「タケシ、反応はどう!?」
「なんとなくだけど、こっちだ!」
電光石火で学園長室を出た俺たちは、授業が始まり人一人いない廊下を全力で駆け抜けていた。ここで廊下の角からパンをくわえた女の子でも飛び出してきたら、ラブコメどころか交通事故になりそうなほどの速さで。
第五話 宇宙をその手に
「しっかしあんた、なんとなくってえらく不安になるんだけど、ほんとにこっちでいいの!?」
「知らねえよそんな事!説明できるのならしているわっ!」
魔具の能力のせいなのかは分からないが、俺の頭の中には反応を出している魔具の大体の位置が理解できていた。そして、薄ぼんやりと、その魔具の輪郭も浮かび始めてきた。
(なんだこれ・・・四角?長方形?)
(向かう方向・・・二階の奥・・・)
ふと周りに違和感を覚え、辺りを見渡す。
・・・・・・・・・・・・マキノと、はぐれてしまった様だ。
「どうすんだよ・・・・・・これ」
首に下げてある血の十字架(クロスブラッド)は明らかに目の前の部屋、図書室に反応を示している。
このままマキノを待つか、自分一人で突撃するか。
「ここで引いたら男が廃る!オリャー!」
俺は迷わずに図書室の扉を開け放った。

図書室の中は、授業中なのもあって誰もいなかった。
誰もいない図書室というのはえらく静かで、普段が騒がしいだけに一層不気味だなと感じた。窓が開いているのか、涼しい風が吹き込んでくる。
「ここのどっかに魔具があるっつうけど、どう探せばいいんだよ」
血の十字架(クロスブラッド)の反応は間違いなくここを示してはいたが、どうやらこの魔具、位置や形状をぼんやりとしか探知できないらしい。
「で、結局は虱潰しに探すしか方法がないのか」
ふと窓の方を見やると、明らかに人の形をした影が床に映されていた。
(なんだ?授業サボってきた奴でもいるのか?)
影の主に悟られないように、慎重に近づき、本棚の影からこっそり顔を出し・・・・・・
「誰ですか?」
見事に相手と目が合ってしまう。
(まー、こうなるとは思ってたけどっ!)
心の中で毒づきながら、声の主を見やる。声の主は学園指定のセーラー服を来たここの学生であった。手にはA4程のハードカバーの本を持っている。ページ側がこちらを向いていて、本の内容は分からないがおそらくはこの部屋の本だろう。
「めずらしいですね、こんな時間にお客さんなんて」
「なんだよ、あんたもサボリ?」
相手は、にこりと微笑みこちらを見つめる。
「私は佐藤ユイ。この時間は誰もいないから、落ち着いて本が読めるんですよ」
やばい。かなりいい笑顔に思わずときめきかけてしまう、が。当初の目的を思い出してすぐにその場を離れようとする。
「何か探しものですか?」
「いや、なんでもないから気にしないでくれよ」
ユイと名乗ったその子は不思議そうに尋ねてくるが、こちらが探しているものは一般常識的には明らかに中二病を疑われる物である。さすがに聞くことはできないな・・・・・・
「ああ、魔具を探しているのですね」
・・・・・・え?
今、こいつは何を言った?
「ええと・・・タケシ君ですか。私と同学年の男子学生。よくマキノさんという方にあの世に送られかけていますね。昨日は災難でしたね、ブルーベリー入りおにぎり」
ユイは持っていた本を開き、その中の1ページをじっくり眺めている。この瞬間、俺は全てを悟った。
「まさか」
「はい、そのまさかです。この本型の魔具、小宇宙の記憶(コスモメモリー)の所有者です」
ビンゴ!まさかこんなに早く所有者を発見できるなんて俺かなりついている!
「なら話は早いんだよ。ちょっと訳ありで、魔具を使える人間を探していたんだ」
「何かあったのですか?」
「んなこと聞かれても、俺もよく分ってないからなぁ。ただ、もしもの時に協力をして欲しいってお願いしたいんだけど」
その瞬間、彼女の顔に影が走る。
「どうしたんだ?」
「・・・・・・・・・・私は、目立つのが嫌いなのです」
明らかに拒絶の表情。嫌な予感がする。
「今までこの小宇宙の記憶(コスモメモリー)は自身の危機を回避するために使ってきました。同時に、これ自体を狙ってくる者からこれを護るため。私はただ、平穏な暮らしをしたい」
「いや、えーと」
「だから・・・・・・協力は、出来ないです。嫌でも目立ってしまうから」
結局はこうなってしまうのか、仕方がない。
「悪いけど、協力できないって言われたら魔具を奪えって言われてるんだよ。ごめんな」
そういって彼女の魔具、小宇宙の記憶(コスモメモリー)に手を伸ばした瞬間――――
俺の身体が突然動かなくなった!
「!?」
俗に言う金縛りという現象だが、何故今になって起こるんだ!?
「これが小宇宙の記憶(コスモメモリー)の能力。情報を知り、その情報を書き換える能力。」
そういうと、彼女は小宇宙の記憶(コスモメモリー)のある1Pを見せる。そこには、俺の名前と今考えていた事、手書きで【タケシ君は私の側では動けない】と書かれていた。
「このページはあなたのページ。ここに情報を書き足すことで、あなたはその通りに行動せざるをえなくなる」
畜生!どんなに力をこめても身体が動かない。このままでは、彼女にいいようにされてしまう!なんとなく興奮した気がしたけど、別にそんな事はなかったぜ!
「次はあなたから私と小宇宙の記憶(コスモメモリー)の情報を忘れてもらいます。そうすれば、私はまた目立たずにいられる」
そういった後、彼女はシャーペンを手に小宇宙の記憶(コスモメモリー)に命令を書き込もうとする。
「ごめんなさい・・・忘れられてしまうけど」
そして小宇宙の記憶(コスモメモリー)のページにシャーペンがのびるのを、俺は黙って見る事しか出来なかった・・・・・・・・・
byキング