――意識はもうだいぶ前から戻っていた。ただ完全にではなく、周囲の状況がぼんやりとわかる程度だ
――だけど、その中で響いた言葉……
――その言葉が自分にとってどれだけの救いになるか。どれだけの喜びになろうか!
――僕はその声に……その想いに応えたい。だから……
「僕は行かなくちゃいけない……みんなのところに」
第三十三話 友としてできる事
目を覚ました場所は保健室のベットの上。普段は誰かをここに連れてくることはあってもまさか自分がここに運び込まれて寝る事になるとは……
そして、自分の隣でもう一人。静かに横たわっている……その人
「姉さん……」
この世でたった一人の姉弟……その優しい寝顔を見て安らぎを覚える。だが、その安らぎに浸り続ける事は出来ない。今やるべきは……僕が僕自身であるために成すべき事を成す。
「姫井家のトウヤとしてじゃない……彼らの友達として、僕に出来る事を……」
ベットから降り、まだ覚束ない足を動かしながら歩き出す。そういえばアレはどこにあるだろうか?
まずはそれを探すのが先……
「どこへ行くんだい?トウヤ君」
「そんなの決まってますよ……委員長。僕が彼らに出来る事を……出来うる限りのことを」
「一応君を治した者としては安静にすることを勧めたいんだけどね」
トウヤの前にシュウヤが立ちはだかる。だが、そんなことでこの歩みを止めるつもりはない。たとえ止められようとも止まるつもりは全くない。
「どいてください。こう見えても結構急いでいるので……僕のも探さなくちゃいけませんし」
「……?もしかしてこいつのことか?」
そう言ってシュウヤは柄だけになった刀――を取り出した。これはもうけものだ。正直廃棄されていないか不安であったが、これで探す手間も省けた。
「こんな壊れた魔具で一体何をするつもりなんだ?どう見ても力を完全に失ってるぞ」
「そんなことありません……それはまだ完全には壊れてなんかいない。だからこれからこれを直すんです……僕の手で」
そして、シュウヤの手からを取りその場でに意識を集中させ始める。その顔には自嘲的な笑みを浮かべている。
「これで姫井家の力も役目も終わりだなぁ……さてさて、こんなことして帰ったら父上にどれだけ殴られるだろうなぁ……ははっ」
「トウヤ……いったい何をしようとしているんだ……?」
「はぁはぁはぁ……っ!」
「どうしたタケシ?さっきまでの威勢はどこへ行った?」
春夏秋冬は悠然と立ちタケシ達を見下ろす。一時は優勢だったタケシ達だったが血の十字架 による再生力によって逆転を許してしまう。そうなる前に押し切る予定だったがここにきて決定力不足が露見し、押し切ることができなかった。
「くっくっく……どうやらここまでか。所詮何も知らない子供……絶望の味も知らん者などこの程度ということだ」
「まだだ……まだ、まだ負けてねぇぞ……!」
「ふん。口先だけで何ができる……これで終わりだ……!」
「やらせないよ!」
春夏秋冬が振り下ろされた一撃はタケシ達に届かず、その間に割って入ったものが受け止めている。その後姿は彼らがよく知っている人物――トウヤの姿がそこにはあった。
「遅くなってごめんね。ついうっかり寝すぎちゃったみたいだ」
半身でこちらを見ていたトウヤが春夏秋冬とまっすぐ向き合う。春夏秋冬は受け止められた腕を大きく横に払いながら後ろに大きく飛び退いて間合いを取る。
「……タケシ君。この後ちょっと頑張ってもらわなくちゃいけないからそこで少し休んでて。休む時間は僕が作るから。後ろの二人も僕に手を貸さなくていいから」
「おっおい、トウヤ……」
いきなり出てきたかと思えばどんどん話を進めようとする。まぁ、正直もうふらふら立ったからとてもありがたい申し出だけど……
何か言おうと思った。正直トウヤを止めてみんなで力を合わせたほうが言いと思った。でも、止める事が出来なかった。
「そういうことで、ここからは僕がお相手を勤めますよ学園長?」
「姫井……そっちから来るとは思わなかったよ。お前をなぶり殺しに行く手間が省けたというものだ!」
狂った歓喜の声を上げる春夏秋冬がまっすぐトウヤめがけて突っ込んで行きトウヤに怒涛の連続攻撃を繰り出す。やっている事はとても単純でありながら――いや、単純だからこそ解るむき出しの敵意と殺意。それだけですでに卒倒しそうになるのに、あの地面すら軽がるとえぐるような攻撃の嵐を紙一重で掻い潜りながら要所要所で確実に拳を叩き込むトウヤ。一発でも直撃を喰らえばただではすまないあの暴力の塊を何度も何度も紙一重で避けてはカウンターを叩き込む。そんな凄まじい戦いを繰り広げているトウヤに対して違和感を感じた。そしてその正体は直ぐにわかった。
「なんでトウヤは魔具を使わないの?」
俺が抱いた違和感をマキノが代弁した。そうだ、今の状態ですらあの春夏秋冬に渡り合っているトウヤだ。魔具を振るえば押し返すコトだって出来るんじゃないのか?
確かに血の十字架 には魔具に対して絶大な能力を誇るが、まったく効かないというわけじゃない。魔具しだいでは血の十字架 の影響をほとんど受けずに力を発揮できる魔具だってあるはずだ。それなのに……
「どういうつもりかな姫井?先ほどから魔具の一つも使わないとは……私へのあてつけのつもりかぁ!?」
「さぁて……どうしてだと思いますか?」
俺たちが気付いたように当然トウヤと対峙している春夏秋冬も同じ事に気付いている。そしてそれを挑発と受け取った春夏秋冬は感情のままに拳を振る下ろす。トウヤはやはり紙一重で避けるが振り下ろされた拳はそのまま地面にまで届き、大地が見るも無残に深く抉れてしまう。
「本当に恐ろしい……本当にその血の十字架 は恐ろしい……そしてそれを躊躇なく振るえる春夏秋冬 も恐ろしいと感じます。だからこそ、今ここで全てを断ち切るべきなのでしょう」
「何が恐ろしいだ!そうしてまた私を……やれるならやってみるがいい!罪深き姫井家がぁ!!」
「いや断ち切るのは僕じゃなくてタケシ君さ。それに……」
そこで言葉を切ると春夏秋冬との間合いを開け、懐から何か取り出し始める。それを見るや否や春夏秋冬は間合いをさらに開いた。ついにトウヤが魔具を取り出したのだろう……だが、その後に続く言葉がその場に居る全員を硬直させる。
「僕にそんな力は……もうない。僕はもう魔具を使う事が出来ないんだ」
トウヤの言っている事の意味がまるで理解できない。魔具を使う事が出来ない ?一体何を言い出すんだ?
その場に居合わせた全員が呆然としていると、トウヤがタケシの方を向き何かを投げて寄こした。反射的に受け取ったソレは……
「なっ何で血の十字架 が?だって春夏秋冬が持ってるじゃないか!?」
自分の掌にあるそれは間違いようが無い血の十字架 だ。一体なぜ!?
疑問を投げかけるようにトウヤを見ると、そこにははにかむ様な笑みを浮かべたトウヤが居た。
「トウヤ……いったい何をしようとしているんだ……?」
「修理……とはちょっと意味が違うかな?どっちかというと補給ですね。このは僕ら姫井家の血と魔力によって形成されています。それによって生み出された力で他の魔具の力を相殺しているんです。今はその相殺に必要な魔力が完全になくなっているんです。だからこうやって僕の魔力を注ぎこむんです……」
それが、この魔具の正体。姫井家が魔王を斬るために生み出した魔具。だが、魔王を倒すために生み出された伝説の剣に支払う代償は魔力では済まない……
「こいつが欲しているのは魔力だけじゃない……魔力と一緒に魔具を扱う資質も吸収し、力に変える。だからこいつが持つ力は血の十字架 に匹敵するんです。とはいえ、本来は僕のように魔力と資質が全盛期の者は本来力を注ぎこむことは許されないんです。晩年……死の間際のわずかに残った魔力と資質を注ぎ込む。伝説の剣とは名ばかりのせこい積立貯金なんですよ」
そうやって少しずつ蓄えた力で魔王を斬る。それが姫井家の生み出した魔具……魔王を斬るために生み出された伝説の剣にして妖刀。
「ちょっと待て、トウヤ!なら今やろうとしていることは……!」
「御明察の通りです。皮肉なことに僕の魔力の量と資質は歴代の誰よりも高いものを持っているそうです。その全盛期の力をすべて注ぎ込めば……が復活する……いや、もしかしたらそれ以上の力になってくれるかも知れません」
「だが、そんなことをしたら!」
「これで良いんです。これが僕のできること……だから」
「これで僕に出来る事は全て尽くした。後は春夏秋冬を止めるだけ……行こうマキノさん、ユイさん……タケシ君」
「ふん!私ははなっからそのつもりよ!」
「私たちはその為に今ここに居るのですから」
「あぁ……あの大馬鹿野郎を思いっきりぶん殴って寝ぼけた頭を覚まさせてやるさ!!」
四人が肩を並べて春夏秋冬と対峙する。それを憤怒の炎を燃え滾らせた春夏秋冬がにらみつける。
「ふざけおって……覚悟しろ!!このクソ餓鬼共がぁ!!」
そして、自分の隣でもう一人。静かに横たわっている……その人
「姉さん……」
この世でたった一人の姉弟……その優しい寝顔を見て安らぎを覚える。だが、その安らぎに浸り続ける事は出来ない。今やるべきは……僕が僕自身であるために成すべき事を成す。
「姫井家のトウヤとしてじゃない……彼らの友達として、僕に出来る事を……」
ベットから降り、まだ覚束ない足を動かしながら歩き出す。そういえばアレはどこにあるだろうか?
まずはそれを探すのが先……
「どこへ行くんだい?トウヤ君」
「そんなの決まってますよ……委員長。僕が彼らに出来る事を……出来うる限りのことを」
「一応君を治した者としては安静にすることを勧めたいんだけどね」
トウヤの前にシュウヤが立ちはだかる。だが、そんなことでこの歩みを止めるつもりはない。たとえ止められようとも止まるつもりは全くない。
「どいてください。こう見えても結構急いでいるので……僕のも探さなくちゃいけませんし」
「……?もしかしてこいつのことか?」
そう言ってシュウヤは柄だけになった刀――を取り出した。これはもうけものだ。正直廃棄されていないか不安であったが、これで探す手間も省けた。
「こんな壊れた魔具で一体何をするつもりなんだ?どう見ても力を完全に失ってるぞ」
「そんなことありません……それはまだ完全には壊れてなんかいない。だからこれからこれを直すんです……僕の手で」
そして、シュウヤの手からを取りその場でに意識を集中させ始める。その顔には自嘲的な笑みを浮かべている。
「これで姫井家の力も役目も終わりだなぁ……さてさて、こんなことして帰ったら父上にどれだけ殴られるだろうなぁ……ははっ」
「トウヤ……いったい何をしようとしているんだ……?」
「はぁはぁはぁ……っ!」
「どうしたタケシ?さっきまでの威勢はどこへ行った?」
春夏秋冬は悠然と立ちタケシ達を見下ろす。一時は優勢だったタケシ達だったが
「くっくっく……どうやらここまでか。所詮何も知らない子供……絶望の味も知らん者などこの程度ということだ」
「まだだ……まだ、まだ負けてねぇぞ……!」
「ふん。口先だけで何ができる……これで終わりだ……!」
「やらせないよ!」
春夏秋冬が振り下ろされた一撃はタケシ達に届かず、その間に割って入ったものが受け止めている。その後姿は彼らがよく知っている人物――トウヤの姿がそこにはあった。
「遅くなってごめんね。ついうっかり寝すぎちゃったみたいだ」
半身でこちらを見ていたトウヤが春夏秋冬とまっすぐ向き合う。春夏秋冬は受け止められた腕を大きく横に払いながら後ろに大きく飛び退いて間合いを取る。
「……タケシ君。この後ちょっと頑張ってもらわなくちゃいけないからそこで少し休んでて。休む時間は僕が作るから。後ろの二人も僕に手を貸さなくていいから」
「おっおい、トウヤ……」
いきなり出てきたかと思えばどんどん話を進めようとする。まぁ、正直もうふらふら立ったからとてもありがたい申し出だけど……
何か言おうと思った。正直トウヤを止めてみんなで力を合わせたほうが言いと思った。でも、止める事が出来なかった。
「そういうことで、ここからは僕がお相手を勤めますよ学園長?」
「姫井……そっちから来るとは思わなかったよ。お前をなぶり殺しに行く手間が省けたというものだ!」
狂った歓喜の声を上げる春夏秋冬がまっすぐトウヤめがけて突っ込んで行きトウヤに怒涛の連続攻撃を繰り出す。やっている事はとても単純でありながら――いや、単純だからこそ解るむき出しの敵意と殺意。それだけですでに卒倒しそうになるのに、あの地面すら軽がるとえぐるような攻撃の嵐を紙一重で掻い潜りながら要所要所で確実に拳を叩き込むトウヤ。一発でも直撃を喰らえばただではすまないあの暴力の塊を何度も何度も紙一重で避けてはカウンターを叩き込む。そんな凄まじい戦いを繰り広げているトウヤに対して違和感を感じた。そしてその正体は直ぐにわかった。
「なんでトウヤは魔具を使わないの?」
俺が抱いた違和感をマキノが代弁した。そうだ、今の状態ですらあの春夏秋冬に渡り合っているトウヤだ。魔具を振るえば押し返すコトだって出来るんじゃないのか?
確かに
「どういうつもりかな姫井?先ほどから魔具の一つも使わないとは……私へのあてつけのつもりかぁ!?」
「さぁて……どうしてだと思いますか?」
俺たちが気付いたように当然トウヤと対峙している春夏秋冬も同じ事に気付いている。そしてそれを挑発と受け取った春夏秋冬は感情のままに拳を振る下ろす。トウヤはやはり紙一重で避けるが振り下ろされた拳はそのまま地面にまで届き、大地が見るも無残に深く抉れてしまう。
「本当に恐ろしい……本当にその
「何が恐ろしいだ!そうしてまた私を……やれるならやってみるがいい!罪深き姫井家がぁ!!」
「いや断ち切るのは僕じゃなくてタケシ君さ。それに……」
そこで言葉を切ると春夏秋冬との間合いを開け、懐から何か取り出し始める。それを見るや否や春夏秋冬は間合いをさらに開いた。ついにトウヤが魔具を取り出したのだろう……だが、その後に続く言葉がその場に居る全員を硬直させる。
「僕にそんな力は……もうない。僕はもう魔具を使う事が出来ないんだ」
トウヤの言っている事の意味がまるで理解できない。
その場に居合わせた全員が呆然としていると、トウヤがタケシの方を向き何かを投げて寄こした。反射的に受け取ったソレは……
「なっ何で
自分の掌にあるそれは間違いようが無い
疑問を投げかけるようにトウヤを見ると、そこにははにかむ様な笑みを浮かべたトウヤが居た。
「トウヤ……いったい何をしようとしているんだ……?」
「修理……とはちょっと意味が違うかな?どっちかというと補給ですね。このは僕ら姫井家の血と魔力によって形成されています。それによって生み出された力で他の魔具の力を相殺しているんです。今はその相殺に必要な魔力が完全になくなっているんです。だからこうやって僕の魔力を注ぎこむんです……」
それが、この魔具の正体。姫井家が魔王を斬るために生み出した魔具。だが、魔王を倒すために生み出された伝説の剣に支払う代償は魔力では済まない……
「こいつが欲しているのは魔力だけじゃない……魔力と一緒に魔具を扱う資質も吸収し、力に変える。だからこいつが持つ力は
そうやって少しずつ蓄えた力で魔王を斬る。それが姫井家の生み出した魔具……魔王を斬るために生み出された伝説の剣にして妖刀。
「ちょっと待て、トウヤ!なら今やろうとしていることは……!」
「御明察の通りです。皮肉なことに僕の魔力の量と資質は歴代の誰よりも高いものを持っているそうです。その全盛期の力をすべて注ぎ込めば……が復活する……いや、もしかしたらそれ以上の力になってくれるかも知れません」
「だが、そんなことをしたら!」
「これで良いんです。これが僕のできること……だから」
「これで僕に出来る事は全て尽くした。後は春夏秋冬を止めるだけ……行こうマキノさん、ユイさん……タケシ君」
「ふん!私ははなっからそのつもりよ!」
「私たちはその為に今ここに居るのですから」
「あぁ……あの大馬鹿野郎を思いっきりぶん殴って寝ぼけた頭を覚まさせてやるさ!!」
四人が肩を並べて春夏秋冬と対峙する。それを憤怒の炎を燃え滾らせた春夏秋冬がにらみつける。
「ふざけおって……覚悟しろ!!このクソ餓鬼共がぁ!!」
あとがき
………………………………えっと……その……はい。大変申し訳ありませんでした。
いろいろとふかぁーーーーーーーーーっく謝罪します。
大地にめり込むくらいしっかり土下座をさせていただきます。
まっことにごめんなさーーーーーい!!
………………………………えっと……その……はい。大変申し訳ありませんでした。
いろいろとふかぁーーーーーーーーーっく謝罪します。
大地にめり込むくらいしっかり土下座をさせていただきます。
まっことにごめんなさーーーーーい!!
byハガル・ニイド