春夏秋冬 神との戦い後、ラグド商会の(金銭的な)力によって一夜城ならぬ一夜校舎として学園は完全なものとして復活した。
「それでは私はこの辺で…」
「リーさんよぉ。あんたこれからどうするんだ」
タケシの言葉にリーは変わらず飄々と答える。
「さて、どうしましょうかねぇ?魔具はまだまだ存在していますから、これからも魔具の回収を続けながら何か新しく商売でも始めてみましょうかね」
そういいながら手を振り、リーは校舎が完全に元に戻ることを見届けて河原とともに去っていった。

そうして彼らの戦いは終わり日常に戻っていく。
第三十六話 日常
「タ〜ケ〜シ〜待ちなさーいっ!!」
少女は一人の少年を追う。少年は追いつかれまいと自身が持てる最大速度で逃げる。
「待てと言うならその手に持つ物騒なモノをしまえってのマキノ!」
タケシは逃げる、村正(改)に変わるマキノの新たな得物である巨大ハリセン『風林火山』の魔の手から……
そして、これが最近のYS学園の名物となっている『"風紀委員長(マキノ)"と"生徒会長(タケシ)"の夫婦漫才(おにごっこ)』である。

―時間は少し戻り
戦いから数日後、上級生は進学や就職、俗に言う『進路』を決めるため、委員会や部活動の前線から退き、受験勉強やら就職のための面接練習にいそしむこととなる。

そして退く3年の最後の委員会での仕事が『次期委員長を指名すること』である。
シュウヤは次の委員長としてマキノを指名しマキノもそれを快諾。
マキノは風紀委員の委員長となった。

そして何故タケシが生徒会長なのか。と言う点であるがこれは上のマキノとシュウヤのやり取りを読んでいただければ判るように『現生徒会長』である珠姫ネネによって「次期生徒会長」としてタケシが指名されたからである。

―閑話休題

息も絶え絶えにタケシは走る。
角を曲がり階段の上り降りを繰り返し必死に逃げ回り『生徒会室』と言う札が掛かっている部屋に飛び込んだ。
「はぁ…はぁ…助かったぁ…」
よろよろと部屋に入り込むタケシ。
「遅かったですね?タケシ君」
部屋の中にすでに来て本を読んでいたユイが声を掛ける。
「委員会でイライラしたから叩かせろってマキノ言うもんだから逃げてきた。」
「それは大変でしたね。でも…」
「タケシっ!覚悟っ!」

スパァァァァン!

気持ちがいいくらいのハリセンの音が響き渡る。

「後ろにマキノさんがいますよ。って遅かったですか…」
「いてぇぇぇぇ!マキノなにすんだよっ!」
叩かれた頭を押さえながらマキノに抗議するタケシ。しかしマキノはそんなタケシを無視し机に風林火山と書かれたハリセンを置きイスにすわる。
「ユイ。走り回ったらのど渇いたから、お茶入れてお茶。」
「はい。すぐ用意しますね。」
「俺を無視するなーっ!会計と書記っ!!」
タケシの発言から判るとおり生徒会の書記にはユイが、会計には風紀委員長と兼任でマキノが就任した。
「たくよ。俺の扱いぞんざい過ぎじゃねぇか……」
「「タケシ(君)だから(ですから)」」
「あまりのぞんざいな扱いに全米が泣いた・・・・・・」
完全にorzの形で崩れるタケシ。されどタケシ立ち直りも早い。
「で、今日のお仕事といきたいわけだがトウヤは?」
「さぁ?どこかで油売っているんじゃない?」
「姫井君ですからそれはないとおもいますが・・・・・・」
「そうだ。ここは元・会長さんに教えてもらった方法で・・・」
そういってタケシは携帯を取り出しおもむろに電話を掛ける。
「もしもーし。今から2分後に生徒会室まで、それじゃ」
タケシは一方的に言葉を述べ電話を切る電話越しに何か言っている声が聞こえたが気にする様子もなく。
「これでよしっと」
「?」
「なにがいいのよ?」
タケシの言葉に疑問符を頭に浮かべる二人。
「まぁ結果は2分後にわかるって」




「そろそろ2分だな・・・」
タケシは自身の携帯電話を眺める。
そんな呟きとともに外からこちらに近づく足音が聞こえる。足音からしてその音の主は走っているであろうことがわかる。
その音は生徒会室へ近づき、そして・・・
ガラガラ・・・・・・
部屋の扉が開く、そこにいたのは肩で息をするトウヤの姿だった。
「おぉ・・・本当に2分で来た」
「はぁ・・・はぁ・・・タケシ君。この呼び出し方、間違いなく姉さんに聞いただろ・・・」
「まぁな〜。さて優秀な副会長も来て全員集まったことだし仕事でも始めますか。」

なぜ生徒会のメンバーがあの戦いのメンバーで構成されているのか。
それはタケシがネネに会長として指名された日に遡る。

―その日の生徒会室
「会長さん。何考えてんすか…。俺なんかを生徒会長に指名するなんて」
「あら?駄目だったかしら。タケシ君ならきっと面白い学園にできると思うんだけど。」
「いや別に俺じゃなくても……。むしろトウヤのほうが適任でしょう。」
そのタケシの問いに答えるのはネネではなく別の声。
「駄目駄目あいつは。根っからの『副長』気質だから。そういう意味ではタケシの方が適任だ。あいつの上にいた俺たちが言うんだから間違いない。」
そう断言しながら部屋に入ってくるシュウヤ。
「シュウヤの兄貴。でも俺なんかじゃ……」
ネネは息を吐きタケシの言葉をさえぎる。
「タケシ君、あなたを会長に指名したのは他にも理由があるのよ。」
「理由っすか?」
「えぇ。この学園にいる大半の生徒は春夏秋冬が何をしようとしていたのかなんて知らないでしょ?それにまだ生徒が所有している魔具も少なからずある状態。マキノちゃんやリンちゃんのレヴァやシュウヤの癒しの指輪(ヒーリング)、鏡守さんに渡してある偽物の鏡(フェイクミラー)とかユイちゃんの新世界の門(ヘブンズゲート)みたいに悪用されないことがわかっている魔具はいいけど、またほかの誰かが魔具を悪用したら……」
「春夏秋冬以上ではないが被害者がでる……」
その言葉にネネは頷きシュウヤが話を始める。
「本来なら俺達でできる限り対応するつもりだったが余り対応しきれていないのが現状だ。だから今回の件の後始末を継続して行ってもらうためにタケシ。お前を指名したって訳だ。」
その言葉にタケシは真剣な表情で顎に手を当てる。
「わかりました。会長。後始末は引き継ぎますよ。」
タケシの言葉にネネは笑みを浮かべる。
「そう言ってくれると思ってたわ♪他のメンバーについても粗方決まってるからよろしくね♪」
その言葉にタケシはほかのメンバーについて考えて苦笑いを浮かべた。

―閑話休題

とどのつまり現生徒会のメンバーは昨日の戦いの後始末をするために集まった面々である。

「今日の仕事も終わりだー。しっかし、なかなか進まないな、魔具回収。」
「しょうがないよ。今まで見たいに血の十字架(クロスブラッド)で反応を探してとか出来ないわけだから。」
「つまらないわね。まったく。」
「まぁあのような戦いのあとではマキノさんの言葉もしょうがないと思いますけど……」
「でもさ……」
言葉を発したタケシをほかの面々が視線を向ける。

「こんな日常を取り戻したくて俺たちは戦っていたんだよな……」

そんなことをしみじみ呟くタケシに皆は頷いたり笑みを浮かべたりする。
「今日はこれで解散ってことでいいか?」
その言葉に皆、同意を示し生徒会室を後にしていく。
そんな中ユイがタケシに声を掛けた。

「タケシ君…」
「どうした?ユイ。」
「タケシ君に念のため伝えておきたいことがあります。」




「ユイから聞いた話だとこの辺なんだがな……」

ユイから帰り際に聞いた話それは、

―学園の近くに浮浪者がいて通学路を通りたくないと言う声が上がっていること
―その浮浪者が学園長であった春夏秋冬に似ているという噂になっていること。

タケシ自身その浮浪者に対しては興味がない。
ただ、この浮浪者が春夏秋冬であるなら、タケシの中で話は変わってくるのだ。自身の今回の一連の件にたいしてのけじめをつけるためには彼に会う必要がタケシの中ある。



「見つけた……」

ユイから聞いた場所の近くに生徒達の噂となっている浮浪者はいた。
髪はボサボサ、頬と顎は無精ひげが生え、頬は若干痩せこけ、目は虚ろで覇気もない浮浪者が地面にすわり空を見ている。
されどあの身なり顔つきは間違いがなく春夏秋冬 神であった。

「よぉ久しぶりだな。魔王さんよう……。いや、元・魔王と呼んだほうがいいか?」
タケシがそう声を掛けると、春夏秋冬は虚ろな目をタケシに向ける。
「ふっ…貴様か…私を笑いに来たか。貴様達に野望を阻止され、血の十字架(クロスブラッド)を失い落ちぶれている私を……」
「別に……。アンタを笑いにきたわけじゃねぇさ。生徒会長として生徒の通学路に浮浪者がいるのはどうかと思って調べに来ただけだ。まぁ噂でアンタだって聞いたけどよ。」
「クックック…なんだ私を殺しにでも来たのかと思ったが……」
覇気はないが低い声で笑う春夏秋冬の声が響く。
「どうでもいい。」
「…なに?」
血の十字架(クロスブラッド)も使えない。ただの『ヒト』になったあんたは脅威でもなんでもない。それに俺は俺の日常が壊されなければどうでもいい。」
「お前が・・・そこまでして、守りたかった『日常』とは何だ。」
「マキノとする鬼ごっこ。モノが壊れてブツブツ文句いいながら修理しているトウヤとする普通の話。俺のくだらないボケに冷静に突っ込みを入れてくるユイとのやり取り。挙げていたらきりがない。」
「そんな…。そんな…くだらない理由しかもたない奴に俺は負けたのか。」
鼻で笑いながらタケシから視線をそらす。
「いや、この日常が俺の中で何よりも大事なもんだって気づかせてくれたのはあんたのおかげだ。」
「……私の?」
怪訝そうな顔をしながらタケシに外した視線を戻す。
「あんたが世界を滅ぼそうなんてするから気づけたのさ。好きな奴(マキノ)がいて唯一無二の友達(トウヤとユイ)がいて先輩達がいて普通でくだらなくて最高にたいくつな日常が俺にとって一番大事な物だって。だからそれに気づかせてくれたあんたに言いたいことがあってきた。」
「罵りか?憐れみか?私は敗者だ。甘んじて受けようその言葉を」

タケシの言葉を春夏秋冬は待つ。悪役らしく悪役であるためタケシの目を見据え待つ。

されど、タケシの口から出たのは意外な言葉であった。

「ありがとう。春夏秋冬 神。」
タケシから出たのは感謝の言葉。春夏秋冬は肩透かしなタケシからの感謝の言葉に目を点にする。
「『ありがとう』?敵である私に感謝の言葉を述べると……」
「あぁ。俺の中にあった大事なモノは何か気づかせてくれたきっかけをくれたから。だから『ありがとう』だ。」
感謝の言葉を述べた理由に春夏秋冬は脱力する。そして春夏秋冬の目に映るのは視線をそらさず、見下すわけでもなく、ただまっすぐ見据えているタケシの姿だった。
「……一つ聞かせてくれ。タケシ……君を強くしたのは一体なんだ?」
「さぁね。いえるのは今回の出来事が俺を一回りも二回りも成長させてくれたってところじゃねぇか?」
「……そうか」
「さてと…。そろそろ帰るか。春夏秋冬、悪いがあまりここをうろつかないでくれ一般生徒が怖がっているからよ。浮浪者やるのもいいがせっかく拾った命だ。だったら俺の『親父(クソジジイ)』の分まで『未来(あした)』を生きてくれ。それじゃあな。」
そう言ってタケシはその場をあとにした。


その場に一人残された春夏秋冬は空を見ながら呟いた。
「友がいて。恋人がいる。当たり前の日常か……」
そう呟いたとき春夏秋冬は自分の中にあった感情に気づきはっとする。
「くっくっくっ……あーはっはっ!そうか、そんなことだったのか。今更気づくとは笑いが止まらない。」
春夏秋冬は気づいてしまったのだ。タケシとのやり取りで、自分が昔から望み憧れ、他人が持っていることを嫉み憎んだモノがなんなのかを。
「友の仇と自分を受け入れない世界に復讐をする。笑わせる。違うではないかっ!ただ俺は望みが叶わないからと駄々をこねる餓鬼のように八つ当たりをしただけではないかっ!」

そう春夏秋冬は気づいてしまった。今まで決して気づこうとしなかった己の奥底にあった感情に。
春夏秋冬はただ憧れていたのだ。友と笑い会う日常を。恋人と共にある日常を。結婚し妻を娶り子が生まれ父となることを。普通のヒトが持っているであろうモノに憧れ、化け物と罵られ怪物と蔑まれ、その当たり前なことが手に入らないことを嫉んで恨んでいた自分に。

「あぁ…。なんだ。実にくだらない理由ではないか。私は…俺は…そんなことを望んでいたのか。」
ひとしきり笑った春夏秋冬の表情は何かつき物が取れたような表情をしていた。
「もう私に力はない。使うことも出来ん。これではただの『ヒト』だな…。ならば、今度は『ヒト』して生きてみようと思う。なぁいいだろ?友よ…」

春夏秋冬の目に映った空は泣きたくなるぐらいの快晴だった。



春夏秋冬との話しも終わり、タケシ自身も帰路につこうとしていたとき、携帯電話のバイブレーションが着信を告げる。
携帯電話の画面に表記された人物の名は『マキノ』
タケシは相手がマキノだとわかると通話ボタンを押し電話に出た。
「もしもしマキノ?なんか用か?……今何処って学園の近くだけど…はぁ?校舎裏まで来い?一体なんだよ。…あっ!おいっ!ちょ、待てよっ!…切れたし。」
はぁ…とため息を吐き、肩を落とす。
「しゃーない。すっぽかすとまた後でなんかあるし、戻るとしますか……」
そしてタケシは一人来た道を引き返し学園へ戻っていった。



―時は夕暮れ
日が沈みオレンジ色の光に町が包まれ始めた頃。
タケシとマキノは空の上にいた。

「うぉぉぉぉっ!たっけぇぇぇっ!」
あまりの高さに声を上げるタケシ。されどその声に恐怖の色はなく純粋に今の状況を楽しんでいるようだ。
「レヴァに感謝しなさいよ?レヴァがいなきゃこんなの体験出来ないんだから。」
タケシの声に呆れたような、でも、どこか嬉しそうな声をマキノは掛けた。
「しっかし、あのチビ竜がここまで大きくなって俺とマキノを乗せて飛ぶとはねぇ…」

タケシとマキノはレヴァ(大)の背に乗り夕日が照らす町を空から眺めていた。
マキノが先ほど電話でタケシを呼び出したのはレヴァを自由に飛ばせたいからそのついでに乗ってみないかと誘うためである。
「今まで窮屈な思いさせちゃってたからね。目一杯、羽伸ばしさせてあげないと。」
そう言ってレヴァの愛でるように背を撫でるマキノ。撫でられたことにレヴァは嬉しそうに一鳴きした。

そんなマキノをタケシは微笑みながら眺めていた。しばらくマキノはレヴァを撫でていたがタケシの視線気づく。
「なによ。」
「いや、マキノもそんな綺麗な表情ができるんだなぁ…って思ってよ。」
「うっさい。このバカっ!」
「あたっ!」
マキノに肩を軽くはたかれるタケシ。タケシからフンっと顔を背けるマキノ。その顔に若干紅くなっているのは夕日のせいではないだろう。
タケシはマキノが自分を叩いたのが照れ隠しである事を気づいている。
そもそも最近ではあるがタケシは気づいたのだ。
マキノが戦い以外で誰かを叩くのは身内以外で自分しかいないことに。
未来から一人、過去へ飛び、一時的に記憶をなくし、心細さを暴力で隠しながら必死に前へ前へと進むことをやめなかった少女が兄と呼ぶシュウヤ以外で心を開いて接することが出来たのはタケシだけであったのだろう。故に照れ隠しだったり渇を入れたりするために叩かれる。まぁタケシとしてはその都度、三途の川に送られかけるのはたまったものではないが…。
故にタケシは気づく、そんな必死に前を見据え進んでいくマキノにどうしようもなく惚れたのだと、それと同時に思う自分はマキノの隣にいるのにふさわしいのか。そんなことマキノは気にしないだろうがどうしても考えてしまうのだ。マキノだけではなくトウヤやユイ、皆が前に進んでいくのに自分だけがそこに立ち止まろうとしているのではなかと。
「タケシ。どうしたのよ。真剣な表情して。」
いつの間にかタケシは思考の海に沈んでいたようだ。適当に笑顔作りなんでもないと告げる。
その答えにマキノは納得がいかなかったのかタケシの顔を両手でつかみ自分の方へ向ける。
「なんでもないって顔じゃないでしょうが。なんか思うことがあるなら話なさいよ。」
「・・・・・・弱音しか出てこねぇけどいいか?」
「いいわよ。私が聞きたいんだから。」
そう言ってタケシの顔から手を離し、いつもと違いやさしい表情で微笑みかけるマキノ。そんなマキノを見てタケシは思っていたことを口にする。
「時々、どうしようもなく俺が情けなくなるときがあるんだ。トウヤが、ユイが、マキノが、会長さんが、シュウヤの兄貴が、皆それぞれがそれぞれに前に進んでいるのに俺だけ『このままで居たい』って思っているみたいで…。そんな俺がマキノの傍に居ていいのかって不安になる。トウヤやユイのダチで居ていいのかって居た堪れなくなる。あの戦いで成長できたとは思うけど…駄目なんだよ。自信をもってこれが正しいって言える勇気がでないんだ。」
一通り弱音を吐き出しタケシは俯く。そんなタケシにマキノは言葉をつげる。
「なら教えてあげる。私が前を向いていられる理由。それはタケシが変わらずそこにいてくれるから私は前を向いていられる。もし何かあって後ろを見たらあんたが同じ場所で変わらずに待っていてくれる。未来から来て何もなかった私の帰る場所にアンタはなっていたのよ?ほかのみんなは知らないけど私はタケシ、アンタがいてくれないと私は困る。あんたが居なきゃ何処に戻ればいいかわからないよ。私が戻るのはあんたの(よこ)だから。正しいって言える勇気がないならタケシの代わりに言って背中を押してあげる。それでも自信がないって言うなら私がアンタにあげるわ。あんたに自信を……」
そう言って俯いていたタケシの顔を上げる。タケシの顔にマキノは自信の顔を近づけた。
「……ん」
「!?」
タケシは今、自身に何が起きているか理解が出来ているかわからなかった。ただ脳が認識しているのは唇に触れている柔らかな感触と触れている部分から伝わってくるマキノのほのかな熱だけだった。

10秒……1分……1時間……
永遠とも思える時間にタケシは感じた。
そっと唇から触れていた感触がなくなると目の前に現れたのは紅く頬染めたマキノの顔で
「こんなサービス滅多にないんだからねっ!ここまでして自信がないなとか傍にいちゃいけないなんて言わせないんだからっ!」
タケシは首を何度も縦に振った。鏡を見なくても紅くなっていることわかるぐらい顔は熱をもっている。
「タケシ、あんた気づいてる?あんたが皆を繋げたってこと」
「俺が…?」
「私はアンタと知り合って、今回のことを一緒に行動していたから、ユイと仲良くなれた、トウヤともなれた。二人だけじゃない今回の件で知り合えた『ヒト』全員と出会うきっかけは、タケシ、あんたと出会ったからなんだって……私はそう思ってる。」
そう言ってマキノはタケシの手を握った。そのまま顔をそらしている。よほど恥ずかしかったのだろう視線も何処となく落ち着いていない。

そんなマキノを見てタケシはクスリと笑う。
普段は強気でがさつと言うよりも凶暴という言葉が似合う少女が目の前で女性らしく愛らしい。
タケシは目の前にいる彼女がどうしようもなく愛しくてしょうがない。繋がっている手を引きマキノを自分の胸に引き寄せた。
「な……な、なに……」
「殴るなよ。マキノ…」
マキノが取るであろう行動に対し先に牽制するタケシ。
「ありがとな…。マキノ、お前のおかげで勇気出たよ。大丈夫、俺、これからもこの一連の騒動が終わるように頑張っていくから…」
「バカ。私だって一緒よ。私はアンタの・・・か、彼女なんだからっ!」
気づけば空は夜に近づき夕日と夜の境目が綺麗なムラサキ色に染まり二人を包んでいた。



一人で出来ないのなら二人で…
二人で駄目なら三人で…
三人で駄目なら皆で……

手を取り相手を支えてあげよう。それが出来るからこそ『人』なのだから。
あとがき
気づけば本文で8000文字超えていたww
でもいいよねっ!これが俺のLSにおける集大成っ!
もう燃え尽きたよ。真っ白になby某矢吹氏
ラスト一話よろしく頼んだ(`・ω・´)ゞ
byJTR