「よくもまあ、ここまでやってくれたものだ。春夏秋冬」
黒髪、黒服、全身黒尽くしの男は、黒色の本を片手にぽつりとつぶやく。
彼の周囲は魔具同士の魔力の衝突による影響で、完全に荒野と果てていた。
そして、目の前の男の手には、魔王の力の証たる魔具が。
完全に草木も残らない不毛の地で、二人の男がにらみ合う。
「槙野の血も滅ぼし、姫井家もほぼ潰した。あとはお前ら夫婦だけだ、佐藤」
「……そいつは」
「どうかしら?」
二人の会話に、突如として割り込む声。
黒服の男の背後に、女が突如現れる。その手には、純白の本が。
「お前か。ユイはどうした?」
「逃がした。流石に例の魔具は持たせられないから、『知識の中』に送ったよ」
「そうか、ざまぁ無いな春夏秋冬。お前の計画も、これで御破算だ」
ぎりりと春夏秋冬の歯軋りが響く。
「貴様ら…魔王を倒せる唯一の可能性の有る魔具を犠牲にしてでも、私に一矢報いるつもりか。まったくもって憎たらしい」
春夏秋冬の憎悪に呼応するかの如く、十字架の魔具が毒々しい光を放つ。
「憎まれて結構。あとは始末をつけるだけだ」
十字架の光に対し、清廉な輝きを放つ二冊の魔具。
「いくぞ。たとえ俺達の血が途絶えたとしても、この世界を、この星を魔王なんぞに侵させるわけにはいかん」
「うん。あたしは、あなたとならどこへでも!」
三人の持つ魔具の光が交差した。
光の中、荒れ狂う力が三人の肉体を、魔力を、命を抉り取ってゆく。
「っ、があぁ!」
女の右足が消失し、全身を光が貫く。
「まだ!まだ終わりじゃない!」
純白の本から清らかな光が吹き荒れ、魔王の力が次々と霧散されていく。春夏秋冬が長い年月をかけ、ようやく充填した魔力が。光と化し消えてゆく。
同時に女は、満ち足りた表情でこの世から消滅した。己の本の魔力の中へと。
「貴様ら…!」
(俺たちは、知識へと還る。ユイ、姫井達のガキ共……すまない、後は頼んだ)
「だが……手土産はいただいていくぞ、春夏秋冬!貴様の持つ、魔王の魔力を、な!」
漆黒の本と純白の本に、魔王の魔力が次々と引きずり込まれてゆく。
男も魔王の力と共に肉体を刻まれ、本の中へと消えていき、やがて二冊の本は後継者を求めて転移した。二人が残した、愛娘の下へと。
そして。
後には、呆然と立ち尽くす春夏秋冬と、僅かな魔力を残す十字架が残るのみであった。
第三十一話 滅びの刻を越えてゆけ
「思えば長かったものだ」
日曜日の朝、学園長室の中。
学園長、春夏秋冬はぽつりと呟く。
「長かった」
手の中の血の十字架 を見つめながら、再び呟く。
計画は、いよいよ最終段階に入った。
443人の、魔王の力を血の十字架 を経由しこの世に顕現させる適格者により、かつて己が手にしていた時の力を超える魔力を手に入れたと確信できた。
あと一人。
あと一冊。
新世界の門 と、槙野の小娘。
いよいよ。
自分が世界の頂点に成り上がる時が来た。
社会の最下層にいた自分が、世界に復讐する時が来た。
と、
コンコン。
日曜日にも関わらず、来訪者を告げる音が響く。
ノックの音を聞いた瞬間。
この世のものとは思えぬ、おぞましき笑みを春夏秋冬は浮かべた。
手元に広げていた便箋がカサリと音を立てる。
便箋に書かれた内容は、
『拝啓 学園長殿
このたびは魔王復活の儀式完成まであと少しとなりまして、おめでとうございます。
つきましては、日曜日の朝に、全校生徒を代表して佐藤ユイ以下3名で、ささやかなお祝いをしたいと思いますので、首を洗って待っていろクソ野郎』
無駄に綺麗に書かれていた手紙を抽斗に収め、ノックのした扉へと向く。
「入りたまえ」
直後。
学園長室のドアを粉砕し、凄まじい速さで黒光りする物が春夏秋冬目掛けて飛んできた。
「ふん」
春夏秋冬は冷静に、飛来した物を掴み取り、顔色一つ変えずに握り砕く。
破片が床を叩くと同時、粉砕された入口から三つの影が学園長室に差し込む。
「やはり君達か」
「待たせたな学園長!約束どおり、派手に祝ってやるぜ!」
443番目の適格者の少年。
「ちゃんと首を洗ってきた?答えは聞かないけどねぇ!」
444番目の適格者の少女。
「学園長。あなたの罪が、裁かれる刻が来ました」
万物を支配する魔具を操る少女。
3人の襲撃者が、学園長室に入ってきた。
「よく来てくれた。私も心から感謝するとしよう」
タケシ、マキノ、ユイをなめる様に見つめた春夏秋冬は、にたりと笑い、心から歓迎するといわんばかりの表情を見せる。
「そう?ならぶっ飛びなさい!」
マキノの手から、鉄球が砕かれ、鎖だけが残る村正(改)が放たれる。
しかし、放たれた鎖は先刻と同じく春夏秋冬に掴まれ、次の瞬間には粉々にされる。
「こなくそ!」
残された鎖を使い、更に攻撃を仕掛けようとするマキノ。
「待ってください、マキノさん」
それを、ユイの一言が止める。
「ちぇっ……手短かにお願いね」
ええ、と相槌をうち、ユイは春夏秋冬に向き直る。
「一つ教えてください………あなたは何故、このような計画を?」
それは、関係を持った誰もが知りたがる事だろう。
この状況で、このような問いが出来るのはユイが知識を司る魔具を持っていたことによる好奇心からか。
春夏秋冬は、その問いかけに対し、
「いいだろう」
椅子の背に深く座り直し、改めて3人の襲撃者を見やる。
「少し、昔話でもしてやろうか。運命とやらに見捨てられた、哀れな男の話をな」
この世界では極まれに、恐るべき力を持つ者が生まれる。
その力は神の力とも、超能力とも、天恵ともいわれる物である。
ある男も、その異能の力を持つ者の一人であった。
だが。
男の持つ力とは。
全ての魔の頂点に立つ、魔王の力であった。
男には生まれつき、身に着けていた装飾品がある。
その装飾品こそが、彼が魔王の力を行使できる証であった。
魔王の力は他の魔を冠する全ての力を打ち消し、他の追随を許さぬ力。
その力を持つ男は、自分が一番の魔具使いと証明すべく、他の魔具使いに戦いを挑み勝利を収めた。
やがて男は魔の力を持つ全ての人間に恐れられ、崇められた。
だが、彼の存在は魔具を持つ者の間では危険視され、魔具の意義を無くさせぬため男を始末せねばならないという意見まで出始めた。
とうとう、魔具の所有者間で出来た同盟は、男を魔具の全てを滅ぼす『魔王』として討伐することを決めた。
男は絶望した。
なぜ人間である自分が、他人から化け物扱いされ殺されなければならないのか。
たまたま、魔具に対して強い魔具を持っているだけの自分が。
男は生まれながらに出会う人間ことごとくに忌まれ、疎まれ、傷つけられを繰り返し、やがて男は理解した。
滅ぼさなくてはならないと。
このような下種な者共を。己を強者として、人として認めてくれぬ者を。
男は十字架の魔具に誓った。
自らが魔王となることを。
徹底的に、どこまでも墜ちてやると。
迫りくる追っ手を皆殺しにし、ついには魔具の使い手では名の知れた、御三家といわれる姫井、槙野、佐藤の勢力全てを返り討ちにし、その血統をほぼ絶やした。
全てが順調に、終末へ向かっていた。
だが。
御三家の一つ、佐藤家の魔具により今まで束ねていた魔力が二つの魔具の猛攻により拡散してしまったのだ。
拡散した魔力は互いに牽かれ合い、元に戻ろうとしたが、完全に一つにはまとまらなかった。
こうして、力は444の破片に砕かれた。
男は思った。
なんとしてでもとりもどさねば。
己の存在を知るものは、目的を知るものはもう居ない。
ならば。
集めよう。
力の破片を受け入れた適格者を。
この忌まわしき世界を作りかえるために。
そして男は、二度と戻れぬ外道へと堕ちた。
すべての話が終わった時、タケシは足元に転がる学園長室を示すプレートを踏み壊した。
「なんだよ、それ…………そんな勝手な理由で、俺たちやテメェが犠牲にした人たちが納得いくかよ!」
「そうよ!理由があったからって、この世界を滅ぼしていい理由になんてならないわよ!」
激昂し、今にも学園長に飛び掛りそうな二人をそっとユイの手が制する。
「学園長、お気持ちはお察しします。私もまかり違えば、同じ考えに至っていたかもしれませんから。…ですが、」
新世界の門 を抱え直すユイ。
春夏秋冬と同じく、世界を根底から歪めかねない力を持つユイは目の前の男の考え方に、多少共感するものを感じていた。
だが、根本的に違う事がある。
世界を肯定するか。
世界を否定するか。
ユイは前者を選び、春夏秋冬は後者を選んだ。
きわめて近く、限りなく遠き二人の思想。
「なぜこんなやり方でしか、己を示せなかったのですか?貴方さえその気になれば、お父様達と、皆と、きっと分かり合えたはずです。もっと素敵な未来があったはずです」
「かもしれぬ」
ユイの発言を肯定する春夏秋冬。
しかし、春夏秋冬は黙って首を横に振り、
「だが、事実がどうであれ計画はここまで進んだ。後には引けん。私には、もうこの計画を実行することしか………生きる理由が無いのだよ」
座っていた椅子から音も無く、春夏秋冬が立ち上がる。
「昔話は、ここまでだ」
刹那。
春夏秋冬から、何かが放たれた。
よく見ていれば、手に持っていた『何か』を投げつけたのだとわかっただろうが、突然の春夏秋冬の攻撃に3人は判断を鈍らせた。
タケシとユイは咄嗟に左右に飛び退き事なきを得るが、一人反応が遅れたマキノは、飛来した『何か』を反射的に掴み取ってしまう。
それは。
「…私の勝ちだ」
にやりと唇を歪める春夏秋冬。
直後、マキノが掴み取った『何か』から禍々しい魔力があふれ出した。
「血の十字架 !?」
「そうだ。マキノの小娘が拡散した魔王の力を呼び戻す、最後の適格者だ」
血の十字架 からあふれ出した魔力はマキノの身体を覆い隠し、中に取り込んでしまう。
「マキノ!」
「……これで、魔王復活の準備は整った。後は貴様の新世界の門 を奪うだけだ」
だが。
「………?」
何も起こらない。
見れば魔王の魔力も、宙を蠢いているだけで何の行動も起こさない。
最後の適格者を取り込んだにしては不自然すぎる、この状況。
「そうか」
視線を移すと、タケシとユイが学園長室から出て行く姿が見えた。
「やってくれたな、佐藤ユイ」
「まずいぜ。学園長のヤツ、追いかけてきてやがる」
「大丈夫。まだ、こちらの予想通りです。」
学園長室から脱出したタケシとユイは、背後から追いかける学園長を気にしつつ、廊下を全力で駆けていた。
階段を登り、二、三回曲がり角を曲がってタケシが後を振り返ると、曲がり角から飛び出しこちらに迫る学園長が視界に入る。
「やべぇ!もう追いついてきやがった!」
「もう目的地に到着です、慌てないで!」
タケシが自分達の教室のドアを蹴破って入り、ユイがそれに続き教室に入る。
それに少し遅れる形で春夏秋冬が教室に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
教室の中で、ユイの他に20人の生徒が彼を出迎えた。
しかし。
20人全員が、全く同じ顔をしていた。
20人全員が、全く同じ服装をしていた。
20人全員が、全く同じ体格をしていた。
全員、タケシの姿をしていた。
「なるほど」
春夏秋冬は、この異様な光景を一瞥し、即座に理解する。
「新世界の門 。その魔具は他の生命体まで完全に複製し、統率できるのか。」
視線をユイの持つ新世界の門 に移す春夏秋冬。
「やはり、すばらしい」
その一言と同時、コピータケシがユイの前に立ち、春夏秋冬を取り囲むように陣形を組む。
「ぶっとばしてやるぜ、この野郎!」
20人のコピーが、一斉に咆哮し春夏秋冬に飛び掛る。
だが。
「分からないのか?そのような攻撃、魔王には届かない」
コピータケシの拳が春夏秋冬に届くその時、黒い魔力が春夏秋冬の身体を覆った。
コピータケシの振るう拳が春夏秋冬の身体を打つたびに、蹴りが届くたびに、掴み掛かるたびに、次々とコピーが消し飛ばされ、あるいは消滅した。
「これらのコピーが貴様の魔具、新世界の門 の魔力により生み出されたものならば、この魔王の力に打ち消せぬ道理は無い」
魔王の力。
魔具を憎み、魔力を疎み、己以外の魔の存在を消滅させる否定の力。
あくまでも新世界の門 という魔具の力で生み出されたコピータケシは、魔王の怒りに触れ、ことごとく消され、蹂躙される。
気が付けば、20人居たコピータケシは全て教室から消滅していた。
「予想していたとはいえ、やはりそう簡単にはいきませんか」
全てのコピータケシが消滅したのを見届け、ユイは教室を後にする。
「逃がすものか」
ユイを追い、教室を出て行く春夏秋冬。
彼が出て行った直後、教室の掃除用具入れが開き、中から本物のタケシとマキノが顔を出す。周りを見渡し、人の気配が消えたことを確認してから二人はロッカーから出る。
「とりあえず、ここまでは順調。だけど……」
「あの子の仮説が本当ならば、私たちの勝ち。そうでなければ私たちの負け。ぐだぐだ言ってないで、さっさと作戦通りに動くわよ!」
軽く背筋を伸ばし、村正(改)を構えるマキノ。
タケシも護身具として、ロッカーからモップを取り出す。
「信じるぜ……ユイ」
ユイと春夏秋冬を追うべく、タケシとマキノは教室を後にした。
二つの影が廊下を駆け抜け、階段の上がり下がりを繰り返し、やがて一つの部屋の前で春夏秋冬の足が止まる。彼は、ユイがこの部屋に入るのを確かに確認した。
家庭科室。
「ここ、か」
家庭科室の扉を開けた直後、突如春夏秋冬の視界が白く染まった。
「……?」
不審に思いながらも、春夏秋冬が室内に足を踏み入れると。
ピシャリ。
という音とともに、何者かに家庭科室の扉が閉じられ、カギがかかる音がする。
白い煙幕に覆われた家庭科室にはユイ以外に、まったく同じ体格、武器、気配の人影が複数人立っていた。
春夏秋冬はそれらを一瞥すると、軽くため息をつく。
「今度は槙野の小娘のコピーか、芸が無い」
特に興味をそそられる訳でもなく、無感情にひとりごちる春夏秋冬。
「さあ、覚悟しなさい!」
春夏秋冬めがけ、室内の総勢17人のコピーマキノから鉄球が放たれる。が、
「無駄だ」
鉄球が春夏秋冬の身体に触れた瞬間、全てのコピー村正(改)とコピーマキノが消滅する。
おぞましき笑みを貼り付けながら、白煙を掻き分けユイに迫る春夏秋冬。
「諦めろ、佐藤の小娘。所詮貴様らは魔具の力が使えるだけの人間だ。魔具頼みの力では、私には勝てんよ」
その言葉を聴いたユイは軽くため息をつき懐に手を伸ばす。
「そうですか」
懐から取り出したのは、コンビニで100円で買えるような安物のライターだった。
「では、魔具を超える人の英知というものをお見せましょう」
ユイが手にしていたライターを点火した次の瞬間。
家庭科室を中心に、すさまじい爆発が起きた。
高温の衝撃波は室内を駆け巡り、学園のガラスをことごとく打ち砕き、春夏秋冬の身体を焼き尽くす。
煙幕として使われていた白い粉は、ただの小麦粉である。
しかし小麦粉も、時として魔具を超える危険物と化す。
粉塵爆発。
狭い空間に可燃性の粉塵が充満することにより、僅かな火の気によって瞬間で火が回り、爆発を起こす現象。タケシたちは、初めから春夏秋冬をこの罠にかけるためにわざわざ正面から喧嘩を売り、逃げる振りをして春夏秋冬をこの部屋に誘導したのである。
爆発の威力は、魔王の力を持つ者とはいえ、いまだ人の身である春夏秋冬の身体を焼き尽くすには十分すぎるものであった。
残り火が燻る家庭科室の中、ユイは倒れ付す春夏秋冬を見下ろし、口を開く。
「確かに魔王の魔力は強力です。他の魔力を食らい、魔具を完全に無力化、破壊し他の魔力から己を逃がす。だからこそ、そこに私たちの勝機はあったのです」
物言わぬ黒焦げの肉塊に、なお淡々と話し続けるユイ。
「あなたは魔具を恐れすぎた。私たちの魔具の力を気にしすぎたあなたは、魔具に対してしか気をつけていなかった。だから、あなたはそれ以外の方向からの攻撃に対しあまりにも鈍感になっていた」
ぴくりと、こんがりと焼けた指が動く。
「魔具の力が効かないのなら、あなたを倒すには魔具を使わず、自らの手で倒せばいいのです。ちょっと気付きにくい事ですが、理解すれば攻略は容易なのですよ」
がくがくと黒焦げの体が揺れ、立ち上がろうと床をもがく。ユイはその姿を、ただ冷ややかに見下ろしていた。
「これが、あなたがコケにした人間の力です。あなたが勝手に捨て、見下した力です。魔王の力を必要とするほど、私たちは落ちぶれてはいませんよ?」
直後。
「佐藤ぅぅぅぅぅぅっ!」
咆哮とともに、焼き尽くされた筈の春夏秋冬が立ち上がる。
全身を焼かれ、煙を立ち上らせ、炭化し、文字通り黒に染まった男が。
「貴様は、貴様らは、また私を見下すか!また化け物と扱うか!貴様らさえ、貴様らさえ居なければ、私もまだ人として生きていられたのだよぉぉぉぉっ!」
「うるせえよ、コンプレックスの塊」
がつん。
タケシが振るうモップが春夏秋冬の足をすくい、再び彼を地に縫い止める。
「いい加減にしろよ、テメェ。勝手に逆恨みした挙句、今度は人として生きたかった?ふざけるなよ……ふざけてんじゃねえよ!」
絶叫に近いタケシの声が、家庭科室内にこだまする。
「テメエこそ、なんの関係の無い人を犠牲にして、人生狂わせて、何脈絡も無く被害者面しているんだよ!テメエの計画の犠牲になった人たちの前で、そんなこと言えるのかよ!はっきり言ってやる!テメエは魔王なんかじゃねえ。只の人間だ!!」
「うおあぁぁぁ―――――――っ!!」
再び立ち上がり、ユイとタケシに迫る春夏秋冬。
血の十字架 がどす黒い魔力を放ち、春夏秋冬の身体を支え、動かす。さながら、人形劇の操り人形の如く。
伸ばした手が二人の喉元に届くその時。
「……もうなにも言うことは無いわ」
じゃらりと、村正(改)の鎖がゆれる。
「哀れすぎて、何も言う気になれない」
マキノは使い慣れた鉄球を振り回し、体全体を使い勢いをつけ、最大限の威力を叩き込むべく柄のスイッチを押す。
ロケットブースターが起動し、投げ放たれた威力にさらに力を足し鉄球が春夏秋冬を襲う。
「無駄だ、魔王の力は魔具を砕く!忘れたのか!」
投げ放たれた村正(改)を無視し、タケシとユイを襲う春夏秋冬。
「……一言、言い忘れてたわ」
ぐしゃり。
「…は?」
あらゆる魔具の力を無効化し、破壊する魔王の力。
その力の鎧があっけなく突破され、村正(改)が春夏秋冬の身体に深々とめり込む。
ベキボキと嫌な音を立てつつ、春夏秋冬は吹き飛ばされ、もろくなった壁を破壊し家庭科室から校庭へと叩き落された。
「(改)の名は、伊達じゃないのよ!」
そう。
村正の本質は空間移動。
鉄球は、その『本体』を守る鎧の様なもの。
本来戦闘能力を持たない村正に戦闘能力を付加するための、魔力が介入しない形状。
すなわち、外殻たる鉄球の部位は魔具『そのものではない』のである。
魔王は、魔具の力でなければ無効化できない。
故に、魔王に対し最大限の威力をだせる魔具。
それが、村正(改)である。
「さーて、そろそろ止めと行くわよ!」
興奮覚めやまぬ面持ちで階下へと向かうマキノ達。
「ええ。しかし、魔王の力はまだ消えてはいません。……これからが本番ですよ、マキノさん」
「OK、でも関係ないわ」
じゃらり、と手の中の鎖が擦れ、音を立てる。
「相手が誰であろうと、私『達』の邪魔をするのであれば叩き潰すのみ!」
日曜日の朝、学園長室の中。
学園長、春夏秋冬はぽつりと呟く。
「長かった」
手の中の
計画は、いよいよ最終段階に入った。
443人の、魔王の力を
あと一人。
あと一冊。
いよいよ。
自分が世界の頂点に成り上がる時が来た。
社会の最下層にいた自分が、世界に復讐する時が来た。
と、
コンコン。
日曜日にも関わらず、来訪者を告げる音が響く。
ノックの音を聞いた瞬間。
この世のものとは思えぬ、おぞましき笑みを春夏秋冬は浮かべた。
手元に広げていた便箋がカサリと音を立てる。
便箋に書かれた内容は、
『拝啓 学園長殿
このたびは魔王復活の儀式完成まであと少しとなりまして、おめでとうございます。
つきましては、日曜日の朝に、全校生徒を代表して佐藤ユイ以下3名で、ささやかなお祝いをしたいと思いますので、首を洗って待っていろクソ野郎』
無駄に綺麗に書かれていた手紙を抽斗に収め、ノックのした扉へと向く。
「入りたまえ」
直後。
学園長室のドアを粉砕し、凄まじい速さで黒光りする物が春夏秋冬目掛けて飛んできた。
「ふん」
春夏秋冬は冷静に、飛来した物を掴み取り、顔色一つ変えずに握り砕く。
破片が床を叩くと同時、粉砕された入口から三つの影が学園長室に差し込む。
「やはり君達か」
「待たせたな学園長!約束どおり、派手に祝ってやるぜ!」
443番目の適格者の少年。
「ちゃんと首を洗ってきた?答えは聞かないけどねぇ!」
444番目の適格者の少女。
「学園長。あなたの罪が、裁かれる刻が来ました」
万物を支配する魔具を操る少女。
3人の襲撃者が、学園長室に入ってきた。
「よく来てくれた。私も心から感謝するとしよう」
タケシ、マキノ、ユイをなめる様に見つめた春夏秋冬は、にたりと笑い、心から歓迎するといわんばかりの表情を見せる。
「そう?ならぶっ飛びなさい!」
マキノの手から、鉄球が砕かれ、鎖だけが残る村正(改)が放たれる。
しかし、放たれた鎖は先刻と同じく春夏秋冬に掴まれ、次の瞬間には粉々にされる。
「こなくそ!」
残された鎖を使い、更に攻撃を仕掛けようとするマキノ。
「待ってください、マキノさん」
それを、ユイの一言が止める。
「ちぇっ……手短かにお願いね」
ええ、と相槌をうち、ユイは春夏秋冬に向き直る。
「一つ教えてください………あなたは何故、このような計画を?」
それは、関係を持った誰もが知りたがる事だろう。
この状況で、このような問いが出来るのはユイが知識を司る魔具を持っていたことによる好奇心からか。
春夏秋冬は、その問いかけに対し、
「いいだろう」
椅子の背に深く座り直し、改めて3人の襲撃者を見やる。
「少し、昔話でもしてやろうか。運命とやらに見捨てられた、哀れな男の話をな」
この世界では極まれに、恐るべき力を持つ者が生まれる。
その力は神の力とも、超能力とも、天恵ともいわれる物である。
ある男も、その異能の力を持つ者の一人であった。
だが。
男の持つ力とは。
全ての魔の頂点に立つ、魔王の力であった。
男には生まれつき、身に着けていた装飾品がある。
その装飾品こそが、彼が魔王の力を行使できる証であった。
魔王の力は他の魔を冠する全ての力を打ち消し、他の追随を許さぬ力。
その力を持つ男は、自分が一番の魔具使いと証明すべく、他の魔具使いに戦いを挑み勝利を収めた。
やがて男は魔の力を持つ全ての人間に恐れられ、崇められた。
だが、彼の存在は魔具を持つ者の間では危険視され、魔具の意義を無くさせぬため男を始末せねばならないという意見まで出始めた。
とうとう、魔具の所有者間で出来た同盟は、男を魔具の全てを滅ぼす『魔王』として討伐することを決めた。
男は絶望した。
なぜ人間である自分が、他人から化け物扱いされ殺されなければならないのか。
たまたま、魔具に対して強い魔具を持っているだけの自分が。
男は生まれながらに出会う人間ことごとくに忌まれ、疎まれ、傷つけられを繰り返し、やがて男は理解した。
滅ぼさなくてはならないと。
このような下種な者共を。己を強者として、人として認めてくれぬ者を。
男は十字架の魔具に誓った。
自らが魔王となることを。
徹底的に、どこまでも墜ちてやると。
迫りくる追っ手を皆殺しにし、ついには魔具の使い手では名の知れた、御三家といわれる姫井、槙野、佐藤の勢力全てを返り討ちにし、その血統をほぼ絶やした。
全てが順調に、終末へ向かっていた。
だが。
御三家の一つ、佐藤家の魔具により今まで束ねていた魔力が二つの魔具の猛攻により拡散してしまったのだ。
拡散した魔力は互いに牽かれ合い、元に戻ろうとしたが、完全に一つにはまとまらなかった。
こうして、力は444の破片に砕かれた。
男は思った。
なんとしてでもとりもどさねば。
己の存在を知るものは、目的を知るものはもう居ない。
ならば。
集めよう。
力の破片を受け入れた適格者を。
この忌まわしき世界を作りかえるために。
そして男は、二度と戻れぬ外道へと堕ちた。
すべての話が終わった時、タケシは足元に転がる学園長室を示すプレートを踏み壊した。
「なんだよ、それ…………そんな勝手な理由で、俺たちやテメェが犠牲にした人たちが納得いくかよ!」
「そうよ!理由があったからって、この世界を滅ぼしていい理由になんてならないわよ!」
激昂し、今にも学園長に飛び掛りそうな二人をそっとユイの手が制する。
「学園長、お気持ちはお察しします。私もまかり違えば、同じ考えに至っていたかもしれませんから。…ですが、」
春夏秋冬と同じく、世界を根底から歪めかねない力を持つユイは目の前の男の考え方に、多少共感するものを感じていた。
だが、根本的に違う事がある。
世界を肯定するか。
世界を否定するか。
ユイは前者を選び、春夏秋冬は後者を選んだ。
きわめて近く、限りなく遠き二人の思想。
「なぜこんなやり方でしか、己を示せなかったのですか?貴方さえその気になれば、お父様達と、皆と、きっと分かり合えたはずです。もっと素敵な未来があったはずです」
「かもしれぬ」
ユイの発言を肯定する春夏秋冬。
しかし、春夏秋冬は黙って首を横に振り、
「だが、事実がどうであれ計画はここまで進んだ。後には引けん。私には、もうこの計画を実行することしか………生きる理由が無いのだよ」
座っていた椅子から音も無く、春夏秋冬が立ち上がる。
「昔話は、ここまでだ」
刹那。
春夏秋冬から、何かが放たれた。
よく見ていれば、手に持っていた『何か』を投げつけたのだとわかっただろうが、突然の春夏秋冬の攻撃に3人は判断を鈍らせた。
タケシとユイは咄嗟に左右に飛び退き事なきを得るが、一人反応が遅れたマキノは、飛来した『何か』を反射的に掴み取ってしまう。
それは。
「…私の勝ちだ」
にやりと唇を歪める春夏秋冬。
直後、マキノが掴み取った『何か』から禍々しい魔力があふれ出した。
「
「そうだ。マキノの小娘が拡散した魔王の力を呼び戻す、最後の適格者だ」
「マキノ!」
「……これで、魔王復活の準備は整った。後は貴様の
だが。
「………?」
何も起こらない。
見れば魔王の魔力も、宙を蠢いているだけで何の行動も起こさない。
最後の適格者を取り込んだにしては不自然すぎる、この状況。
「そうか」
視線を移すと、タケシとユイが学園長室から出て行く姿が見えた。
「やってくれたな、佐藤ユイ」
「まずいぜ。学園長のヤツ、追いかけてきてやがる」
「大丈夫。まだ、こちらの予想通りです。」
学園長室から脱出したタケシとユイは、背後から追いかける学園長を気にしつつ、廊下を全力で駆けていた。
階段を登り、二、三回曲がり角を曲がってタケシが後を振り返ると、曲がり角から飛び出しこちらに迫る学園長が視界に入る。
「やべぇ!もう追いついてきやがった!」
「もう目的地に到着です、慌てないで!」
タケシが自分達の教室のドアを蹴破って入り、ユイがそれに続き教室に入る。
それに少し遅れる形で春夏秋冬が教室に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
教室の中で、ユイの他に20人の生徒が彼を出迎えた。
しかし。
20人全員が、全く同じ顔をしていた。
20人全員が、全く同じ服装をしていた。
20人全員が、全く同じ体格をしていた。
全員、タケシの姿をしていた。
「なるほど」
春夏秋冬は、この異様な光景を一瞥し、即座に理解する。
「
視線をユイの持つ
「やはり、すばらしい」
その一言と同時、コピータケシがユイの前に立ち、春夏秋冬を取り囲むように陣形を組む。
「ぶっとばしてやるぜ、この野郎!」
20人のコピーが、一斉に咆哮し春夏秋冬に飛び掛る。
だが。
「分からないのか?そのような攻撃、魔王には届かない」
コピータケシの拳が春夏秋冬に届くその時、黒い魔力が春夏秋冬の身体を覆った。
コピータケシの振るう拳が春夏秋冬の身体を打つたびに、蹴りが届くたびに、掴み掛かるたびに、次々とコピーが消し飛ばされ、あるいは消滅した。
「これらのコピーが貴様の魔具、
魔王の力。
魔具を憎み、魔力を疎み、己以外の魔の存在を消滅させる否定の力。
あくまでも
気が付けば、20人居たコピータケシは全て教室から消滅していた。
「予想していたとはいえ、やはりそう簡単にはいきませんか」
全てのコピータケシが消滅したのを見届け、ユイは教室を後にする。
「逃がすものか」
ユイを追い、教室を出て行く春夏秋冬。
彼が出て行った直後、教室の掃除用具入れが開き、中から本物のタケシとマキノが顔を出す。周りを見渡し、人の気配が消えたことを確認してから二人はロッカーから出る。
「とりあえず、ここまでは順調。だけど……」
「あの子の仮説が本当ならば、私たちの勝ち。そうでなければ私たちの負け。ぐだぐだ言ってないで、さっさと作戦通りに動くわよ!」
軽く背筋を伸ばし、村正(改)を構えるマキノ。
タケシも護身具として、ロッカーからモップを取り出す。
「信じるぜ……ユイ」
ユイと春夏秋冬を追うべく、タケシとマキノは教室を後にした。
二つの影が廊下を駆け抜け、階段の上がり下がりを繰り返し、やがて一つの部屋の前で春夏秋冬の足が止まる。彼は、ユイがこの部屋に入るのを確かに確認した。
家庭科室。
「ここ、か」
家庭科室の扉を開けた直後、突如春夏秋冬の視界が白く染まった。
「……?」
不審に思いながらも、春夏秋冬が室内に足を踏み入れると。
ピシャリ。
という音とともに、何者かに家庭科室の扉が閉じられ、カギがかかる音がする。
白い煙幕に覆われた家庭科室にはユイ以外に、まったく同じ体格、武器、気配の人影が複数人立っていた。
春夏秋冬はそれらを一瞥すると、軽くため息をつく。
「今度は槙野の小娘のコピーか、芸が無い」
特に興味をそそられる訳でもなく、無感情にひとりごちる春夏秋冬。
「さあ、覚悟しなさい!」
春夏秋冬めがけ、室内の総勢17人のコピーマキノから鉄球が放たれる。が、
「無駄だ」
鉄球が春夏秋冬の身体に触れた瞬間、全てのコピー村正(改)とコピーマキノが消滅する。
おぞましき笑みを貼り付けながら、白煙を掻き分けユイに迫る春夏秋冬。
「諦めろ、佐藤の小娘。所詮貴様らは魔具の力が使えるだけの人間だ。魔具頼みの力では、私には勝てんよ」
その言葉を聴いたユイは軽くため息をつき懐に手を伸ばす。
「そうですか」
懐から取り出したのは、コンビニで100円で買えるような安物のライターだった。
「では、魔具を超える人の英知というものをお見せましょう」
ユイが手にしていたライターを点火した次の瞬間。
家庭科室を中心に、すさまじい爆発が起きた。
高温の衝撃波は室内を駆け巡り、学園のガラスをことごとく打ち砕き、春夏秋冬の身体を焼き尽くす。
煙幕として使われていた白い粉は、ただの小麦粉である。
しかし小麦粉も、時として魔具を超える危険物と化す。
粉塵爆発。
狭い空間に可燃性の粉塵が充満することにより、僅かな火の気によって瞬間で火が回り、爆発を起こす現象。タケシたちは、初めから春夏秋冬をこの罠にかけるためにわざわざ正面から喧嘩を売り、逃げる振りをして春夏秋冬をこの部屋に誘導したのである。
爆発の威力は、魔王の力を持つ者とはいえ、いまだ人の身である春夏秋冬の身体を焼き尽くすには十分すぎるものであった。
残り火が燻る家庭科室の中、ユイは倒れ付す春夏秋冬を見下ろし、口を開く。
「確かに魔王の魔力は強力です。他の魔力を食らい、魔具を完全に無力化、破壊し他の魔力から己を逃がす。だからこそ、そこに私たちの勝機はあったのです」
物言わぬ黒焦げの肉塊に、なお淡々と話し続けるユイ。
「あなたは魔具を恐れすぎた。私たちの魔具の力を気にしすぎたあなたは、魔具に対してしか気をつけていなかった。だから、あなたはそれ以外の方向からの攻撃に対しあまりにも鈍感になっていた」
ぴくりと、こんがりと焼けた指が動く。
「魔具の力が効かないのなら、あなたを倒すには魔具を使わず、自らの手で倒せばいいのです。ちょっと気付きにくい事ですが、理解すれば攻略は容易なのですよ」
がくがくと黒焦げの体が揺れ、立ち上がろうと床をもがく。ユイはその姿を、ただ冷ややかに見下ろしていた。
「これが、あなたがコケにした人間の力です。あなたが勝手に捨て、見下した力です。魔王の力を必要とするほど、私たちは落ちぶれてはいませんよ?」
直後。
「佐藤ぅぅぅぅぅぅっ!」
咆哮とともに、焼き尽くされた筈の春夏秋冬が立ち上がる。
全身を焼かれ、煙を立ち上らせ、炭化し、文字通り黒に染まった男が。
「貴様は、貴様らは、また私を見下すか!また化け物と扱うか!貴様らさえ、貴様らさえ居なければ、私もまだ人として生きていられたのだよぉぉぉぉっ!」
「うるせえよ、コンプレックスの塊」
がつん。
タケシが振るうモップが春夏秋冬の足をすくい、再び彼を地に縫い止める。
「いい加減にしろよ、テメェ。勝手に逆恨みした挙句、今度は人として生きたかった?ふざけるなよ……ふざけてんじゃねえよ!」
絶叫に近いタケシの声が、家庭科室内にこだまする。
「テメエこそ、なんの関係の無い人を犠牲にして、人生狂わせて、何脈絡も無く被害者面しているんだよ!テメエの計画の犠牲になった人たちの前で、そんなこと言えるのかよ!はっきり言ってやる!テメエは魔王なんかじゃねえ。只の人間だ!!」
「うおあぁぁぁ―――――――っ!!」
再び立ち上がり、ユイとタケシに迫る春夏秋冬。
伸ばした手が二人の喉元に届くその時。
「……もうなにも言うことは無いわ」
じゃらりと、村正(改)の鎖がゆれる。
「哀れすぎて、何も言う気になれない」
マキノは使い慣れた鉄球を振り回し、体全体を使い勢いをつけ、最大限の威力を叩き込むべく柄のスイッチを押す。
ロケットブースターが起動し、投げ放たれた威力にさらに力を足し鉄球が春夏秋冬を襲う。
「無駄だ、魔王の力は魔具を砕く!忘れたのか!」
投げ放たれた村正(改)を無視し、タケシとユイを襲う春夏秋冬。
「……一言、言い忘れてたわ」
ぐしゃり。
「…は?」
あらゆる魔具の力を無効化し、破壊する魔王の力。
その力の鎧があっけなく突破され、村正(改)が春夏秋冬の身体に深々とめり込む。
ベキボキと嫌な音を立てつつ、春夏秋冬は吹き飛ばされ、もろくなった壁を破壊し家庭科室から校庭へと叩き落された。
「(改)の名は、伊達じゃないのよ!」
そう。
村正の本質は空間移動。
鉄球は、その『本体』を守る鎧の様なもの。
本来戦闘能力を持たない村正に戦闘能力を付加するための、魔力が介入しない形状。
すなわち、外殻たる鉄球の部位は魔具『そのものではない』のである。
魔王は、魔具の力でなければ無効化できない。
故に、魔王に対し最大限の威力をだせる魔具。
それが、村正(改)である。
「さーて、そろそろ止めと行くわよ!」
興奮覚めやまぬ面持ちで階下へと向かうマキノ達。
「ええ。しかし、魔王の力はまだ消えてはいません。……これからが本番ですよ、マキノさん」
「OK、でも関係ないわ」
じゃらり、と手の中の鎖が擦れ、音を立てる。
「相手が誰であろうと、私『達』の邪魔をするのであれば叩き潰すのみ!」
byキング