――君はこの旅で多くのものを得た。

――僕の想像以上の結果だ。

――だけど、それは同時に忌むべきでもある。

――得たがゆえに見えてくるもの、解ってしまうもの。

――それが、君に訪れる唯一にして絶対の不幸。

――それは、時に心を失い。理を失い。そして・・・

――大切な何かを失うんだ・・・


第3話 二度目の始まり

 俺の師は言った「強くなるのは簡単だ」と。人が堕落するのと同じくらいに。皆それに気づいていないだけなのだと。
だが、俺はその人と共に歩んでみて初めて理解した。気づけるわけなど無いと。だが、気づけば本当に一瞬だ。これほど簡単なものは無かっただろう。
自分の力を決めるのは自分自身。自分の力を律するのは自分自身。だから、それを変えるだけ。自分の中の枠を変えるだけ。本当にそれだけだった。

正直疑いたくてしょうがなかった。あまりにも簡単であまりにも当然であまりにも・・・非現実だった。
ただ純粋に決め付けることを、諦めることを止めればいいだけ。たったそれだけでよかった。自分が決めていたルール――『制限』を無くしただけ。
「自分は足が遅い」「自分は力が無い」「自分は高くは跳べない」そんな『制限』を自分につけていたらそれを止めればいい。
全て自分に掛けた『制限』、諦めだ。自分の中の理を知り、改め・・・無くす。
それだけで本当に実現した。驚くほどに足は速くなり、在り得ないほどの腕力を持ち、信じられないほどの高さを平然と飛び上がれる。

それが、俺には不思議でならなかった。そんなことで実現してしまう世界が、そんなことが簡単に出来るのに何故皆やらないのか。だから俺は師に聞いた。
「何故皆それに気づかない?」その問いの答えを師は笑っていった。「皆それを気づけないという『制限』をかけてるからさ」と。
そのときは解らなかった・・・その言葉の本当の意味を。そのとき師が笑っていたのになぜか悲しそうに見えた意味も・・・。

そうやって俺は師から学んだ。それは師が俺に意図して教えたのではなく。師の行動を見て俺が学んだ。師の行動は全てが教えそのもののように見えた。
はっきり言ってそれほど長い間俺は学ばなかった。師が唐突に「君はもう十分やっていける。」といって次の日あっさりと姿を消してしまったのだ。
だが、俺は探さなかった。それが俺に合格を言い渡したのだと知っていたからだ。俺はまた一人で旅を続けた。

俺が師と出会ってから半年・・・再び俺は一人で旅に出た。理由のわからない先を見出すことのない旅に・・・俺は戻ったのだ。


「さって……っと。次はどこへ行くかな?この前の遺跡は空振り。その前はちゃちなのしかなかったし……そろそろ……」
 俺が師と別れてから二月ほどがたった。その間俺は各地の遺跡諸々を漁りに漁った。これといった大きな目標があるわけでは無いがとりあえずマテリアルを探し続けた。
基本は空振り。たまに見つけても、どれも小物ばかりだった。この二ヶ月での収穫はたったの一個。かなり大きく強力なマテリアルだけだ。
それでも俺には十分だった。何か目的があるわけでもないが、とりあえず旅だけ続けたい。マテリアル探しはそのついでなのだから。

「……あっ、そういえばここら辺だったよな。」
 地図と睨めっこをしているうちにふと思い出し、地図の上のある場所に目を移す。そこは、師と始めて会った遺跡群のある場所。

「師匠……マテリア回収してたか……?」
 ふと、半年前のことを思い出す。だが、いくら思い出してもあのマテリアルの話をした覚えが無い。つまり・・・

「……行って見るか。もしかしたらまだ手付かずかもしれないし。」
 半刻だけ、考えて次の行き先を決定した。

――それが俺の運命ってやつの歯車をより速く廻す事になるなんて知りもしないで・・・
――あれ以上は・・・無い。あれ以下は嫌って程あるけど・・・あれ以上の・・・

 半年振りに来たその場所はすべてが始めの場所のような気がした。俺自身が覚えている限り。初めての遺跡探索で初めてマテリアルを見つけた日。そして初めて・・・そう。初めて師と出会った場所。俺に新しい可能性を与えた場所。また・・・あの場所に行きたくなった。また新しい何かが始まるような気がしたから・・・だから、俺は地図を仕舞い次の目的地へと歩みだす。

――その時どうして行こうと思ったのだろうか。それは俺自身ですら解らない。
――その時行くのをやめればよかった。あの場所のことを思い出さなければ・・・
――そう。きっと幸せだったのだろう。ただ、何も知らずに世界を飛び回っていただろう。

 風の向くまま気の向くまま。まさにその言葉通り俺は遺跡へと脚を運んだ。遺跡自体はなんの代わり映えもなくそこに佇み続けていた。まぁそれは当然なことだが。だから俺は半年前の記憶を頼りに遺跡の奥へと突き進んでいく・・・迷うこともなく。そしてたどり着いた。
 遺跡の最深部。そこには半年前に見つけたあのマテリアルがあった。やはり、師匠は取っていなかったのだ。


「あの人は……もったいない事して。まぁここで俺が回収するんだからさしたる差はないか。」
 そして、同じミスを犯さぬようにそこだけは慎重に周囲を調べながらマテリアルの前まで行きついにそれを手に入れた。

「半年越しでやっと手に入れたな……さて、帰るか。」
 思い出に浸るのももう終わり。遺跡を後にしようとした。世界へと帰るはずだった・・・。

「……あれ?あれって……もしかして」
だがそれはできなかった。二度目の出会い。それが、また新しい始まりを作ることになったのだから。

「おーい師匠!こんなところで何してるんだー?」
思い出が終わり、世界が終わる――自分の中の世界が