第二話 取り扱い説明書、ただし白紙
風紀委員マキノがのんきにお昼ご飯を食べている頃。
タケシはよくわからない場所で、よくわからない平原で、よくわからない人々に、囲まれていた。
タケシは実感する。ああこれで死ぬんだと。
しかし、予想外の出来事が彼を襲う。
よくわからない人々がタケシを担ぎ。そして。
思いっきり放り投げた。
もちろん、タケシは予測も予想もしてなかったからこそ、声にならない叫びになっていた。
タケシが放り投げられ声にならない叫びを出している頃。
学長室では誰も近づくことすらできないプレッシャーが発せられていた。
もともと、学長室は学校の構造で1階の一番奥にあり、ほとんど近寄ってこないのだが。
その中で独り佇む漢がいた。
私立YS学園学長 春夏秋冬(ひととせ) (じん)
珍しい苗字であるため覚えやすいのだが、昔は警視庁捜査一課のトップであり、検事でもあった。
しかし、魔王復活の予言を聞きこの魔城を創り、作り、造った。
そんな漢が今、とてつもないプレッシャーを発している。
いやプレッシャーではない。どちらかと言えば緊張であった。
なぜなら。予言が現実に、妄想が事実に、嘘が本当に。
緊張もあるが、余裕もある。そのために創り上げた魔城であり学園。
そのために集めた学生でもある。
魔王というのを辞書で調べると世界論における欲界の第六天にあたり仏道修行を妨げる王である。仏教では天魔(マーラ)となっている。
しかし、今回の魔王は全くわからない。
素性も、身体的特徴も、性別、どこから来るのか、理解できていない。
それほど危うい存在であり、また信仰するにあたいする存在でもある。
そんな存在がなぜこの学園を狙うのか。
それは、学園長すらもわからない。
わからないことだらけなのだ。
妄想の範囲を超えている。
しかし、学園長はこう思っている。
この世に不可能なことは起きない。必ず人間の仕業なのだと。
今回、魔王が来るとなってから一つわかっていることがある。
我々人類にとって、結果的にはいい方向に進むと考えている。
だが結果的にはなのだ。
その過程が危なかろうと。魔王は知ったことではない。
この学園の生徒には頑張ってもらわなければならない。
主人公は決まっている。
あとは誰が敵対する人物なのか。
それは学園長にはわからない。
なぜなら私は。
物語を見守ることしかできない。そういう役割を持っているのだ。
立場上、傍観者に近いだろう。
だからこそ、傍観者としての責任がある。
私はなんとしても、魔王を見つけなければならない。
昔、背負いきれなかった荷物を今とりに行こう。

ふと気がつけば、太陽が赤く染まり始めている。
学園長は席を立ち、校庭をみた。
そこには、ぼろぼろの姿で倒れているタケシの姿があった。
by鈴星の音色