「ノックをしたのだから返事を待つのが礼儀じゃないのかい?」
部屋の主たる学園長は部屋にあがりこんできたその人に皮肉を送る。
「申し訳ありませんが、学園長の返事を悠長に待っていられるほど暇がないんです。僕に礼儀を語りたいならまずあの馬鹿げた仕事量を減らしてください」
学園指定の制服をお手本のようにきちんと着たその少年は、学園長に物怖じせずにずけずけとものを言い続ける。
「僕は学園長に無理難題を言っているつもりはないですよ?でも僕だって仮にも学生なんです。そこを考慮して欲しいといっているだけなんですよ?」
「解っている。君には無理をさせてすまないと思っているよ。まぁ……その話は今度話すとして、本題に入りたいんだが」
話をそらされているのは明々白々ではあるが、今それを追及するときではないのであきらめて本題に入ることにした。
「……魔具集めのことで呼ばれたのでしょう?もう少し待っていてくださいね。下準備は後……一週間もあれば完了しますから。
突貫工事でもなんでもスピードを最優先にして行っています。時間がないのは僕もわかって――」
「いや、厳密にはそこではない……君には悪いが計画はもう開始させてもらった」
少年の話をさえぎるように放たれた言葉は彼を凍りつかせた。そして今度は怒りを顕にしながら学園長に責めよった。
「何を考えているんですか!?計画を前倒しにするのだって限度があるんですよ!いくら時間がないからといって……あー!またやることが増える!!」
「安心したまえ、私なりの考えがあるのだ。君の仕事も増やさないようにきちんと手は回す」
「考えがあるって……それでもですね…………わかりました。過ぎてしまった以上は僕もあきらめます。では、予定通り
「あぁ
学園長の言葉で再び凍りつくと今度は力なく頭を抱えながら「もうグダグダだ……」とつぶやきながらうなり始める。
そんな彼を尻目に机の上に真っ白なカードが置かれる。それを見てうなる事をやめ、再び学園長を見る。
「……もうどうにでもなれ……ですね。ではこれから彼らに合流しますので、
彼は机に置かれたカードを制服の胸ポケットに入れ、そそくさと学園長室を後にしようとする。
「時に……【妖刀】は……使うのかね?姫井君」
彼は足を止めたものの学園長の方は向かずにそのまま言葉を返す。
「……必要はないでしょう。彼らには『村正(改)』があるんですよ?あれだけで充分ですよ……では失礼しました」
それだけ言い捨てると彼は今度こそ学園長室を後にした。一人になった
「私が揃えられる役者は揃えた。演ずべき舞台もまもなく出来上がる。後は彼らがどう出てくるか……だな」
「ない!ない!ない!……何処にもない!!!何故だ!?何故なんだー!?」
彼の叫び声は同じ階の端からはしまで聞こえるんじゃないか?と感じる公害クラスの騒音で叫びながら、何もなくて探しようのない廊下を隈なく調べ上げている。
だが、いくら探したところで見つかるわけがない。何もないのだから
「あぁ……なんて事だ……これじゃ、これじゃぁ――」
その場に伏せながら必死に涙を堪えながら体を震わせる。
「これじゃ俺の単位が!俺の薔薇色の学園生活がぁぁ!!」
「……嘆くところ、絶対に違う」
的外れな嘆きにユイが意味も無くツッコミを入れる――態々入れなくてもいいものに……
タケシはいよいよ途方に暮れ始めた――っといっても無くしてから僅か5分後の話である――魔具探しをしようにもマキノはどこかに雲隠れ、頼りの
彼の頭ではいうなれば王一枚で将棋をしている気分――つまり詰んでしまったのだ。挫折というのは何事にもあるだろうが……やはり早過ぎるであろう。
「はぁ……魔具集めも……ここまでか……悔しいぜ」
「いやいやいやいや!まって!いくらなんでも諦めるのが早すぎるよ、タケシ君!」
ツッコミの時を今か今かと待っていたかのような絶妙なタイミングで登場してきた。その登場にタケシとユイは一瞬呆然とするも現れたのがとてもよく知る人物だったので、すぐに普段の調子に戻った。
「なんだ、トウヤじゃん。こんな所で風紀委員の仕事か?……あっ!また別の仕事押し付けられたか?大変だなぁ」
「でた。姫井副委員長……風紀委員の副委員長なのにそれ以外の委員の仕事を押し付けられてはそれをこなす学園で最も多忙な学生……ご愁傷様」
「……いや違うよ……うん。でもその前に、とりあえず哀れまないで……そんな詳細な説明を付け加えてまで哀れまないで……」
トウヤは哀れみの瞳に耐えかねて通路の隅っこで重苦しい空気を放出しながら小さくなってしまった。
「僕だってやりたくてやってるわけじゃないんだよ?でもうちの委員長とか生徒会長とか皆仕事しないんだよ?それも支障をきたすのは解ってるのに……わざとだよ?それで詰まりはじめたら僕に押し付けるし……今日だって」
「……お〜い。トウヤ……大丈夫か〜?」
暗く沈んでいるトウヤに声を掛けるとトウヤは何かを思い出したかのように急に立ち上がりタケシに迫り来る。
「そーだよ!危うく忘れるところだったよタケシ君。魔具集めは今どんな状況?いきなり挫折するってことは何か問題が発生したんだよね?っというかマキノさん……どこ?一緒に探してるはずだよ……ねぇ?」
物凄い剣幕と高速で流れる言葉に押しつぶされてしまいそうになるが、何とか拾い上げられた言葉を疑問としてトウヤに投げ返す。
「え〜っと……あれ?なんで俺が魔具集めやってるの……知ってんだ?」
「そっか……とりあえずその説明からしないといけないんだ、ごめんごめん。ついでに今の状況を教えてくれるとありがたいな」
「そっか、トウヤも元々魔具集めの為に呼ばれてたのか」
「うん。まぁ僕は主に二人のサポート……みたいな立場かな?単位免除受けてないしね……」
いや、少しくらい授業でなくても単位問題ないだろ。っと言いたいが、まぁ言わないのがお約束とタケシ達は言葉を飲み込んだ。
「……さて、これから探さなきゃいけないのがマキノさんと
「なんで?
「理由はすぐ解るよ。佐藤さん、
「……あぁ……今調べます」
トウヤの意図を理解したユイは
「……解った。今マキノさん真上……屋上に居る」
「屋上かぁ……よし、タケシ君。呆けてないで早くいくよ」
「えっ?えっ?……えっ?」
結局わけも解らぬまま屋上へとつれてゆかれる。
「……問題発生……春夏秋冬の懐刀を確認。材料が奪い返される可能性あり。要注意」