」」
「あいつ、死後10分までの細胞組織を完全に修復、再生できる能力らしいんだ。んでもって蘇ったら黒乃が危なかったろ?とっさにそばにおいてあった光線銃でヘカテを撃ったってわけよ」
……………………………
どうしようもない静寂が辺りを包む。
「…………七翔の」
渚がうつむきながら何か言う。
「へっ?」
「七翔の馬鹿――――――――!」

「さて、と」
ボロ雑巾のようになった七翔をとりあえず脇によせ、ルナにお願いしてみんなの怪我を治してもらう。とりあえず、こうして皆無事でいてくれてよかった。
「………やはり俺は甘いんだな」
光線銃の整備をしながら、俺はぽつりとつぶやく。
「何がだ?」
アルテミスが訝しげな表情でこちらを覗く。
「いや………いいんだ」
俺はもう起き上がらないヘカテの方を見、また視線を光線銃に移す。
一度は迷いを振り払ったはず。しかし、利用された挙句に殺した緑の髪の少女の死は、どこか自分たちの罪の証明書を思わせた。
「行こうよ、黒乃」
セレネが手を差し出してくる。俺はその手を優しく握ってやる。
「行くぞ。これが俺たちの最後の戦いだ」
俺たちは倉庫の奥へとその足を向けた。
親父、首を洗って待っていろ。
あとがき
( ゜Д゜)
(゜Д゜ )
( ゜Д゜ )
はい、セレネとF翔(変換していつも最初にこうなる)の死亡フラグを見事に叩き折っちゃいました。空気読めません。これ書いている時もワードの保存機能が3回おかしくなりました。パソも空気読めません。1000GETしてすいません。
というわけで、というわけでな37話。
ゴメンナサイ。その一言に尽きます。
これで次がますます書きづらくなってしまいました。けど反省はしても後悔はしません。
ロンドンさん、ラストスパート頼みます!でわ!

PS 今度 とりあえず、この世界で と 極東の風 の番外編を一本ずつ書こうと思っています。たぶん空気読めない作品かと思いますがくけけけけけけ(r
byキング